スズキ「ワゴンR」には軽自動車規格ではない仕様が存在します。日本ではまず見ることのできないモデルですが、いったいどこで走っているのでしょうか。
■ワゴンRは軽自動車のイメージを刷新した重要な1台
軽自動車の代表格とも言えるスズキ「ワゴンR」。
実は「軽自動車ではない」バージョンのワゴンも存在すると言います。
「日本の自動車史に残る軽自動車」を10台挙げたとき、まず間違いなくその名前が上がるのがワゴンRです。
かつて、軽自動車といえば室内の狭いものか商用車ベースのものがほとんどで、どちらも快適性の高いクルマとは言えませんでした。
一方、1990年に道路運送車両法が改正され、軽自動車のボディサイズや排気量の上限が引き上げられることになりました。
そのなかで登場した初代ワゴンRは、可能な限り全高を上げることで居住性や開放感を高め、必要十分なパワーを持つ実用的なモデルであったことから、従来の軽自動車のイメージをくつがえす存在として多くのユーザーから高く評価されました。
ワゴンRの成功を目の当たりにしたダイハツはすぐさま「ムーヴ」の開発に着手し、1995年に発売します。
そこからしばらくの間、日本の軽自動車市場はワゴンRとムーヴという2台の「トールワゴン」を中心に回っていくことになります。
ワゴンRは、2006年から2011年には5年連続で軽自動車販売台数1位を獲得するなど圧倒的な販売台数を記録。
さらに、全高の高い「スーパーハイトワゴン」が売れ筋となっている現在でも常に販売台数ランキングの上位に位置しています。
ただ、販売台数はワゴンRを評価するひとつの尺度に過ぎません。
ワゴンRの本当の価値は、それまで「安かろう悪かろう」という印象の強かった軽自動車を「実用性に優れたコストパフォーマンスのよいクルマ」へと刷新したという点にあります。
そういった意味では、現在販売されている軽自動車の多くは、ワゴンRが切り拓いた道の上を歩んでいると言えます。
このような背景もあり、ワゴンRは日本を代表する軽自動車のひとつとして広く知られています。
■軽自動車ではないワゴンRがある?その正体とは
そんなワゴンRには、実は軽自動車ではないモデルも存在しています。
さらに、あまり知られてはいませんが、そのワゴンRは20年を超える歴史をもち、軽自動車のワゴンRに匹敵するほどの販売台数を誇っています。
そのワゴンRが販売されているのは、2023年に中国を抜いて世界で最も人口が多い国となったインドです。
スズキとインドの関係は古く、現地企業との合弁企業であるマルチ・スズキとして、1983年より現地生産を行なっています。
マルチ・スズキはインドの経済成長とともに業績を上げ続け、現在ではインド国内の乗用車市場で40%を超える圧倒的なシェアを誇っています。
そして、そのマルチ・スズキを支えるのが、軽自動車ではないワゴンRなのです。
マルチ・スズキ版のワゴンRは1999年に発売され、現在までに200万台以上が販売されていると言います。
現在販売されているのは、2019年にフルモデルチェンジを果たし、2022年にマイナーチェンジが施された、インド製としては3代目にあたるモデルです。
Aセグメントのコンパクトカーという位置付けのマルチ・スズキ版ワゴンRは、全長3655mm×全幅1620mm×全高1675mmと、軽自動車版のワゴンRと比べて全長が260mm、全幅が145mm拡大されています。
当然のことながら、搭載されるエンジンも軽自動車用の660ccのものではなく、1リッターガソリンおよびCNGもしくは1.2リッターガソリンにという、現地の環境に合わせたものとなっています。
軽自動車版ワゴンRよりもひとまわり以上大柄なマルチ・スズキ版ワゴンRですが、ボディサイズに比べて開放感のある広い室内が大きな特徴という点は、軽自動車版ワゴンRと同様です。
また、スズキらしい徹底したコスト削減により、ベースモデルで55万4500ルピー(約97万円)と軽自動車版ワゴンRよりも安価となっています。
このように、2つのワゴンRはそれぞれの市場のニーズに合わせて独自の進化を遂げてはいるものの、コンパクトでありながら高い居住性を持ち、なおかつ安価に入手できるというコンセプトは変わらないようです。
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同じくスズキの軽自動車であるアルトは、日本とほぼ同じ仕様でパキスタンで現地生産・販売されています。
日本独自の規格である軽自動車がほぼそのままのかたちで海外で販売される例はめずらしく、現地でどのように受け入れられるのかに注目が集まっています。