世界初公開された三菱新型「トライトン」は日本への導入が決定。ルノー日産三菱のアラインアンスに属しながら、多くが自社開発のハードを採用。三菱「らしさ」を強く意識したクルマ作りに取り組んでいるようです。
■新型「トライトン」で見えた「三菱らしさ」の追求とは
三菱自動車(以下三菱)のクルマの「らしさ」とは一体どんなところでしょうか。
不祥事が続き、ルノー、日産とのアライアンスに加入、という以降のこの会社のプロダクトからは、濃厚に感じられるものではなくなっていた気がしました。
一方で、風向きが変わってきたのは、2021年に登場した「アウトランダーPHEV」辺りから。今年登場した「デリカミニ」も、その流れの中にあるモデルと言っていいでしょう。
アライアンスのメリットを活かしながら、三菱としての「クルマの理想」が可能な限り追求されたクルマ作り。それが響いたからこそ、両車はユーザーの支持を勝ち取ることができたのです。
そんななか、新たに登場した新型ピックアップトラック「トライトン」も勢いに拍車をかけそうです。
先々代は日本にも少量ながら輸入されたことがあるので、名前を覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
9年ぶりのフルモデルチェンジとなるトライトンの世界初披露は、生産拠点であるレムチャバン工場のあるタイで行なわれました。
首都バンコクのクイーン・シリキット・ナショナル・コンベンション・センターに、500人以上のゲストを招いての盛大な発表会を開催。
トライトンは三菱にとってきわめて重要な車種で、タイから世界100以上の国や地域に輸出され、年間販売台数は20万台以上。三菱の世界販売の約2割を占める世界戦略モデルなのです。
今回のフルモデルチェンジで、トライトンはデザイン、フレーム構造の車体、パワートレイン、運転支援装備まですべてを刷新しました。
シングルキャブ、前席背後に少しのスペースを設けたクラブキャブ、2列シートのダブルキャブの3タイプを用意するボディは、アイデンティティであるダイナミックシールドを大きなラジエーターグリルと融合させた、迫力のフロントマスクでアピールします。
角張っていて水平基調のデザインも力強く、全体の無骨と言ってもいい雰囲気にはまさしく「三菱自動車らしさ」があふれています。
ボディサイズは全長5320mm×全幅1865mm×全高1795mmという堂々としたものとなりました。
先代よりも全方位に大きくなっているのは、従来ユーザーから不満として挙げられていた積載量を拡大するためで、ライバルであるトヨタ「ハイラックス」とほぼ重なるサイズといえます。
サイズアップを可能にしたのが新開発のラダーフレームです。こちらは従来型よりも断面積を65%も増やし、曲げ剛性60%、ねじり剛性は40%の向上を実現しつつも、高張力鋼板の使用比率を増やすことで重量増を抑えたといいます。
実は先代のフレームは、日本にも導入されていた先々代から使われていたものだったので、今回の刷新により実に20年分近い進化を遂げたわけです。
サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン。アッパーアーム取付部を上にずらすことでストロークを増やし、また上下スパンが開いたことでブッシュをソフト化できたといいます。
リアはリーフスプリング式のリジッド。リーフの枚数を減らし、ショックアブソーバーを大径化するなどして、乗り心地を向上させています。
エンジンは、新開発の直列4気筒2.4リッターディーゼルターボユニットを搭載します。特に高出力仕様には新型ターボチャージャー、新燃焼システムを採用して最高出力150kW、最大トルク470Nmを発生。これに6速AT・6速MTを組み合わせます。
そして4WDシステムには三菱ファンならお馴染みともいえる「スーパーセレクト4WD」を採用。トルク感応型LSDを用いて駆動力を前後40:60に配分します。
さらに、ブレーキ制御タイプのアクティブヨーコントロール(AYC)も装備することで、優れたライントレース性を実現しています。車体も車重も大きいピックアップトラックには、思いのほか効果が大きいようです。
駆動モードは後輪駆動、フルタイム4WD、更に4WDローレンジが選べ、ドライブモードは全7つから選択可能です。
■“三菱らしい”次期「デリカ」の開発も想定
実はこれらのハードウェアはすべて三菱が自社開発したもので、アライアンスの活用は電子コンポーネント、運転支援装備といった部分のみとなっています。
加藤隆雄 代表執行役社長 兼 最高経営責任者は、現地で以下のように話してくれました。
「これ(自社開発ハードウェアを採用したこと)は三菱らしい独自性をもったクルマでないと、ファンの支持を得られないという考えを持ったからなのです」
先述した通り、アウトランダーPHEVはアライアンスのプラットフォームを使いつつもPHEVシステムや駆動力制御など、三菱独自の要素を可能な限り注ぎ込み、結果としてその仕上がりが高い評価を得ることとなりました。
5月に発売されたばかりの軽スーパーハイトワゴン「デリカミニ」も同様です。元々の「eKクロス スペース」と異なり、デザインだけでなく走りの面でも独自の哲学を盛り込むことで、これが三菱のクルマだと胸を張れるクルマになりました。
結果としてそんな自信がユーザーにも伝わったのだといっていいでしょう。新型トライトンの開発姿勢も、こうした流れの延長線上にあることは間違いありません。
三菱にとっては屋台骨のひとつである大事な1台であるトライトンは失敗が許されないというだけでなく、ここでブランドの味を表現できていなくてどうするという思いもあったはずです。
「そういうほうが会社としても得だし、お客様にも喜んでもらえるんじゃないかなということですよね」(加藤社長)
もちろん、単独でしっかり台数を稼いで利益を出していかなければならないため、プレッシャーと背中合わせの挑戦であることは間違いありません。
その意味では将来の展開も気になります。たとえばこのフレーム付きのプラットフォームやエンジンは他車種にも使われたりするのでしょうか。
この質問には、長岡宏 代表執行役副社長が答えてくれました。
「今でも、トライトンのフレームを使ってASEANを中心に『パジェロスポーツ』というクルマを出したりしています。
当然、新型をベースにこうしたクルマをということを意識して作っているのは事実。ピックアップトラックの次にSUVも作れるかたちで刷新してきました」
同じタイのレムチャバン工場で生産され、日本には輸出されていないものの、やはり世界各地で販売されているパジェロスポーツの新型も視野に入っていることは想像通りでした。
きっと遠からず同じコンポーネンツを使った新型が投入されるはずです。さらに、次の言葉には正直、びっくりしてしまいました。
「デリカも、このフレームベースで作れないか検討したんですけれども、やはりとてつもない全高になるので、デリカは別のやり方を考えています」(長岡副社長)
デリカD:5の後継車についても、この車体で一旦は検討されたというのです。もし実現していれば、フレーム構造とモノコックを融合させた「デリカスペースギア」の復活となっていました。
いずれにせよ三菱が「らしさ」を強く意識したクルマ作りに立ち返り、内側では様々なチャレンジを行なっていることは間違いないようです。
更にいえば、現行型は2007年デビューというデリカの“次”が何らか検討されていることも示唆されています。
いくら「三菱らしさ」といっても、それがユーザーの望みと異なるものならば、こだわる意味はありません。
ですが三菱の場合、ファンがそれを待っていることはどうやら間違いがなさそうです。三菱自身もそれを改めて認識したということでしょう。
三菱のクルマ作りが、どうやらまた面白いフェイズに入ってきたといっていいかもしれません。まずは2024年初頭にもといわれる新型トライトンの日本再上陸、そしてそれに続く展開が楽しみになってきました。