トヨタが「ジャパンモビリティショー2023」で新しいハンドル「NEO Steer(ネオステア)」を公開しました。元自動車メーカーの開発エンジニアがシミュレータでさっそく「試乗」体験してみた印象を紹介します。
■「ヨーク型ハンドル」とはベツモノ! 新ハンドル「NEO Steer(ネオステア)」とは
トヨタが「ジャパンモビリティショー2023」で初公開した新しいハンドル「NEO Steer(ネオステア)」は、通常のハンドルのように円形ではない「異形ハンドル」で、バイクのようにアクセルとブレーキといった足元の操作系もハンドル上に集約したことで、下肢が不自由な方も両手で安心に運転できるハンドルです。
そんなネオステアをシミュレータでさっそく“試乗”することができました。どのような運転感覚だったのでしょうか。
取材をしたネオステアの開発担当者によると、ネオステアの開発にはチェアスキー選手の森井大輝選手のアドバイスが活かされているそう。
バイクの事故で下半身不随というハンディキャップを持つことになった森井選手は、運転が大好きということで、普段から下肢障がい者向けに改造したトヨタ「ランドクルーザー」(ランクル)を運転しているそうです。
トヨタの異型ハンドルといえば、これまでもレクサスRZに採用した「ヨーク型ハンドル」がありましたが、このネオステアはそれ以上のインパクト。
「ハの字」型をしたグリップの後ろ側には、自転車やバイクのブレーキのようなレバーが左右に1つずつ、そして右手の親指で押し込む方法のアクセルレバーが配置されています。
ステアバイワイヤ(機械的に繋がず電気信号でタイヤ角度を変える機構)で動作するハンドルは、最大でおよそ90度まで左右へ回り、持ち替えることなくフル転舵まで操作が可能です。
また森井選手のアドバイスで、ハンドル下部には下肢が不自由な人がクルマへ乗り込む際に掴むためのグリップが設置されています。
ジャパンモビリティショー2023では、このネオステアのプロトタイプが、正式発売前の新型「ランドクルーザー250」に装着されていました。
実際にどのような操作感なのか、会場に用意されていたネオステアを使ったシミュレーションゲームマシンで筆者(元自動車メーカーの開発エンジニア、吉川賢一)が体験してきました。
■元自動車メーカーの開発エンジニアが「試乗」してみた!
ネオステアのハンドルを両手で握ると、人差し指と中指の位置にブレーキバーがくるため、ブレーキは自転車と同じような感覚で直感的に操作が可能です。
自転車のように右と左のレバーで前と後のブレーキに分かれているのではなく、左右どちらのブレーキレバーでも通常のブレーキペダルを踏むようにブレーキを効かせることができます。
ブレーキレバーには適切な反力もついているので、細かいブレーキ調整も簡単にできます。
アクセルレバーは右手の親指の位置。バイクのアクセルのようにハンドルをひねる操作はなく、親指を常にアクセルレバーの上に載せておく必要はありますが、親指で押す力を加減することでワンペダル操作のような運転も簡単にできました。
こちらも反力があるので、微調整も楽です。
その一方で、強めの加速をする際にはレバーを強く押し込んで保持する必要があるため、右手の親指が疲れてしまうかもしれません。
筆者としては、もうちょっとブレーキレバーは長いほうが、支える指が安定するように思いましたが、ネオステアを開発したトヨタ担当者によると、まだまだ開発中(このプロトタイプが完成したのがまだ最近)とのことで、今後改良が加えられていくことになるそう。
操作反力もこれから煮詰めていくとのことで、下肢障害者だけでなく、健常者でも新たな運転感覚で楽しめるようにしていきたい、とのことでした。
※ ※ ※
トヨタはこのネオステアに、下肢障がい者に向けて開発中の「キネティックシート」も合わせるなど、下肢障害者の方々が安心して運転ができる方法を、日夜研究開発しているそう。
キネティックシートは、背もたれと骨盤を支えることで走行中の着座姿勢を安定させ、下肢障がい者の負担を軽減するというものです。
すでに試作品のキネティックシートを装着した「GRヤリス」を、森井選手や車いすインフルエンサーの渋谷真子さんが、ショートサーキットでテストドライブをする様子も動画に納められています。
この先近い将来にネオステアが市販化されれば、下肢障害者の方々のみならず、健常者にとってもハンドルの新たな選択肢となることでしょう。