クルマのエンブレムには、「メーカ」「車名」といったものの他にハイブリッド車や電気自動車を示すものなど様々ものがあります。そんな中でかつては排気量や気筒数を意味するエンブレムがありましたが、最近では見る機会が減りました。なぜなのでしょうか。
■昔はよく見たのに「2.5」や「V6」のエンブレムを見なくなったワケ
かつては、エンジンの排気量や気筒数に由来する「2.5」や「V6」などのエンブレムがあしらわれることが珍しくありませんでした。
しかし現在ではほとんど見られなくなっています。そこにはどんな理由があるのでしょうか。
クルマのリアを見ると、ブランド名やモデル名のほかに「2.5」や「V6」などの文字がエンブレムとしてあしらわれていることがあります。
これらの文字は、基本的にエンジンの排気量や気筒数を意味しており、「2.5」であれば2.5リッターエンジンを、「V6」であればV型6気筒のエンジンを搭載していることを表しています。
こうしたエンブレムは、おもに高級車やスポーツカーなどによく見られるものでした。
たとえば、2014年まで販売されていた日産「スカイライン(V36)」では、排気量に合わせて「370GT」と「250GT」というエンブレムが採用されていました。
一方、近年ではエンジンの排気量や気筒数に由来するエンブレムを採用しないモデルも増えているようです。
スカイラインの現行モデルの場合、グレードによって「GT」「NISMO」「400R」といったエンブレムがあしらわれるものの、いずれも排気量やエンジンの気筒数を表したものではありません。
また、トヨタ「アルファード」も、これまでは「V6」のエンブレムが見られましたが、2023年に登場した新型では同様のエンブレムは見られません。
それどころか、現在新車で購入可能な国産車のうち、エンジンの排気量や気筒数に由来するエンブレムを掲げたモデルは皆無です。
エンブレムにおけるこうした変化は、近年のクルマのエンジンが総じて「ダウンサイジング化」していることと大きく関係しています。
2000年ころまでは、排気量が3.5リッターを超えるクラスのエンジンを搭載する国産車も少なくありませんでした。
一方、年々厳しくなる環境規制に対応するためには、エンジンの小排気量化(=ダウンサイジング化)が必要不可欠です。
その結果、現在では一部の高級車やハイパフォーマンスカーをのぞいて、排気量が2リッター以下の3気筒、4気筒のモデルが主流となっています。
ただ、技術の進歩により、排気量が小さくなったエンジンでもパワーやトルクはむしろ向上していることがほとんどです。
また、車両重量の軽量化によるハンドリング性能の向上など、環境性能以上のメリットも多く見られます。
しかし、これまでのルールに従うとどうしても数字が小さくなってしまうため、エンブレムとしての見映えがあまりよくありません。
レクサスやメルセデス・ベンツなど、エンジンの排気量や気筒数に由来せず、記号として数字を用いるように方針転換している例も見られます。
しかし、ほとんどの国産車ではエンブレム自体を削除するという選択をしているようです。
■いまや排気量&気筒数アピールは逆効果?
さらに言えば、近年では「排気量マウント」を取ること自体が忌避される傾向があるようです。
基本的に、エンジンの排気量や気筒数はクルマの格や価格に比例するため、大排気量かつ多気筒のクルマは富の象徴とされてきました。
1980年代から1990年代に代表される、大量消費を是とする価値観が優勢だった時代にはこうしたクルマを保有することがひとつのステータスでした。
一方、世界的に環境意識が高まっている昨今では、大排気量のクルマは時代に逆行した存在と考えるユーザーも増えていると言います。
そうした時代においては、排気量の大きさではなく「エコ」であることをアピールするほうが消費者心理を刺激すると考えられるようになりました。
その結果、環境性能の高いパワートレインを搭載していること、具体的にはBEVやPHEV、あるいはHEVであることをエンブレムによってアピールすることが増えているようです。
ちなみに、BEV専業メーカーであるテスラでは、バッテリーの容量に由来するグレード名をエンブレムとして採用していた時期がありました。
現在では廃止されていますが、今後電動化が進めば、バッテリー容量が新たな付加価値となることがあるのかもしれません。
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エンジンに由来するグレードやエンブレムが一般的であった時代でも、トヨタ「クラウン」では、そうしたグレードやエンブレムを採用していませんでした。
そこには、「いつかはクラウン」を夢見てやっとの思いでクラウンを手に入れたにもかかわらず排気量によるヒエラルキーを感じてしまうことがないようにするという、ユーザーへの配慮があったようです。