鉄製のホイール(スチールホイール)ですが、一部のユーザーからは「鉄チン」と呼ばれるなど根強い人気を誇っています。そもそも、「鉄チン」の「チン」とはどのような意味なのでしょうか。
■「鉄チン」を漢字で書くと「鉄砧」?
近年ではめずらしくなりつつある鉄製のホイール(スチールホイール)ですが、一部のユーザーからは「鉄チン」と呼ばれるなど根強い人気を誇っています。
そもそも、「鉄チン」の「チン」とはどのような意味なのでしょうか。
クルマのホイールの素材には、鉄やアルミ、カーボン、マグネシウムなどが用いられますが、現在では軽量かつ安価で加工もしやすいアルミ製のホイールが純正採用されることが多くなっています。
一方、商用車やコンパクトカー、軽自動車の一部のグレードなどでは、鉄製ホイール(スチールホイール)が装着されることがあります。
スチールホイールは鉄をプレスして形成するため、コスト面ではそのほかの素材を用いたホイールより優れますが、複雑なデザインとすることは難しいという特徴があります。
そのため、現在スチールホイールが純正採用されるのは、コストパフォーマンスを優先する一部のモデルに限定されています。
しかし、無骨な印象を持つスチールホイールはタフ系カスタムやレトロ系カスタムを好むユーザーなどから根強い人気があり、そうしたユーザーからは「鉄チン」の愛称で親しまれています。
スチールホイールという意味で「鉄チン」という表現が用いられるようになったのは、遅くとも1970年代頃のことと考えられます。
当時、アルミホイールが市場に流通するようになり、従来のスチールホイールとアルミホイールを区別する必要が生じるなかで「鉄チン」という表現が登場したものと考えられます。
ところで、「鉄チン」の「チン」とはいったいどのような意味なのでしょうか。
その由来には諸説ありますが、「砧」の音読みであるとするのが最も主流となっている説のようです。
「砧」は訓読みでは「きぬた」と読み、布を柔らかくしたりつやを出したりするために木槌や棒などで叩く際に使用する台のことを指していました。
「きぬた」は「衣板(きぬいた)」が変化したものであるということを考えると、意味がつかみやすいかもしれません。
つまり、「鉄砧」とは鉄製の砧であり、金属を打ち付けて加工をする際に使用する台のことを指しています。
鉄のかたまりである「鉄砧」と、同じく鉄のかたまりであるスチールホイールが似ていることから、スチールホイールのことを「鉄チン」と呼ぶようになったと言われています。
■もしかしたら「トン・チン・カン」が由来の可能性も
ただ、この説にはいくつかの疑問があります。
「鉄砧」は金属加工がはじまった頃から存在すると見られるなど、非常に古い歴史を持っているようです。
しかし、いくつかの文献を見ると「鉄砧」という表記は見られるものの、その読みは「かなとこ(かなどこ)」や「かなしき(かなじき)いう例が多く、「てっちん」と読む例は皆無です。
また「金床」や「鉄床」、「金敷」や「鉄敷」という表記も多く、「鉄砧」と書いて「てっちん」と読むことが一般的であったとは断定することはできません。
さらに、そもそも「鉄砧」とスチールホイールが似ているのかという点にも疑問があります。
そこで、もうひとつの説が浮かんできます。
それは、鉄を加工する際の音に由来するというものです。
ハンマーを用いておこなう金属加工の音を「トン・テン・カン」と表現することがありますが、熟練していない人の場合だと「トン・チン・カン」と表されます。
「見当違いなこと」を意味する「トンチンカン」はここに由来していると言われています。
スチールホイールが「見当違い」なものであるというわけではなく、親しみを込めて鉄を表現する際に、最も語感の良いものとして「チン」が採用されたということが考えられます。
いずれにせよ、「鉄チン」という表現は極めて限定的なものであると見られ、金属加工を生業とする人たちや、クルマをカスタムする人たちの間で徐々に広まってきたものであることは間違いないようです。
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クルマのエアロパーツのひとつに「チンスポイラー」と呼ばれるものがあります。
「鉄チン」と同じく「チン」という表現が用いられていますが、「チンスポイラー」の「チン」とは「あご」を意味する英語の「Chin」に由来しているため、「鉄チン」の「チン」とは直接関係がないようです。。
これは、「チンスポイラー」を装着するのがフロントバンパーしたであり、ここはクルマのフロントを顔に見立てた際にあごに当たることからその名が付けられたとされています。