「ジャパンモビリティショー2023」が10月28日から11月5日(一般公開日)に開催されます。その中でダイハツは「ビジョン・コペン」という気になるモデルをお披露目する予定です。もし市販化する可能性があるのなら、どのようなカタチで登場するのでしょうか。山本シンヤ氏が予想します。
■ダイハツが「謎のコペン」を世界初公開へ
ジャパンモビリティーのダイハツの出展概要を見て驚いた人も多いでしょう。その目玉は「ビジョン・コペン」です。
突如としてその存在が明かされたビジョン・コペンとはどのようなモデルなのでしょうか。
エクステリアは初代を彷彿とさせるデザインながらも、より伸びやか、より洗練、より未来的な印象を受けます。
もちろん、コペンの特徴の一つである電動開閉式ルーフ「アクティブトップ」も継承されています。
インテリアは小型のメーター、センターディスプレイ、そして独特な形状のシフトレバー(AT?)などはコンセプトカーならではのデザインな所もあります。
しかし、水平基調のシンプルなデザインはエクステリアとのマッチングもバッチリです。
更に驚きなのは、これまでのコペンとは異なるパッケージでしょう。
ダイハツは現在、軽自動車を軸にビジネスを行なっていますが、このモデルは従来のコペンの枠を超える「挑戦」が随所に盛り込まれています。
そのひとつが「駆動方式」です。
歴代コペンは他の軽モデルと同じく横置きFFレイアウトを採用していますが、ビジョン・コペンは何と縦置きFRレイアウトを採用。
実はダイハツのFRオープンとなると54年ぶりとなります。
もうひとつは「ボディサイズ」で、全長3815mm×全幅1695mm×全高1265mm、ホイールベース2415mmと軽自動車枠を超えており、、「ユーノス・ロードスター(NA型:全長3970mm×全幅1675mm×全高1235mm、ホイールベース2265mm)」とほぼ同じと言ったイメージです。
そして最後は「パワートレイン」です。
他のメーカーのコンセプトモデルの多くは電動車ですが、何とビジョン・コペンはカーボンニュートラル燃料を見据えた1.3リッターエンジン搭載とあります。
このようにクルマ好きにとっては理想のコンパクトFRスポーツですが、現実に目を向けると様々なハードルがあるのも事実です。
まず、ダイハツには乗用車用のFRプラットフォームがありません。
新規開発はコスト的に難しく、トヨタもGRスープラ/GR86は単独ではなく他社との共同開発の道を選んでいます。
これをどのように解決するのでしょうか。そのヒントは2015年の東京モーターショーに参考出品された「S-FR」です。
このモデルは86の弟分となるコンパクトFRスポーツとして開発が進められていましたが、ビジネス面での課題が解決できず開発中止に。
そんなS-FRのボディサイズは全長3990mm×全幅1695mm×全高1320mm、ホイールベース2480mmですが、何とビジョン・コペンのそれとほぼ同じです。
つまり、お蔵入りになっているS-FR用プラットフォームの流用が、最も現実的と言えるでしょう。
新規開発ではなく、ある程度開発が進められたモノを譲り受ければ、開発費は抑えられます。
更にコストスケールを活かすためにトヨタ版のビジョン・コペン、つまりS-FRを新たな形で復活させることができればさらに可能性は高まります。
なお、現在GRコペンをトヨタ/ダイハツ両方で発売しているので、それほどハードルは無いような気がしています。
もうひとつはダイハツに1.3リッターエンジンが存在しない事です。
かつてK3型が存在しましたが現在は生産終了。ただ、K3型の発展形であるNR系エンジンにはトヨタ「タウンエース/ライトエース」用の1.5リッターは縦置きなので、これをベースに排気量ダウン&専用チューニングというのが現実的なのかなと思われます。
■過去には軽自動車枠を超えたコペンがあった? どういうコト?
中には「軽自動車枠を超えたコペンなんて……」と言う人もいるでしょうが、欧州向けには軽自動車枠を超えたモデルが発売されていました。
見た目は日本向けのコペンのステアリング位置違いですが、エンジンは直列4気筒660ccターボではなく直列4気筒1.3リッター自然吸気を搭載。
筆者は当時そのモデルをドイツで試乗した事がありますが、アウトバーンではメーター読みで190km/hを記録、高速での安定性も非常に高かった事を覚えています。
実はダイハツは「日本でも商品化できないか?」といくつか提案も行なっています。
2003年の東京モーターショーにトヨタ系のレーシングチーム&チューニングメーカーであるSARDとのタッグで「コペンSARDスペシャル」を参考出品。
エンジンはYRV用の1.3リッターターボ、エクステリアはオーバーフェンダー&GTウイングが特徴でした。
このモデルは実際に走行も可能で、全日本GT選手権(現スーパーGT)でデモランも行なっています。
更に2005年の東京モーターショーには直列4気筒1.5リッターエンジン搭載&ワイドボディ化された「コペンZZ」を参考出品。
より現実的なスタイルに量産化の期待も高まりましたが、残念ながら実現には至らずでした。
あれから18年、ビジョン・コペンは再び軽自動車の枠を超える挑戦を行なった背景はどこにあるのでしょうか。
近年のダイハツはコペン以外のモデルは実用車のイメージが強いですが、古くはモータースポーツに積極的に参加していました。
1960年代にはポルシェやトヨタ、日産相手にP-5と呼ばれるレーシングカーで日本GPに参戦。
ラリーは1970年代後半からサファリラリーに参戦。クラス優勝は当たり前で1993年には総合5~8位を記録しています。
その後は国内競技に専念しますが、リーマンショックなどが原因で2009年に撤退。
しかし、2022年にモータースポーツ活動を再開。ちなみにダイハツのホームページを見ると「DAIHATSU GAZOO Racing」の名の元に、様々な活動が行なわれています。
その内容はTOYOTA GAZOO Racingと同じで、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」が目的となっています。
現在はTGRラリーチャレンジや全日本ラリー、K4GPなどに参戦。昨年はWRCジャパンにも挑戦し見事に完走(クラス優勝)。
ちなみに軽自動車でのWRC参戦は1993年のスバル「ヴィヴィオ」以来、ターマックラリーとしては初参戦となります。
それに加えて、モータースポーツを楽しむ人の裾野を広げることを目的に、ノーマル車両でも気軽に参加できるサーキットイベント「Dスポーツ & ダイハツ チャレンジカップ」を開催。
2023年は4回の開催ですが、毎回募集をかけると2-3日で枠が埋まるほどの人気イベントとなっています。
筆者も1度参戦した事がありますが、「気軽に」と言いつつも、最上位クラスはマシンもドライバーもガチで驚きました。
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つまり、ビジョン・コペンはモータースポーツ活動による「気づき」や「経験」がフィードバックされていると予測します。
そう考えると、「ボディサイズ」や「駆動方式」、「1.3Lエンジン」の提案も納得です。
ただ、コペンの強みは「ガチ」、「ユル」どちらにも対応できるフレキシブルさと懐の深さだと思っているので、市販化の際にはスポーツ一辺倒にならないように開発を進めていただきたいと思っています。
現時点では純粋なコンセプトモデルですが、皆で市販化のエールを。