かつての東京モーターショーで、日産は大型高級クーペ「AP-X」を出展していました。どのようなモデルだったのでしょうか。
■カーデザインの“巨匠”が手掛けた幻の「スポーツクーペ」
国内最大の自動車展示会「東京モーターショー」が新たに「ジャパンモビリティショー」として生まれ変わり、2023年10月28日に一般公開されます。
さまざまなニューモデルや新時代を予感させるコンセプトカーが発表されてきた東京モーターショーでしたが、残念ながら市販化が叶わずに「幻」に終わったモデルも数多くあります。その1台が第30回東京モーターショーで公開された日産「AP-X(エーピー エックス)」でした。
1993年10月22日から11月5日まで幕張メッセ(千葉市美浜区)で第30回東京モーターショーが開催されました。
ちょうど30年前はレインボーブリッジが開通した年で、バブル崩壊後の長期不況のなかであったのにも関わらず、全出品台数の3分の1が参考出品車として公開され、21世紀に向け新時代を匂わせるコンセプトカーが多く登場しました。
日産では、2台のコンセプトカーを含む計11台の参考出品車を展示。そのなかの1台がAP-Xです。
AP-Xのコンセプトは、「スポーツカーが本来持っている走りの喜びや高揚感と、地球環境保全、安全性の向上といった社会的な要求との両立」。
ボディサイズは全長4435mm×全幅1800mm×全高1220mmで、リアにハッチバックを持つ3ドアクーペボディを持ちます。
デザインは、ランボルギーニ「ミウラ」やランチア「ストラトス」、シトロエン「BX」といった数多くの名車を手掛けるマルチェロ・ガンディーニ氏が担当しました。
エクステリアは低いノーズに広いグラスエリア、リアまで流れるような曲線的なボディを特徴とし、ボディカラーはグリーンとなっていました。
ボンネット先端には窪みのなかに片側3連の丸いヘッドライトを埋め込んだ独特なデザインです。
サイドは、ドアガラスがトヨタ「セラ」やスバル「アルシオーネSUV」などのようにルーフ付近まで広がっているほか、エアロタイプのホイールを装備。フロントからテールにかけて腰高になっていることで、スピード感を感じさせます。
もちろんガンディーニ氏が手掛けたクルマ共通のアイコンである、車両後部斜め上に向かうリアホイールアーチのデザインも取り入れられています。
リアはかなり丸みを帯びており、大きなテールゲート部は当時の「フェアレディZ(Z32型)」とも共通しているものの、当時は斬新ともいえる真一文字デザインのテールランプや4本出しのマフラーを備えています。
インテリアはベージュを基調とし、シートにはブルーのパイピングを施されたヘッドレスト一体形状のものを装備。インパネにはナビゲーションシステムが搭載されています。
メーター左右には「スカイライン」(R32型)で採用されていたようなエアコン/オーディオスイッチを集約したパネルが設けられました。
パワートレインは高い走行性能と燃費を実現するという、3リッターV型6気筒「VQ-Xコンセプトエンジン」に、後に「セドリック」「グロリア」(Y34型)とスカイライン(V35型)にも活かされた「トロイダルCVT」を採用。
一見するとスポーツモデルのように見えますが、環境に配慮されていることもAP-Xの特徴です。
さらに、先進運転支援システムも多くが盛り込まれ、側後方障害物警報システムや居眠り運転警報、ヘッドアップディスプレイに加え、斬新なホログラム式ハイマウントストップランプを採用するなど、日産の技術の粋を集めた意欲的なものでした。
極めて完成度が高く、フラッグシップクーペとして市販化のウワサも当時は絶えませんでしたが、実際に発売されることはありませんでした。
いっぽう、VQエンジンやトロイダルCVTは市販車に搭載され、当時は画期的だった先進運転支援システムも現在多くの日産車に採用されるなど、発想や技術は現代にも活かされているといえます。
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次回のジャパンモビリティショーでは、日産は「さあ、未来にもっとワクワクを。」をテーマに、最新のEV(電気自動車)コンセプトカーや先進技術をインタラクティブなブースで展示。
移動と社会の可能性を広げる電動化技術やさまざまな取組みをリアルとバーチャルが融合した世界で体感できるようにし、日産が目指すワクワクする未来の姿を示すといいます。
ジャパンモビリティショーでも、どのようなモデルが登場するのか期待が高まります。