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なぜスズキとダイハツが「軽トラ活用」で手を組んだ? 農業の課題解決で共同プロジェクトを展開する理由

くるまのニュース 2023年10月16日 13時30分

2023年10月11日から10月13日に農業業界におけるIT・DX、ドローン、ロボット、植物工場、人材雇用、参入支援など最新の技術が一堂に集結する展示会「第10回 国際 スマート農業EXPO」が開催されました。そのなかで軽自動車市場ではライバルと言える存在のスズキとダイハツが共同出展すると言いますが、どのような背景があるのでしょうか。

■ライバルではない? スズキとダイハツが軽トラでタッグを組む訳とは

 スズキとダイハツは共同で「第10回 国際スマート農業EXPO」に出展しました。
 
 実は、こうした試みは今年で3回目ですが、なぜライバルとも言えるスズキとダイハツが軽トラック(軽トラ)でタッグを組むことになったのでしょうか。

 両社は「軽トラは約60年間にわたり農家を中心に愛用されたきた商用車」という軽トラ普及のこれまでの歩みを振り返ります。

 その上で、「お客様の困りごとを解決していく想いを発信し、両社の意思に賛同していただける仲間作りを進めていきたい」と2021年から両社共同プロジェクトを始めたのです。

 直近での実証試験の舞台は、兵庫県の丹波篠山(たんばささやま)市。

 人口約4万人で農業が盛んな地域で、近年は高速道路が整備され大阪からもクルマで1時間ほどの距離にあります。

 では、実際にどのような「お困りごと」があって、それをどうやって解決しようとしているのでしょうか。

 スズキとダイハツ、それぞれの担当者に詳しく話を聞いてみました。

 まず、スズキですが、大きく3点の出展がありました。
 ひとつ目は、軽トラ用ラダー収納パレットを搭載した「キャリィ」。

 農作業で使う様々な機器を軽トラの荷台に載せる際、地面から荷台までラダーを置いて移動させる場合が多くあります。

 そのラダーの収納場所がなく、ラダーを荷台に置くとかって邪魔になってしまうことが少なくありません。

 そこで、荷台に高さ10口cm弱のパレットを敷いて、その中にラダーを収納できるようにしました。シンプルなアイディアですが、実用性が高いと感じます。

 2つ目は、「冷却機能を備えた販売トレー(べジクール)」です。

 朝どれ野菜を、軽トラで運んで屋外販売する場合、特に5月-10月は近年気温が高いこともあり、せっかくの新鮮野菜がしおれてしまうことがあります。

 そこで、ポータブルバッテリーを使って冷風を送る販売用トレーを開発しました。

 そして3つ目は、「六次産業化支援の取り組み」。丹波篠山茶の生産組合と、地域の加工品販売者の間をスズキが橋渡しをする仕組みです。

 今回の出展では、丹波篠山茶を使った新商品が並びました。これらを地域イベンドに出展しているとのことです。

 スズキの担当者は「地域に密着して、地元の皆さんと一緒に農家の将来を考えいます。ダイハツとは(ハードウエアとしての)モノづくりは(スズキと)別ですが、農家の課題抽出は共同で行うことに意味があります」として、2社共同作業の効果を指摘しました。

スズキの提案する「冷却機能を備えた販売トレー(べジクール)」(左)とダイハツの提案する「ハイゼット トラック」に農薬散布のための農業用ドローン仕様(右)

 次に、ダイハツの展示を見ると、「ハイゼット トラック」に農薬散布のための農業用ドローンが積み込まれる様子を再現していました。

 ワンタッチでラダー部分が立ち上がり、ひとりでもこうした大型ドローンを軽トラに積み下ろしすることが可能になります。

 もうひとつの展示は、電動の刈払機(かりばらいき)です。特徴はふたつ機器を手押し車のような操作で使えること。

 通常の刈払機はストラップを肩からかけて、腰を落とした姿勢で機器を左右に振る動作が必要です。

 これはかなりの重労働であり、また大きな刃物を操作するために周囲の人に十分な配慮をすることが必然となります。

 そこで、ダイハツでは操作性に加えて、刃物の周辺にプロテクターを装着して安全性を上げた設計としました。

 また、通常の刈払機の刃物は左回転なのですが、今回の試作品では右側の刃物を右回転としたことで、草が刃物にからまりにくく、スムーズな草刈りが実現しています。

 ダイハツの担当者は「スズキとはライバルではなく、農家のお困りごとを一緒に考えています。ただし、対策はそれぞれで考える。お互いの強みを活かして、(将来の)サービス(事業)を考えていきたい」と2社の関係性を表現しました。

■スズキとダイハツが縮小傾向の軽トラ市場で目指すべきものとは

 このように、今回の実証試験は、スズキとダイハツが農村地域で現場を声をしっかり捉えようとするプロジェクトであり、現時点ではハードウエアである軽トラ自体を共同開発するといった大きな捉え方ではないようです。

 ただし、軽トラ市場全体を見渡してみれば、市場規模は縮小傾向にあり、軽トラ市場を今後も継続させるためには「次の一手」が必要にも思えます。

 一般社団法人 日本自動車会議所によれば、2022年の軽トラック総販売台数は約17万台。

 ピークだった1983年の約43万台と比べると約4割まで大きく落ち込んでいる状況です。

 最近はアメリカで日本からの並行中古車が大ブレイクして、農作業、またバイクなどの運搬用など様々な用途で使われています。

 しかしこれはスズキやダイハツが積極的に仕掛けた市場の流れではありません。一時的なブームで終わってしまうかもしれません。

 また、現地での需要があるとしても、新車を販売するとなると法規制を含めてメーカーとしては技術的なハードルもあるでしょう。

 そのため、やはり軽トラは当面、「ほぼ日本市場専用」という位置付けが続くように感じます。

 また、トヨタ、いすゞ、日野ととも、スズキとダイハツも参画する、CJTP(コマーシャル・ジャパン・テクノロジー・パートナーシップ)において、物流分野ではコネクテッド技術などデータを活用した共同配送の議論が進んでいるところです。

一方でスズキ、ダイハツ、トヨタでは、3社で共同開発してきたBEVシステムを搭載した商用軽バン電気自動車を2023年度内に発売する

 農業、林業、漁業、畜産業など、一次産業においても、顧客サービスの視点から軽トラックメーカーであるスズキとダイハツがさらなる連携を検討することもあり得るはずです。

 そうした中で、将来的にはEV用電池の共通化など、技術的な協調領域が広がることも考えられます。

 日本発の小型多目的車である、軽トラ。

 その未来に向けて、スズキとダイハツ両社での議論がさらに深まることを期待したいと思います。

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