日産が第1回「ジャパンモビリティショー2023」に出展した斬新なデザインの高級ミニバンコンセプト「ハイパーツアラー」。現実味が薄いと見られがちなショーモデルから次期「エルグランド」の姿を大胆に読み解きます。
■最先端バッテリーだけじゃない! ハイパーツアラーの4輪制御技術に注目
2023年10月28日から一般公開された第1回「ジャパンモビリティショー2023(JMS2023)」の日産ブースにおいて、ひときわ存在感を放っているプレミアムミニバンのコンセプトカー「ニッサン ハイパーツアラー」が「次期エルグランドの姿では!?」と期待されています。
日産ブースの担当者は「直接の関係はない」と否定しますが、隠しきれない次期型エルグランドの姿も見えてきました。
JMS2023の日産担当者は、コンセプトカーのハイパーツアラーについて次のように話します。
「完全自動運転など、いま期待されている様々な技術が実現した時代に、多人数乗車のモビリティがどうなるのかを具現化したBEV(バッテリーEV:電気自動車)のコンセプトカーです。
デザインやインテリアの造形はあくまでデザインスタディで、特定のクルマの将来デザインではありません」
一方で、クルマのプラットフォーム(クルマの中身のこと)は、実現性のある方法で真面目に考えているそうです。
ハイパーツアラーは、4輪を駆動させるバッテリーとして、従来のリチウムイオン電池に代わる「全固体電池」という次世代の電池を採用することが想定されています。
全固体電池は、従来のバッテリーよりもエネルギー密度が高くコンパクトにできるうえに、電気を入出力するときの発熱が少ないため、冷却装置が不要となります。
このため、全固体電池を床下に搭載することで、これまでよりもフロアの高さを下げることが可能となります。
そして拡大した室内スペースを活用し、大きく快適なシートや大きなテーブルなど様々な装備をつけることができるのです。
市販車への搭載はまだ先とされている全固体電池ですが、広い室内スペースを確保したい大型ミニバンにとっては、利便性をさらに広げることのできる技術といえます。
ハイパーツアラーはまた、完全自動運転モードでは、前列シートを回転させて後列と対面レイアウトにすることが可能ですが、進行方向に対して後ろを向いて座ると心配されるのが「クルマ酔い」です。
日産の担当者は次のように説明します。
「クルマ酔い対策としては、『エクストレイル』や『アリア』に搭載されている電動駆動4輪制御技術『e-4ORCE』の進化版で解決していきます。
減速をしたときに人間が不快に感じないよう、クルマの姿勢をフラットにする制御は、すでに現状のe-4ORCEで実現していますが、今後は、コーナリング時に左右の加速度をコントロールしたり、回転の角速度を抑えるなど、駆動制御をつめていく目論見です」
クルマ酔い対策として日産は、例えばミニバンの「セレナ」の場合、外の景色がよく見えるように後席の窓を大きくするなどの対策を施しています。
これが将来的には、スマホやパソコンを見ていたり本を読んでいたとしても、酔わない乗り心地にすることを目標としているといいます。
■大胆予想! 次期型「エルグランド」はこうなる!
いわば「究極の乗り心地」を目指す次世代技術の話となると、フル電子制御で油圧式の「アクティブサスペンション」など、高価な装置にたどり着きがちです。
ただ日産の担当者は「そのためにばく大な電力を使ってしまうのはもったいない」との考えを示します。
「既存のe-4ORCEを改良し、交通の流れに乗りながら、人に与える加速度の変化までコントロールするような方法にもっていきたいです」
近年は日産においてもそうした技術が充実してきているので、実現はそう難しくはないとも話していました。
ラグジュアリーミニバン市場は、今後も高い需要が見込めます。
日産としても、トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」の後塵を拝している「キング・オブ・ミニバン」エルグランドの現状をなんとか打破し、再び高級ミニバンカテゴリの王者に仕立て上げたい、という思いは強いことでしょう。
ハイパーツアラーではその思いを象徴するかのように、面を多用することでクルマを大きく見せたり、フロア高は低くしながらも全高を引き上げるなど、流行のデザインをふんだんに採用してきました。
ステージに並ぶショーモデルゆえ、過剰なまでに装飾を施したディテールについ惑わされ「現実的ではない」と判断しがちですが、そうした全体のフォルムや構成が、次世代エルグランドを読むうえで重要なヒントとなることを見逃してはいけません。
つまりハイパーツアラーは、まさに日産がラグジュアリーミニバンカテゴリでの逆襲をかけるためのコンセプトカーだと、筆者(くるまのニュースライター 河馬兎)は考えます。
すぐには実現が難しい技術があるのは確かで、またあまりに「未来過ぎる」カタチに困惑する気持ちもわかります。
しかし内外装のスタイルのおおまかなイメージとして、これに近いかたちで登場してくることは十分に考えられます。
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このようにハイパーツアラーを見ていると、次期エルグランドへの期待はますます膨らむばかりです。
次期エルグランドが登場するとなれば、国内だけではなく海外市場も視野に入れるのは当然のこと。そのため、アルファードやヴェルファイアを超える全高と全幅に拡大することが予想されます。
日産が持つ既存技術から考えて、パワートレインはハイブリッドの「e-POWER」と、それを応用したPHEV(プラグインハイブリッド)の2種類で、駆動方式はFFとe-4ORCEが現実的でしょう。
e-4ORCEには、前出のように乗り心地を向上させる次世代技術を盛り込んでくるかもしれません。
その実現も案外近く、2024年夏にワールドプレミア、2024年末には日本市場から発売開始と筆者は予想します。
これは、2020年代後半には100%BEVモデルが設定されるという流れから逆算した考え方です。
2024年1月に開催されるカスタムカーイベント「東京オートサロン2024」では、新型エルグランドに関する何らかの姿がみられることを、いち日産ファンとして大いに期待したいところです。