中古車の販売価格における「支払総額」の表示が事実上義務化されました。それにより、今後どのような影響が出ると考えられるのでしょうか。
■10月から変わる総額表示とは
2023年10月1日、改正自動車公正競争規約・施行規則が施行され、中古車の販売価格における「支払総額」の表示が事実上義務化されました。それにより、今後どのような影響が出ると考えられるのでしょうか。
2023年10月1日より施行された改正自動車公正競争規約・施行規則では、中古車の販売価格は「支払総額」を明記することが新たに盛り込まれました。
自動車公正競争規約・施行規則は、自動車公正取引協議会が自主的に定めたもので、厳密に言えばこれ自体に法的拘束力はありません。
ただ、その内容は消費者庁の認証を受けたものであるため、これを遵守しないと不当な価格表示として景品表示法違反に問われることになります。
また、中古車販売店の多くが自動車公正取引協議会の会員でもあることから、「支払総額」の明記は事実上の義務化と言えます。
今回の改正自動車公正競争規約・施行規則の影響を大きく受けるのが、「格安」をアピールしていた中古車販売業者です。
中古車情報サイトを利用することが当たり前となった昨今では、「『車両価格』の最も安いクルマ」を検索するユーザーも多いと言います。
それはつまり、同じモデルのなかで最も安い価格が設定された個体は、ユーザーの目に留まりやすくなるということを意味します。
その結果、流通台数の多い軽自動車などでは「車両価格」が「1円」や「1000円」という個体がしばしば見られます。
実際に中古車情報サイトを見てみると本体価格が「1円」という2000年式のスズキ「ジムニー」や、本体価格111円のスバル「R2」が掲載されています。
もちろん、その金額では中古車販売店が利益を得ることができないため、実際の支払総額は10万円以上となることがほとんどです。また、支払総額が30万円以上になる場合もあるようです。
ただ、今後は「支払総額」の重要性が増すことになるため、こうした「1円中古車」はじょじょに姿を消していくものと考えられます。
また、「1円中古車」などの文言を「支払総額」よりも目立つかたちで表示することは、景品表示法違反となる可能性が高く、中古車販売業者にとっても大きなリスクです。
「支払総額」という概念がユーザーに浸透すればするほど「車両価格」の意味が相対的に薄れるため、「車両価格」を格安にするメリットがほとんどなくなると考えられます。
とはいえ、しっかりと「支払総額」を明記してさえいれば、格安で販売すること自体に大きな問題はありません。
そのため、広告宣伝効果をねらうなどの理由で赤字覚悟で「1円中古車」が販売される可能性はあるかもしれません。
■「支払総額」の明記が義務化へ!その詳細と背景は?
今回、「支払総額」の明記が義務化されましたが、「支払総額」とは何を示すのでしょうか。
「支払総額」に含まれるものは、「車両価格」「保険料」「税金」「検査登録手続き代行費用」「車庫証明手続き代行費用」です。保証やメンテナンスパッケージがついている場合、その費用は「車両価格」に含まれることになります。
ごく簡単に言えば、「車両価格」とは、その中古車の「そのまま持って買えるために必要な費用」ということになります。
このような規則が施行されることになった背景には、これまでの中古車価格の不透明さがあります。
これまでは「車両価格」はあくまで車両そのものの価格であり、実際に支払う金額はそこに「諸費用」を加えたものであることが一般的でした。
この「諸費用」には、「保険料」「税金」「検査登録手続き代行費用」「車庫証明手続き代行費用」といった、そのクルマを持って買えるのに必要な費用にくわえ、「整備費用」や「納車準備費用」といったあいまいな名目のものが含まれていることもめずらしくありませんでした。
多くの場合、これらの「諸費用」はカットすることができず、結局「車両価格」を大きく上回る金額を支払わざるを得ないケースが後を立たなかったと言います。
さらに、中古車は「クーリング・オフ」が適用されないことから、そうしたケースでも事後解約することができず、ほとんどのユーザーは泣き寝入りせざるを得ませんでした。
※ ※ ※
最近では、複数の大手中古車販売店によるさまざまな不正が明るみになるなど、中古車業界自体に対して社会から厳しい目が向けられています。
今回の自動車公正競争規約・施行規則の改正は、昨今の不正問題とは直接関係がありません。
ただ、多くのユーザーは「支払総額」の明記の事実上の義務化が中古車業界全体の健全化の一助になることを期待しているようです。