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ミシュラン「e・PRIMACY」「PILOT SPORT EV」をテストコースで試乗 電動化時代に向けた最新タイヤの実力は?

くるまのニュース 2023年8月12日 21時10分

ミシュラン史上で最も低燃費なプレミアムコンフォートタイヤ「e・PRIMACY」とスポーツEV・スポーツハイブリッド専用タイヤ「PILOT SPORT EV」をモータージャーナリストの岡本幸一郎氏に試してもらいました。

■2050年までにすべてを持続可能なタイヤに

 タイヤというのは、主原料の天然ゴムに加え、合成ゴム、金属、繊維、加硫用の硫黄など、200種類以上の素材で製造されています。ミシュランの場合、すでに天然素材もしくはリサイクルされた持続可能な原材料を30%使用していますが、それを2030年までに40%に引き上げることを目標にしています。さらに、「Everything will be sustainable」というスローガンを掲げ、2050年までに全てを持続可能なタイヤにするとコミットメントしています。

 持続可能なタイヤへの取り組みの一例として、エアレスタイヤ「ミシュラン アプティス・プロトタイプ」での公道における試験走行が挙げられます。シンガポールにおいて、DHL Expressとの提携により、最終拠点から配送先までの区間でおこなっているもので、2023年末までに約50台の車両が走る予定となっています。

 パンクにより早期廃棄となるタイヤは世界中で年間2億本(=200万t)にも上ると推定されています。さらに、空気圧管理等のメンテナンス負荷やパンクによるダウンタイム、廃棄タイヤの抑制によって環境負荷などを低減できることから、持続可能なタイヤとしてエアレスタイヤへの期待は小さくありません。
 
 また、2025年をめどに開発中の「標準タイヤ」のプロトモデルでは、天然ゴムの割合を増やすとともに、カーボンブラック、ひまわり油やバイオ由来樹脂、もみ殻性シリカ、再生スチール等を使用し、サステナブル素材の含有率を引き上げることに成功したそうです。

 さらに、LCA(=ライフ・サイクル・アセスメント)に対しても、原材料調達から使用後それぞれの段階で考慮し、2050年までに、前述の原材料はもとより、CO2排出量ゼロの生産工場の実現、輸送時におけるCO2排出量の削減、省資源でより低転がり抵抗かつ長持ちするタイヤの開発、現在の廃棄物の将来的な資源への変換などの取り組みをしていく予定です。

 中でも、使用中の性能がLCAに大きく影響する、耐摩耗性能と転がり抵抗について、新規開発製品では常にLCAのスコアを管理して注力し、タイヤの交換頻度を減らし、CO2排出量を低減していくとのことです。

 そんなミシュランの現在を象徴する、主に電動車に向けたサステナブルな2つの製品があります。ミシュラン史上で最も低燃費なプレミアムコンフォートタイヤであり、少し前にコンパクトカー・軽自動車の電動車向けサイズが追加されたばかりの「e・PRIMACY」と、スポーティな電動車に向けて開発された「PILOT SPORT EV」を、栃木県のGKNのテストコースで開催された「サステナブル試乗会」の場で試すことができました。

ウエットのハンドリング路で「e・PRIMACY」と「ENERGY SAVER 4」を比較試乗

 まずは、「e・PRIMACY」を装着したサクラを、ウエットハンドリング路で乗りました。「e・PRIMACY」は、転がり抵抗性能「AAA」を21サイズで達成(7サイズ取得中)するとともに、静粛性や性能維持力も高められています。同じウエット性能が「C」で、転がり抵抗が「A」のミシュランの低燃費タイヤである「ENERGY SAVER 4」と乗り比べることもできました。

 このコースは水をまくとかなり滑りやすく、ウエット性能が同等の一般的なタイヤで攻めた走りを試すと、アンダーステアに終始しますが、「e・PRIMACY」は滑る中でも粘り腰のグリップがあり、コントロール性が高く、リアも程よく流れ、常に回頭性が確保されるので安心して走れます。

 一方で、同じように走れるはずと思った「ENERGY SAVER 4」が、意外にもロードノイズが大きく、コースインすると全体的にグリップがやや低く感じられたことに驚きました。それゆえ最大Gが上がらないので、同乗していた編集担当氏は、いくぶん楽に体を保持できたそうです。ただし、ターンインでのノーズの入り方や、アクセルオフでリアが絶妙に巻く感覚は「e・PRIMACY」と似ています。そのあたりはミシュランならではのノウハウがあるのでしょう。開発のタイミングや技術によるものか、同じ「C」でも幅があることがよくわかりました。

 また、ノートe-POWERに「AA」の「e・PRIMACY」と「A」の「ENERGY SAVER 4」を装着して、転がり抵抗の違いによりどのような差があるのかのデモを見学しました。車両をキャリアカーに乗せて荷台を斜めにしてどこまで惰走するかを比べると、思った以上に差がつくことに驚きました。「AA」と「A」の差は小さくありません。

■摩耗状態のタイヤでフルブレーキ!その時の「e・PRIMACY」の実力は?

 続いて散水路でのウエットブレーキングでは、14インチの「e・PRIMACY」と他社の同等性能のタイヤを装着したサクラで、新品と残り溝を2mmに減らしたタイヤでどれぐらい落ち込むのかを比較しました。2mmというと車検に通らないレベルです。車両に搭載された計測機器で、70km/hから完全停止までの所要時間および距離と、アベレージおよびピークの減速Gが表示できるようになっています。

ウエット路面でのブレーキテストでは、新品状態と摩耗状態の比較を実施

 スタート地点はドライ路面で、まずそこで発進時に空転するかしないかという違いがありました。さらにウエット路面で車速が70km/hを超えたところでフルブレーキングすると、「e・PRIMACY」は、ABSの作動が緻密で、初期から停止するまでしっかり減速Gが維持されるのに対し、他社のタイヤは全体的に制動感が低く、なかなか止まってくれない印象でした。

 ざっくりいうと、やはり「e・PRIMACY」の新品が突出していて、同銘柄の残り溝2mmだとさすがに新品ほどの減速感はないにせよ、制動距離は奇遇にも他社タイヤの新品とほぼ同じでした。ところが、他社タイヤの残り溝2mmは、「e・PRIMACY」と比べると、制動距離がはっきりと大きく伸びてしまいました。あくまで特定の条件における一つの結果なので、数字はあまり具体的にできず、参考程度にしていただければと思いますが、体感したことが現場で機器に表示された数字と見事に一致している傾向が見られました。

 とにかく「e・PRIMACY」の新品時の性能が高く、しかも2mmまで減っても落ち込みが比較的小さいことが印象的でした。長期間使っても高い安全性が維持されると考えてよいでしょう。加えて、ミシュランならサステナブルなタイヤが苦手としそうなウエット路面でもしっかり走れることがよくわかりました。

クラウンクロスオーバーRSには、21インチサイズのミシュラン「e・PRIMACY」が純正採用されている

 次いで、「e・PRIMACY」を装着したクラウンクロスオーバーRSで外周路を走り、快適性とハンドリングのよさを確認しました。

 クラウンクロスオーバーRSには、225/45R21と最近よくある大径なのに幅が細く低扁平(へんぺい)サイズの「e・PRIMACY」が純正装着されています。市販品に対して本来の性能を落とすことなく、NVH(=ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)性能をはじめ、燃費や耐摩耗性を高めるためのチューニングが施されています。

 RSということは、強力な2.4Lターボエンジンと組み合わされたハイブリッドシステムを搭載するほか、後輪操舵(そうだ)についても標準グレードに比べてよく曲がるようにされているのですが、それにもかかわらずこういう場で攻めた走りを試してもしっかり応えてくれることがわかりました。素早いステアリング操作にも応答遅れなくついてきて、リアの揺り戻しもなく、ヨーの収束が速く、荒れた路面を走ってもフラットで、乗りやすくてバランスのよい上質な走りを実現しています。こうした高級車にふさわしく、静粛性もおおむね良好だったように思います。

255/45R20 サイズの「PILOT SPORT EV」を装着したIONIQ 5で外周路のバンクを走行中

 さらには、「PILOT SPORT EV」を装着したIONIQ 5でも、同じように攻めた走りを試してみたところ、BEVゆえ車体が重く加速も瞬間的に大きなトルクがかかるにもかかわらず、物ともせず一体感のある走りを楽しむことができました。これほど操縦安定性が高いと乗り心地が硬いのではと危惧していたのですが、荒れた路面を含めこのコースを走った限りでは問題ないように感じました。

 こうした技術の進化と一つ一つの積み重ねにより、いつか本当に全てがサステナブルなタイヤになる日が訪れることと思いますが、そのときには性能面でも大きな進化を果たしていることが期待できそうだと今回の試乗でつくづく感じた次第です。

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