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なぜ復活!? 日産「スカイライン」に伝統の「GT赤バッジ」再登場! 新型「スカイライン NISMO」に採用された理由とは

くるまのニュース 2023年8月8日 14時50分

日産は2023年8月8日、高級セダン「スカイライン」に新グレード「スカイライン NISMO」を新設定しました。高性能仕様のスポーツモデルですが、懐かしの通称「赤バッジ」を復活させたことで、往年の日産ファンからも注目を集めるモデルとなりそうです。

■新型「NISMO」は60年近く続く「スカイラインGT」の集大成

 2023年8月8日、日産は「スカイライン」に1000台限定のスポーツグレード「スカイライン NISMO(ニスモ)」と、100台限定の特別仕様車「スカイライン NISMO Limited(リミテッド)」を発表しました。
 
 本モデルについて日産では「スカイラインGTの集大成」だと説明し、フロントフェンダーには「GTエンブレム」を復活させました。通称「赤バッジ」と呼ばれるGTエンブレムは、なぜ今回復活したのでしょうか。

 スカイラインは、1957年に登場した初代以来65年以上にわたって続いているモデルで、現在発売されているスカイライン(V37型)は2013年11月に発表された13代目です。

 そんなスカイラインの歴史を語るうえで、特に象徴的といえるのが「GT」の名称です。

 GTとは、グランドツーリングカーの略。高性能であるとともに、長距離ドライブが容易にできるクルマであることを表しています。

 スカイラインGTの歴史は1964年、レース参戦を目的に100台限定で急きょ追加された2代目スカイラインの高性能仕様「スカイラインGT」(S54A-1型)から始まりました。

 当時の高級セダン「グロリア」用の高性能な2リッター直列6気筒エンジンを搭載し、さらにチューニングを施しています。

 そのために、1.5リッターの直列4気筒エンジンを積んだ通常のスカイラインのホイールベース(前後車軸間の距離)を200mmも延長してボンネットスペースを確保し、ロングノーズとなった部分に大きなエンジンを収めたのです。

 高性能仕様の証しとして、S54型スカイラインGTのフェンダーには赤バッジのGTエンブレムが備わっていました。

 今回発表された新型スカイライン NISMOについて、開発責任者である日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC) NISMO商品・戦略企画部チーフプロダクトスペシャリストの饗庭(あいば) 貴博氏は次のように話します。

「開発コンセプトは“The スカイラインGT”です。

 およそ60年前に誕生した初代スカイラインGT(S54型)に対する敬意とともに、GT(グランドツーリングカー)としての集大成として開発しました」

 その象徴のひとつとなったのが赤いGTバッジの復活で、まさにS54系のオマージュだと饗庭氏はいいます。

 1964年から脈々と続くGTカーの資質に、日産のモータースポーツ部門を担うNISMO(日産モータースポーツインターナショナル)のレーシングテクノロジーを融合させ、究極のGTカーを目指したと日産は説明します。

 なお、レース参戦に向けて開発されたS54型初代スカイラインGTは、同年に鈴鹿サーキットで行われた第2回「日本グランプリ」GT-IIレースで、レース専用車のポルシェ「904」と接戦を繰り広げ、わずか1周ながらトップを走ったことから日本中の注目を集め、翌1965年からは正式なカタログモデルとなっています。

 のちに、性能を抑え青いGTエンブレムを装着したスカイラインGTも設定されたことで、高性能版(のちに「スカイラインGT-B」へ名称変更)を外観から見分けるポイントが、レースマシンにも備わっていた赤バッジとなりました。

 その後、ポルシェに対抗するレーシングマシン「R380」で開発された高性能な2リッター直列6気筒DOHCエンジンを、3代目スカイライン(通称「ハコスカ」)に搭載したのが1969年発売の初代「スカイラインGT-R」(PGC10型)で、赤バッジも継承されています。

 2代目スカイラインGTに続き、初代スカイラインGT-Rはレースへ参戦し、前人未到の50連勝の大記録を叩き出したことで、スカイラインの「赤バッジイコール高性能仕様」というブランド性がここで確立されたのです。

 その後もスカイラインは常に日産を代表するブランドとして高い注目を集め続け、伝統のGT名もグレードに受け継がれています。

■初代スカイラインGTとのつながりを実感させるレース直結の技術を満載!

 前出の通り、現行型スカイラインは2013年に登場。2019年には、同一車線内ハンズオフ(手放し運転)可能な先進運転支援機能「プロパイロット2.0」を国産車で初搭載(ハイブリッド車に設定)したほか、3リッターV型6気筒ツインターボエンジン搭載の高性能仕様「400R」を設定するなど、先端技術の数々も投入されました。

 このことからも、日産にとってスカイラインは、今もなお技術の象徴として重要な車種の位置付けであることがうかがえます。

バンパー開口部のロアグリル形状は、S54型スカイラインGTや、続くPGC10型スカイラインGT-Rのヘッドライトからグリル部につながる強い造形からインスパイアされたデザインだといいます

 しかし2021年6月には、一部新聞紙上などで「スカイライン廃止へ」との報道があがったことから「老舗ブランドがついに消滅か」と大きく話題になりました。

 しかしそのわずか3日後には、日産の星野朝子副社長が新型車発表の会見で「日産自動車はスカイラインを決してあきらめない」とブランド存続の意向を表明し、事態を収束させています。

 ただし改良を重ねながら、2022年にはプロパイロット2.0搭載モデルをラインナップから廃止し、同時にハイブリッドモデルもなくなるなど、近年は徐々にモデル規模が縮小しているのも事実でした。

 こうした経緯があったなか、デビュー10年目を迎えた2023年8月、日産は新型スカイライン NISMOシリーズを発表しました。

 もともとレース参戦の目的で始まったスカイラインGTが、記念すべき60周年を目前に、再びNISMOの手によって扱われることに、日産のスカイラインに対する情熱の深さを感じずにはいられないところです。

 まず新型スカイライン NISMOのエンジンは、レース用マシンのエンジン開発を手掛ける開発者が、同じ開発設備を使いチューニングを実施しています。

 これは、レース由来で誕生した初代S54型スカイラインGTや初代スカイラインGT-Rといった、歴代の赤バッジモデルとも共通するものといえます。

 スカイライン400R(最高出力405ps・最大トルク475Nm)の3リッターV型6気筒ツインターボエンジンを、最高出力420ps・最大トルク550Nmまで大幅に性能向上させました。

 トランスミッションはベース車同様のマニュアルモード付7速ATですが、新型スカイライン NISMOでは変速スケジュールを変更。

「スタンダード」モードでは日常域での力強さと気持ちの良い加速の伸びを可能とする一方、「スポーツ」および「スポーツ+」モードでは、高回転を維持し、スポーツ走行時に高レスポンスな走りを実現させました。

 この高性能に対応すべく、リアタイヤ幅を20mm拡大した専用開発の高性能タイヤや、専用エンケイ製19インチアルミホイール、専用チューニングのサスペンションやスタビライザーを採用。

 ブレーキの材質やABS制御の最適化、限界走行時のコントロール性を高めたVDC(ビークルダイナミクスコントロール:横滑り防止装置)のチューニングも行われています。

 さらに、GT-Rの高性能版「GT-R NISMO」にも採用する高剛性接着剤を前後ウインドウシールドガラスに採用したことで、車体剛性もアップ。具体的には、全体ねじり剛性で約15%向上させたといいます。

■外観デザインのコンセプトは「羊の皮をかぶった狼」!?

 外観デザインもまた、レーステクノロジーを全面に活かした設計としています。

 日産のグローバルデザイン本部 森田 充儀 主査は、新型スカイライン NISMOのデザインコンセプトについて「よみがえる“羊の皮をかぶった狼”」だと説明します。

オプションで備わるNISMO専用チューニングのRECARO製スポーツシートはホールド性能の高さだけでなく、着座時の耐圧分布を最適化したことでグランドツーリングの快適性も確保したといいます

 初代S54型のベースである2代目スカイラインは、端正なデザインの穏やかなファミリーセダンでした。

 これを高性能なレーシングマシンに仕立てたことから、初代スカイラインGTは「羊の皮をかぶった狼である」と当時評されたのです。

 初代スカイラインGT-Rも同様に、外観はベースのスカイラインGTと大きく変わるところはなく、この“羊の皮をかぶった狼”のキーワードは、その後もスカイラインの代名詞となりました。

 とはいえ420psという、当時に比べ圧倒的な高性能を得た新型スカイラインNISMOでは、この性能向上のためのデザインとして、空力性能を味方につけています。

 具体的には、前後バンパーとサイドシルに専用デザインを与え、バンパー部のロアグリルメッシュもオリジナルとしているほか、オプションとして専用のリアスポイラーも設定しています。

 サイドシル後端のキックアップした形状は、初代スカイラインGTや、初代スカイラインGT-Rが採用した「サーフィンライン」形状を進化させたものだといい、こうした細部にもスカイラインGTの伝統を感じさせるものとなっているのが、ファン泣かせなポイントといえます。

 もちろんデザイン性だけではなく空力性能も向上させ、CD値0.27(400Rは0.28)、CL値は0.04(400Rは0.10)をマークします。

 内装は黒基調にまとめられ、NISMO専用本革巻きステアリングや、280km/hスケールのメーターなどの専用パーツを配置。さらにオプションで、NISMO専用チューニングのRECARO製スポーツシートも用意しています。

■R32スカイライン開発にも携わった「匠」がチューニングを担当

 なお100台限定のスカイライン NISMO Limitedは、日産横浜工場でGT-Rのエンジンを組み立てる「匠ライン」にて、 特別な資格を持つ匠がひとつひとつを手組みで作り上げる高精度なエンジンを搭載するほか、艶消しガンメタリック塗装のホイールを特別装備するとともに、匠ラベルや専用シリアルナンバープレート、専用エンブレムなどを装着します。

 新型スカイライン NISMOは、2023年9月より1000台限定で販売されます。販売価格(消費税込み、以下同)は788万400円。RECARO製スポーツシート+カーボン製フィニッシャー装着車は847万円です。

 100台限定のスカイライン NISMO Limitedについては、初代スカイラインGT誕生60周年を迎える2024年夏に発売される予定で、販売価格は947万9800円です。

1964年5月に開催された第2回「日本グランプリ」で総合2位に入賞したプリンス「スカイラインGT」39号車(砂子 義一選手)のGT-IIレース参戦車両(写真はレプリカモデル)には赤バッジのGTエンブレムが備わっていました

 新型スカイライン NISMOでもうひとつ注目したいのは、開発陣のなかに、1980年代から2000年代にかけて歴代のスカイラインや、その系譜につながるモデルの開発ドライバーが関わっているという点です。

 NMC カスタマイズ開発実験部で車両評価の責任者を務めた神山 幸雄氏は、かつて日産で1989年登場の8代目スカイライン(R32型)から、2007年登場の「GT-R」(V35型)に至るまで、各モデルの走行性能評価に携わってきた「匠」のひとりだといいます。

 なかでも8代目スカイラインの開発を行っていた1980年代後半、日産は「P901運動」(1990年に世界一の走りを目指す)を実施し、欧州車に追い付け追い越せと目標を掲げていた時期でした。

 結果、R32型スカイラインは世界水準の優れた操縦性能を得ることで、その後のスカイラインGT-Rの世界的な高い評価にもつながる事になりました。

 当時の開発と新型スカイライン NISMOがどう結びついているのか、神山氏は次のように話します。

「自身でも、当時開発に携わった10代目スカイライン(R34型:1998年~2002年)にいまだに乗っていますが、20年以上経った今でも、GTカーとしてバランスの良いクルマだと思っています。

 今回の新型スカイラインNISMOも、こうした歴代スカイラインが持つGTカーの良さを踏襲できていると自負しています。

 走りも楽しめますし、一方で家族とのドライブも快適な移動ができるよう、上手くバランスさせることに苦心しました」

※ ※ ※

 しかし新型スカイライン NISMOがスカイラインGTの集大成であるなら、車名に肝心の“GT”が入らないのはちょっと物足りないところです。

 開発をまとめた饗庭氏は、こう説明します。

「実際、車名については社内でも議論となりましたが、赤バッジはあくまで記念のエンブレムであると考えます」

 そして饗庭氏は、次のようにも話します。

「スカイラインというと、近年のモデルや歴代のスカイラインGT-Rに話題が集まります。

 しかし新型スカイライン NISMOの登場をきっかけに、初代スカイラインGTであるS54系の時代にも思いを馳せて欲しいと考えます。

 レース参戦に間に合わせるため、必死で取り組んだという先人たちの情熱的なクルマ作りについて、改めて注目して欲しいです」

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