「リムジン」と聞くと、車体が伸ばされたセダンで、要人が使うものというイメージがあります。しかしかつて、ファミリーセダンのトヨタ「コロナ」に「スーパールーミー」というセダンがありました。どのようなクルマだったのでしょうか。
■車体を延長したストレッチ・リムジンの「スーパールーミー」
膨大な種類があるクルマの中には、「これはなんのために登場したのだろう?」と、不思議に思わせるモデルがあります。
その一つが、1990年に登場したトヨタのリムジン「コロナ スーパールーミー」です。
「リムジン(Limousine)」とは、厳密にはドイツ語で「セダン」を示します。
しかしクルマの世界では、黒塗りの運転手付きセダン全体を指す場合や、ホイールベースを伸ばした「ストレッチ・リムジン」がイメージされます。
ストレッチ・リムジンの世界では、前席と後席の間にガラスなどで仕切りが入っているタイプが、より格式が高いといわれています。
リムジンは主に要人が利用するため、基本的には高級車がベースに用いられます。色も「黒塗り」のイメージが強いかもしれません。
日本車でも、過去には日産「セドリック」や「プレジデント」、三菱「デボネアV」などにストレッチ・リムジンを設定していたことがあります。
なお、現在皇室が使っているトヨタ「センチュリーロイヤル」は、センチュリーをベースに特別製作されたリムジンです。
一方、コロナ スーパールーミーは、1987年に発売された9代目(T170型)のセダンをベースに開発されたストレッチ・リムジンで、コロナを取り扱っていた「トヨペット店」の累計販売1000万台達成記念車として、500台限定で発売されました。
このコロナ スーパールーミーは、ホイールベースを210mm延長していましたが、ベースとなった「コロナ」と大きな装備差はありませんでした。
外観では、前後ドア間にガラスが追加されたことが目立ち、専用の2トーンカラーに塗られてはいるものの、ほぼノーマルと同じです。高級な黒塗りリムジン、という印象はありません。
内装も大きく変わらず、シート表皮やダッシュボードはベース車に準じ、本革シートや革巻きステアリングホイールは装備されませんでした。ただし、元々の内装自体の品質が高いので、ストレッチ・リムジン化しても雰囲気に違和感はありません。
そしてノーマルでも十分に広かった後席の足元は、ホイールベースの延長によってさらに拡大。圧倒的とも言える広さを誇りました。
室内長は2120mmにも達し、同時期の「クラウン」のみならず、「セルシオ」や「センチュリー」さえも凌駕していたほどです。それでいてボディサイズは全長4.7m・全幅1.7m以下の5ナンバーサイズに収まっていました。
搭載されるエンジンも、ベース車と同じ2リッターハイメカツインカムの「3S-FE」型。140馬力という最高出力も変わっていません。
しかも驚くことに、価格は発売当時205万円というリーズナブルさでした。ノーマルの上位版「EXサルーンG」が169万円でしたので、その価格差はわずか36万円です。
ストレッチ工事はメーカー自らが行なっているため、その仕上がりは完璧。率直なところ開発費もかかっているはずです。そう思うと、まさにバーゲンプライスです。
■なぜファミリーカーの「コロナ」にストレッチ・リムジンを設定?
では、なぜコロナにこのようなストレッチ・リムジンが用意されたのでしょうか。
コロナはミドルクラスのファミリーカーです。中堅車種として装備は豊富に用意され、高品質を謳っていたものの、高級車ではありませんので、コロナのストレッチ・リムジンという存在には、不思議な印象があります。
当時の専用カタログには、「お隣のコロナより、うちのは大きい」「特別の広さです。ちょっとない豪華さです」「後席でゆったりと足が組める余裕の、のびのびサイズ」などのキャッチコピーが踊ります。
そこからコンセプトを察するに、コロナ スーパールーミーは、コロナを購入する層に向けた、「広くて、ちょっと贅沢で、ステータスがあるコロナ」という提案だったのではないでしょうか。
重要な区切りを記念した限定車の中でも、ストレッチ・リムジンという特別仕様車は、過去に例がないほど格別なスペシャル感があります。
そして当時は「面白そうだから出してみよう」と、次々と変わったコンセプトのクルマが登場したバブル期だったことも、コロナ スーパールーミーを生み出すことができた理由といえるでしょう。
近年の新型車の多くは、売れ筋ジャンルに固定され気味です。開発費をかけてまで冒険をする、ということは少なくなりました。
そのためコロナ スーパールーミーのような変わったモデルはもう、登場しないのかもしれません。時代が生んだ個性派セダンとして、長く記憶に留めておきたいクルマです。