2023年10月11日、日産は室内を車中泊用のベッドなどにアレンジ可能な新型「キャラバン MYROOM(マイルーム)」を発表しました。車中泊人気をいち早く取り入れた日産の狙いについて紹介します。
■2020年登場「マルチベッド」の好調ぶりが後押しに
日産は2023年10月11日、ワンボックス型の商用バン「キャラバン」をベースに、後部の広大な荷室空間を可変式のベッドルームにアレンジできる「車中泊」仕様の新型「キャラバン MYROOM(マイルーム)」を発表しました。
車中泊人気が高まり、キャンピングカーの販売台数も伸びているなか、日産が他社に先駆けて本格的な車中泊仕様を手がける理由はどこにあるのでしょうか。
日本RV協会(JRVA:ジャルバ)が2023年2月に発表した「キャンピングカー白書2023」によると、2022年のキャンピングカー販売総額は、対前年比120%の伸びとなる過去最高の762億円超えを達成したといいます。
右肩上がりの成長はここ10年にわたって続いており、JRVA調べによる国内キャンピングカーの累計保有台数も、過去最高の14万5000台となりました。
このような本格的なキャンピングカー(就寝設備や水道・炊事設備を備えた8ナンバー登録車両)の需要増とともに、主にベッドだけを備えた簡易的なキャンピングカー、いわゆる「車中泊仕様車」の需要も急上昇していました。
軽を除いた車中泊仕様車の販売では、2022年に前年比155%アップの2325台を記録し、車中泊ユーザーのすそ野を広げる役割を果たしていたのです。
こうしたトレンドを、他社に先駆けていち早く取り入れたのが日産でした。
2020年2月、小型商用バン「NV200バネット」と、ミドルクラスミニバン「セレナ」にベッドシステムを備えた「マルチベッド」仕様を新たに設定しています。
後部にベッドを展開し、大人2名が車中泊できるようにした特装車で、使用しない時には収納することで通常モデル同様に荷室として利用できるというものです。
同年9月には、キャラバン(当時の車名は「NV350キャラバン」)にも同様のマルチベッド仕様を設定しました。
セレナは2022年にフルモデルチェンジしましたが、引き続きマルチベッド仕様が設定されたことからも、ユーザーから好評を博していることがわかります。
なかでもキャラバンの場合、その伸びは顕著でした。
日産によると、2020年発売当初に比べキャラバン マルチベッドの2022年の販売台数は、約5倍に伸びていると説明します。
その背景には、コロナ禍を境に、密を避け自由な旅を楽しめる「車中泊」ユーザーが増えたことがあるとし、こうした好調ぶりが新型キャラバン マイルームの企画につながったといいます。
新型キャラバン マイルームを企画・開発した日産のビジネスパートナーシップ開発本部 商用車ソリューション&特装部 谷内 陽子主管は、次のように話します。
「本格的なキャンピングカーだけではなく、車中泊文化がすっかり浸透してきたことを実感します。
そして(特殊な)8ナンバーではなく、(ベース車と同じ)4ナンバー登録でより気軽に買えることも、マイルームのポイントとなります」
コアなファン層が支持するキャンピングカーほど本格的ではなく、よりライトなユーザーに向けてつくられたのが新型キャラバン マイルームだというワケです。
■コンセプトは「お気に入りの部屋ごと自然に持ち込む」!?
日産では新型キャラバン マイルームの市販化に先駆け、2022年1月に「どこでもMY ROOM」をコンセプトに掲げた「キャラバン マイルーム コンセプト」を発表しています。
このコンセプトカーはカスタムカーイベント「東京オートサロン」や、各地で開催されたキャンピングカーショー会場などに参考出品し、市販前提であると伝えたうえで、来場者などからの意見を積極的に集めたといいます。
谷内主管は、その反響についてこう説明します。
「イベントでは、若いユーザーを中心に大きな反響をいただきました。
なかでも、キャンピングカー専売店ではなく『日産の販売ディーラーで買える』、つまり購入時の敷居の低さに対して反響が大きかったのが特に印象的でした」
そして今回発表された新型キャラバン マイルームは、そうした声を踏まえ誕生しました。
コンセプトは「自分のお気に入りの部屋ごと自然の中に持ち込んでリラックス(憩うことが)できるクルマ」。
室内はコンセプトカーの雰囲気そのままに、木目をふんだんに盛り込むことで「クルマの内装感」を徹底的に消し、シンプルでオシャレな空間を目指しました。
谷内主管は「景色の良い旅先で仕事をしたりするワーケーションにも活用できる仕様としました」と話します。
ポータブルバッテリー電源や、キャンプ場などの外部給電システムを用いることで、エンジンが停止した状態でも車内のAC100V電源が使用できる仕様となっています。
室内のスライドテーブルは車内の好きな位置で固定できるほか、多彩なシートアレンジと組み合わせることで、リビングからベッドルームまで自在に変化します。
なかでも、2列目席の「2in1シート」は、日産独自に開発した力作だと谷内主管は話します。
シート座面は、表裏で表皮の硬さを変えた業界初の試みを取り入れました。
走行時には前方に向け程よい硬さで乗り心地を保ち、駐車時には後方へ反転させた際には、ソファのような柔らかさを与えました。
「シートの開発者は、家庭で使うソファの研究も熱心にしていました。他にも開発者たちは文字通り『部屋』を開発するかのように、楽しくワイワイと議論を重ねていました」と谷内主管は話します。
前後に反転するシートの仕組み自体は、市販のキャンピングカーなどにも採用例がありますが、これらは操作に大きな力が必要だったり、大きな操作音がするなどの難点があったといい、女性ユーザーなどから改善を求める声を聞いていたといいます。
■「メーカーが本気でつくったクオリティを見て欲しい」
また車中泊用に活用できる大きなベッドは、標準タイプの「折りたたみベッド」仕様に加え、オプションの「MYROOM 跳ね上げベッド」仕様の2タイプから選択でき、ともにシンプルかつ上質なヘリンボーンのシート生地を採用しています。
折りたたみベッド仕様は2分割式で、アレンジの自由度が高いのに対し、MYROOM 跳ね上げベッド仕様はワンアクションの軽い操作感でベッド展開できるイージーなものとなっていて、ユーザーの使い方に応じて選んで欲しいとしています。
谷内主管は、新型キャラバン マイルームについて次のように話します。
「日産が、デザイナーや自社の生産ラインでつくり、細部までこだわったクオリティを実感してください。
IKEAやニトリへ立ち寄るついでに『ひと部屋欲しいな』といった感覚で、気軽に検討して欲しいです」
なお新型キャラバン マイルームの架装は、キャラバンを製造する日産車体の関連会社で、救急車や特装車を広く扱うオートワークス京都で行われる予定です。
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新型キャラバン マイルームの発売は、2024年夏に発売される予定。ベースモデルは最上級グレード「キャラバン GRANDプレミアムGX」で、ガソリン車(2WD)とディーゼル車(2WD/4WD)から選択できます。
これに先行して、特別仕様車「キャラバン マイルーム ローンチエディション」が期間限定で導入されます。
車内カーテン、ウッドブラインド、AC100V電源、スポット照明付きの木目調ルーフパネル、ロールスクリーン、ルーフサイド間接照明が標準装備され、カーテンと同じ生地のオリジナルクッションも付属します。
フル装備となったキャラバン マイルーム ローンチエディションの販売価格(消費税込み)は、595万8700円から714万100円。10月11日より予約注文の受付を開始し、納車は2024年上旬の予定です。
追って登場予定の新型キャラバン マイルーム通常モデルの仕様や価格などについては、後日発表されます。