2023年10月5日、ホンダのベストセラーモデル「N-BOX」がフルモデルチェンジし3代目となりました。歴代同様の大ヒットが期待される新型N-BOXはどう進化を遂げたのか、開発の狙いについて掘り下げます。
■歴代「N-BOX」が長年にわたって支持されてきた理由とは
ホンダは2023年10月5日、軽自動車「N-BOX」をフルモデルチェンジしました。
今モデルで3代目となる新型N-BOXは、全面刷新でどのように生まれ変わったのでしょうか。
日本の乗用車は現在、新車販売のうち軽乗用車がおよそ4割近くを占めています。
その軽のなかでも全体の半数近くを占めているのが、背の高いボディと後席両側スライドドアを組み合わせた「軽スーパーハイトワゴン」ジャンルです。
初代N-BOXは、こうした人気ジャンルへ2011年12月に投入されました。
ホンダ独自のセンタータンクレイアウトを採用した新設計のプラットフォームやパワートレインをベースに、エンジンを最小限のサイズに収め、当時の軽乗用車で最大級の広い室内空間を創出しています。
高い着座位置でミニバン並みの見晴らし性能を備えるほか、スクエアなスタイリングも、安定した厚みのある形状のボディ下部と組み合わせた個性的なデザインに仕上げ、強さと安心感を訴求しています。
そんな初代N-BOXはデビュー早々に大ヒットし、常にトップクラスの販売実績を維持しました。
続く2017年8月登場の2代目は、初代のコンセプトを継承させながらプラットフォームを刷新するなど全面的に進化し、初代同様に支持を集めています。
こうしたことからN-BOXは、2015年度から8年連続で軽の年間新車販売台数の1位を記録し続け、日本を代表する主力モデルへと成長を遂げました。
その意味で、新型もこうした高い人気を維持することが必須の開発要件といえるでしょう。
新型開発に際し、ホンダは軽スーパーハイトワゴンカテゴリーのユーザーに満足度調査を実施しています。
そのなかでN-BOXユーザーの満足度は、全ての面で平均を上回ったといいます。
また別の調査で、軽自動車購入者に対し乗り換え前に所有していたクルマを調べたところ、他の軽ユーザーに比べ、N-BOXユーザーは普通車からの乗り換え比率が平均を上回る割合だったといいます。
これらの調査結果を受け、新型N-BOX開発責任者の諌山 博之(いさやまひろゆき)氏は、次のように話します。
「N-BOXが、長年にわたって多くのお客様に愛される理由をひも解くと“総合力の高さ”といえます。
ユーザーの声を分析すると、N-BOXへの満足度は全方位で軽スーパーハイトワゴンの平均を上まわっており、その高い総合力が、普通車(登録車)からの乗り換えを含む多くのお客様に支持されてきたのだと考えます」
そして諌山氏は、新型開発にあたりまず思い浮かべたことについて、こう説明します。
「N-BOXが支持された総合力のすべてを、もう一段高い次元へ引き上げたいという思いでした」
具体的には、歴代N-BOXの価値を磨くとともに、その価値をさらに拡げることを狙ったといいます。
N-BOXの大きな価値である、軽最大級の広い室内は新型でも継承されました。
初代以来の特徴であるセンタータンクレイアウトにより、低い床面の荷室や多彩なシートアレンジが可能です。
そもそも歴代モデルでも、大人4人が十分に余裕をもって座ることが出来る空間でしたが、ホンダでは新型で「寸法には表れない広さ感や居心地の良さに配慮した」と説明します。
そのため、前席の頭上や後席の肩回りの空間を拡大したり、インパネ形状をフラットなデザインとしたほか、前方視界を拡大するため、フロントガラス上方の日除けを目的とした半透明の「ハーフシェード」を廃止するなどの変更を図っています。
前席のみならず後席からの視界も向上したことで、乗員が酔いにくくなる副次的な効果も得られたといいます。
なお室内は収納を整理し大容量グローブボックスを採用するとともに、「見せる収納」としてインパネトレーやサイドポケットなどを備え、ドライバーだけではなく全て乗員の使い勝手を向上させました。
■新型「N-BOXカスタム」のデザインが目指したのは「押し出し感や強さ」にあらず!?
外観のデザインは、初代で確立し2代目にも継承された「N-BOXらしい」安定感ある四角いフォルムを継承しながら、造形をより洗練させることで、シンプルで上質なたたずまいを目指したと説明します。
なかでもN-BOXのエクステリアを最も印象付けているのが、ボディサイドで上下に長い大面積のドアパネル造形ですが、これまで以上にシンプルな面で構成したといいます。
新型N-BOXのラインナップは、初代や2代目同様にノーマルタイプのN-BOXと、内外装のドレスアップを図ったN-BOXカスタムの2タイプが用意されます。
ノーマルタイプでは、身近さを感じさせる丸穴フロントグリルや、瞳を思わせる親しみやすいヘッドライト形状など、シンプルかつ機能的なデザインとすることで、日本の暮らしや街にこれまで以上に調和するエクステリアを目指しました。
ボディカラーはシンプルで親しみやすい色合いとし、ベーシックな7色に加え、白色ドアミラーやドアハンドル、ボディ同色ホイールキャップなどとコーディネイトしたオシャレなカラーパッケージ「ファッションスタイル」を設定し、マスタードを思わせる新色の「オータムイエローパール」など3色を用意します。
なお内装色は、リビングを思わせるグレージュを基本に、グレーとの2トーンファブリックを採用します。
一方N-BOXカスタムでは、先代以上に品格と高性能を感じさせる表現を追求したといいます。
軽の上級版と位置付けられるカスタムモデルは、軽スーパーハイトワゴンでも多くのライバル車に設定されています。
しかしホンダでは、他社にある強さや押し出し感を強調したものではなく、オーナー自らが誇りと満足を感じられ「自分を高めるパートナー」と思えるデザインを目指したと説明します。
そのため、フォーマルさとアグレッシブな走りを予感させるデザインとして、左右ポジションランプとグリル上のアクセサリーランプをつなぐ横一文字ライトや、メッキを控えたグロスブラックのフロントグリル、ホンダ初のダイレクトプロジェクション式フルLEDヘッドライトなど、これまで以上に凝ったシブめのディテール処理が与えられ、派手さは抑えられている印象です。
ボディカラーもスタイリッシュな色調とし、ベーシックな6色のほかブラックルーフツートンも選択可能な「コーディネートスタイル」3色を設定します。
内装はブラックで統一していますが、トリコットシート、スウェード調とレザー調のコンビシート、全面レザー調のフルプライムスムースシートの3タイプを設定します。
■ノーマルタイプのターボエンジン搭載車は設定廃止
パワートレインは、先代で採用した力強く低燃費な特性を持つ660ccの自然吸気DOHCエンジンと、同DOHCターボエンジンをさらに改良し搭載しました。
ホンダによると、エンジンやCVTの制御を細部まで改善したことで、より上質で扱いやすい特性にセッティングしたと説明します。
なお先代ではノーマルタイプにも設定されていたターボエンジンが新型では廃止され、N-BOXカスタムのみの設定となりました。
クルマのベースを支えるプラットフォームも先代N-BOXから継承していますが、剛性を高め、静粛性も改善するとともに、乗り心地や直進安定性、さらにステアリングのフィーリングも向上させたことで、安心感と扱いやすさを高めたといいます。
安全面では、全車標準装備の先進運転支援システム「Honda SENSING(ホンダセンシング)」をさらに進化させています。
約100度の有効水平画角を持つ広角カメラと前後8つのソナーセンサー、そして高速画像処理チップを用いたシステムを採用し、従来以上に高精度かつ広い範囲で対象物の検知を可能としました。
新たに「近距離衝突軽減ブレーキ」や「急アクセル抑制機能」を追加したほか、渋滞追従機能付アダプティブクルーズコントロール(ACC)や車線維持支援システム(LKAS)も、よりスムーズな加減速と操舵でアシストするよう改良が図られています。
このほかホンダの軽として初めて「マルチビューカメラシステム」を設定し、運転をサポートします。
さらに車載通信モジュール「Honda CONNECT(ホンダコネクト)」もホンダの軽で初採用し、新世代のコネクティッド機能が利用できるようになりました。
※ ※ ※
新型N-BOXの販売価格(消費税込み)は、「N-BOX」(FF)164万8900円から「N-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル 2トーン」(4WD)236万2800円です。
加えて、N-BOX/N-BOXカスタムをベースにした福祉車両として、車いすのまま乗り降りできるスロープ仕様車も設定され、価格(消費税非課税)は184万4000円から218万8000円です。