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「ビッグモーター」保険金不正請求は我々の自動車保険にも影響する!? 車所有者全てに波及する「深刻な事態」はあるのか

くるまのニュース 2023年7月24日 16時40分

中古車販売大手の「ビッグモーター」が、自動車保険の保険金を不正に請求したとされる問題ですが、ビッグモーターとは関係ない第三者の自動車ユーザーが加入する自動車保険にも、影響はあるのでしょうか。

■今回の影響で「保険が高くなる」「保険のクラスが下がる」ことはあるのか

 中古車販売大手の「ビッグモーター」が、車両修理にかかる自動車保険の保険金を損害保険会社へ不正に請求したとして、世間を騒がしています。
 
 国土交通省が聞き取り調査に動くなど、大きな問題に発展していますが、この件でビッグモーターとは関係ない第三者となる自動車ユーザーから「加入する自動車保険の保険額が上昇してしまうのでは」と心配する声が聞かれます。果たして影響はあるのでしょうか。

 ビッグモーターの保険不正請求についての報道など見ると、皆さん2つの点を指摘して憤っています。

 ビッグモーターで購入したユーザーが「翌年からの保険料クラスが下がり支払う金額が高くなるのでは」という点と、「自動車ユーザー全体の保険料が高くなるのでは」という点です。

 しかし任意保険の制度を知っている人なら、どちらも「なんで?」と思うことでしょう。

 どうやらメディア関係の皆さんはクルマに乗らないのか、任意保険ってひとつしか無いと考えているのでしょうか。

 例えば、自分のクルマでイメージしてください。自動車保険を使うケースは2つあります。

 1つめは、自損事故までカバー出来る「車両保険」に入っており、自分で運転して壊したり、雹(ひょう)害にあったクルマの修理をしてもらうケース。

 2つめは、追突などされて被害者になり、相手の保険会社にお金を出してもらうケースです。

 1と2では大きな違いがあります。

 1だと自分の加入した自動車保険を使うのに対し、2で使われるのは加害者側の自動車保険から支払われます。

 1のケースだと、当然ながら車両保険を使えば翌年からの等級は下がるため、保険金の支払いが増えます。

 これはビッグモーター以外であっても、等しく同じ仕組みで運用されています。

 ただ、修理金額による等級の差は基本的にはありません。

 仮に20万円かかる修理に対し、今回のビッグモーターの件で報じられているように修理工場側が14万円のノルマ分の修理代を上乗せしたことで、トータルの修理代が34万円になったとしても、等級は同じだけ下がることになります。

 また自分の保険を使う訳ですから、請求明細も出てきます。ブツけていなかった場所まで修理されていれば、誰だっておかしいと思うことでしょう。

 ただし、もしユーザー自身が修理工場と共謀した(あるいは事前に知っていて黙認した)と認められる場合は、また話が変わってくる可能性があるかもしれません。

 一方で、2の事故被害者のケースで使われる保険は、基本的に加害者側にあります。

 もちろん事故の状況によっても異なりますが、100%先方の責任である場合には、自分の保険等級が下がるようなことなどないのです。

 強いて言えば、相手側の保険等級に影響があるものの、これまた金額に関わらず、もちろん利用した修理工場や販売店がどこであろうと、保険を利用すれば等級はダウンします。

 ということを知っていれば「翌年からの等級が悪くなる」という報道内容は「論点がズレている」とわかることでしょう。

 自動車業界からすれば、最初から「メディアはナニを言ってるんだ?」という状態です。

■保険の不正請求は氷山の一角!? ビッグモーターの問題点は別にある

 もうひとつの争点である「全体の保険料が高くなる」について考えてみます。

 気持ちとしては解りますが、任意保険のシステムはもう50年以上に渡って運用されていますし、データだって揃っています。

 ビッグモーターで修理した事故だけ金額が高ければ、いずれすぐに解ります。だからこそ、1年くらい前から怪しいと感じた3社で調査を始めています。

 今回のような騒ぎにならなかったとしても、ビッグモーターに対する査定は厳しくなったと思うし、そうやって不正請求にブレーキを掛けてきました。

今回の一連の報道で、中古車販売業界や自動車整備業界全体への悪影響を危惧する声もあがっています[画像はイメージです]

 やがて、ビッグモーターに対する保険金の支払い査定が厳格化されると考えられるため、皆さんが支払う保険料まで高くなることは考えにくいでしょう。

 むしろ全体で見ると、近年の「衝突被害軽減ブレーキ」(いわゆる自動ブレーキ)の普及などで、絶対的な事故件数や1件あたりの修理支出が減っているため、直近だと自動車保険料は安くしていく方向にあるようです。

 そうそう。メディアの報道では、故意にパンクさせたうえで、保険を使い新品のタイヤ交換をする映像というも出回っています。

 あれは一般的な保険でなく、最近流行りの「パンク補償」というもので、他の販売店などでも行われているものです。

 ビッグモーターの場合、中古車購入時に補償加入額を1万円払うと「2年以内のパンクなら10万円を上限でタイヤ4本新品に交換します」という内容になっていました。

 整備に出したお客のタイヤをパンクさせ「パンクしてましたから、タイヤ補償を使って4本新品にしました」という訳です。

 これまた「そんなことしたら保険料が高くなる!」とトンチンカンなことを言って怒る人も居るようです。

 タイヤ補償の制度についてビッグモーターは、保証会社と単独で独自契約をしていて、社会的な影響はほとんどないと言ってよいでしょう。

 どうやらビッグモーターでは、残り山の少ないタイヤが付いていた中古車に対する顧客サービスのひとつとしてやっていたつもりのようです。

 ただしビッグモーターのタイヤ補償制度で交換されるのは国産銘柄ではなく、新興国ブランドの安いタイヤ指定、さらに工賃も別途請求されるとのことで、さほどお得な制度ではないことがわかります。

 それでいて保証会社には満額請求していた(異なる銘柄で請求する虚偽の報告か)とも報じられており、果たしてユーザーにはどう説明していたのでしょうか。

※ ※ ※

 会社としての倫理観はひとまず置いておいたとして、ここまで読んで頂ければ解る通り、少なくとも保険金の不正請求に関しては、顧客に対するデメリットがほとんどないのも事実です。

 このほかにもメディアでは、ドライバーで車体を故意に傷付けたりする手口も報じられています。

 追突事故などでバンパーの損傷が小さい時に、バンパー全体を交換するため、被害を大きくして加害者側の保険会社に請求するような時に使っているようです。

 したがって被害者側からすれば、バンパーの部分修理&塗装でなく、新品に交換となるため、語弊を恐れずにいえば「ありがたい」結果になります。

 むしろ、今回騒動となったビッグモーター不正の本丸は「悪事のデパート」にあると筆者(国沢光宏)は考えます。

 具体的に挙げると「諸費用の水増し」「コーティングしてないのに料金を取る」「使えるバッテリーにダメを出して交換するなど過剰整備」「中古部品を使ったのに新品部品の料金を取る」「買い取る際、事故車だと判明した時の減額をカバーする補償」など……もう怪しいケースがテンコ盛り!

 前出の「安タイヤで補償」も含め、ビッグモーターの倫理観を疑うものばかりです。

 つまり今回の保険金の問題は、あくまで氷山の一角だと考えます。

 そして繰り返しになりますが、我々自動車ユーザーが加入する自動車保険の仕組み自体に対しては、影響が及ぶことはないといえます。

[編集部注記:2023年7月25日、本文の一部を修正しました]

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