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FCVは「終わったクルマ」じゃない!? トヨタとBMWが共同で進める戦略は? 今後さらに加速する要因とは

くるまのニュース 2023年7月27日 17時40分

トヨタとBMWは共同で水素シンポジウム開催しました。どのような内容が話されたのでしょうか。

■FCVは「終わったクルマ」じゃない? トヨタとBMWが共同で水素シンポジウム開催で確認できたこと

 世界初のFCV(燃料電池車)が2014年に登場してから早9年経ちますが、あまり普及している印象を覚えない人もいるかもしれません。
 
 その一方で、最近では水素に関する話題がネットやテレビで紹介される機会が「増えてきたな」と感じている人もいるでしょう。
 
 では、現在、そして今後のFCVはどうなるのでしょうか。

 直近では、BMWの都内施設で2023年7月26日に開催されたシンポジウム、「カーボンニュートラリティのキーテクノロジー ~水素の利活用の推進」が開催されました。

 BMWとトヨタの水素開発責任者が登壇して、両社の水素開発がどのようにコラボレーションしているかを説明しています。

 まず、BMWグループ水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長のユンゲン・グルドナー氏は、この前日に日本初公開した燃料電池車「iX5ハイドロジェン」の技術要件も含めて、BMWが目指すカーボンフリーの世界感を示しました。

 その中で、燃料電池車の量産計画については「iX5ハイドロジェンをパイロット・ヴィークルとして、今後の市場動向を見ながら、ステップ・バイ・ステップで次世代燃料電池車の量産を考えていきたい」と将来構想を語っています。

 ここでは当然、トヨタとの技術提携が大きなカギとなります。

 BMWとトヨタは2013年1月24日、燃料電池車やスポーツカー等の次世代技術に関する協業契約に調印しているからです。

「iX5ハイドロジェン」では、トヨタ製の燃料電池セルを使い、BMWが燃料電池スタック等のパワートレインコンポーネンツを独自開発しています。

トヨタの水素ファクトリー・プレジデントの山形光正氏

 続いて登壇したのは、トヨタの水素ファクトリー・プレジデントの山形光正氏。

 水素ファクトリーは、トヨタが次世代の水素戦略の司令塔として2023年7月1日に発足した新組織です。

 水素に係わる基礎研究から量産戦略までグローバルでの事業を一気通貫して展開していきます。

 今回のプレゼンテーションは、2023年4月以降のトヨタ新経営体制に移行してから様々な機会に紹介されてきた「トヨタの水素戦略全体」をまとめた内容でした。

 その中で山形氏は「トヨタは乗用(燃料電池車)は(もう)やらないのですか、というという声を(産業界の人から)聞かれることある」という体験を語っています。

 なぜそうした声が出てくるかといえば、トヨタの電動化戦略の全体像を掴み切れてない人がまだ少なくないからではないかもしれません。

 山形氏は改めて、トヨタが今後「モビリティカンパニー」へ移行するうえで、技術領域では重要な3本柱として、電動化、知能化、そして多様化を挙げています。

 その中で電動化は、BEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電気車)、そしてHV(ハイブリッド車)という大きく4つの柱を、国や地域の社会状況に応じて使いわける、マルチパスウェイで進めている点を示しました。

■水素戦略は消費量&様々な技術展開がカギとなる?

 このうち、燃料電池車について、クルマの種類別で年間水素消費量の比較した図表を公開。

 これは、「燃料消費量×走行距離」から割り出した数字を基に算出しています。

 それによると乗用車「MIRAI」を基準として「1」と仮定し、小型トラックでは19倍、大型バスで30倍、国内向けの25トン級の大型トラックで62倍、さらに欧米での44トン級の大型トラックになると実に119倍という大きな消費の差になることがひと目で分かりました。

 これを見て「やっぱり商用車優先で、乗用車は後回しなのか?」という考えを持つ人もいるでしょう。

 しかし、けっして「後回し」ではなく、これまでトヨタや培ってきた燃料電池車の技術をより多くの商用車によってリアルワールドで利活用すること。

 それが、今後の乗用燃料電池車の技術の進化と、量産効果による車両価格や水素価格のコスト削減につながると言えます。

 トヨタとしては、MIRAIの燃料電池システムで開発してきた各種技術や構成機器や部品を、大型トラックはもとより、鉄道、フォークリフト、船舶、定置型電池などにモジュール化することで、水素を使う社会を広げていく構えなようです。

 こうしたトヨタの取り組みと、BMWのカーボンニュートラル戦略が上手く連携している例が今回のモデルと言えます。

 具体的には、初代「MIRAI」の燃料電池技術を、「5シリーズGT」での燃料電池車に採用。

 そして今回の「iX5ハイドロジェン」では2代目「MIRAI」の技術がベースとなっています。

クルマの種類別で年間水素消費量の比較した図表

 今後、トヨタは2026年の量産を目指す第3世代燃料電池の量産開発を進めているところです。

 BMWとしては、先に紹介したように「iX5ハイドロジェン」を「パイロット・ヴィークル」としており、2020年後半には様々な乗用燃料電池車の量産を考慮しています。

 つまり、それら次世代BMW燃料電池車には、トヨタの第3世代燃料電池が搭載される可能性が高いかもしれません。

■トヨタ&BMWだけじゃない! ホンダ×GMも水素でタッグを組む!

 その他乗用燃料電池車では、ホンダがGMの技術連携して、アメリカで生産する「CR-V FCEV」を2024年に日本に投入することを明らかにしています。

 さらにホンダは、いすゞが2027年に導入予定のFC大型トラック向けにFCシステムを開発・供給することを合意しました。

 また、ヒョンデも韓国政府が進める大規模な水素戦略の枠組みを活用して今後、グローバル向けに次世代燃料電池車を導入する可能性が高いと言えます。

 このような、自動車メーカー各社がこのタイミングで燃料電池車の開発強化に乗り出している背景には、国や地域での政策の存在があります。

現在は次世代水素社会を目指して「燃料電池車普及に向けた最終調整期」と言える

 なかでも、ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギーセキュリティが大きな課題となった欧州では、欧州連合(EU)が2022年3月に再生可能エネルギー由来の水素戦略「REPowerEU」を公表したことが、欧州での燃料電池車を含めた水素の利活用に大きな影響を与えています。

 さらに、アメリカのインフラ抑制法(IRA)や、中国の主要都市での水素シティ構想などの大きな動きも。

 日本でも、水素基本戦略が2023年6月に6年ぶりに改訂され、水素に関する投資を拡充する動きが一気に速まっているところです。

 こうして燃料電池車に係わるグローバルの動きを俯瞰すると、燃料電池車は決して「終わったクルマ」ではないと言えます。

 いまは、次世代水素社会を目指して「燃料電池車普及に向けた最終調整期」にあるのです。

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