ホンダが第1回「ジャパンモビリティショー」で出展した2台の軽商用バンは、昨今のEV化を見据えた画期的な機能が取り入れられていました。
■「N-VAN」とは異なる2つの軽商用EVがJMSに登場
第1回「ジャパンモビリティショー2023」のホンダブースには、軽商用バンの「N-VAN」をベースとしたEVが2台展示されていました。
一見すると同じ車種にも見えるこの2台ですが、実はかなり中身の異なったものとなっていたのです。
1台目のN-VANベースのEVは通常のN-VANとは異なり、ブラックのフロントグリルを装着した「N-VAN e:」と名付けられたもの。
フロントグリルはホンダ車の廃棄バンパーをリサイクルした素材を使用しており、この部分に充電・給電用のソケットが備わっています。
N-VAN e:は2024年春に発売予定であることがアナウンスされており、200kmほどの航続距離を実現するリチウムイオンバッテリーを床下に配置し、本来はエンジンが備わるフロント部分にモーターなどを搭載して前輪を駆動するレイアウト。
もちろんN-VAN本来の助手席側ピラーレスによる大開口部や、フラットで低い荷室空間などは一切犠牲になっていません。
これはベースとなったN-VANが、センタータンクレイアウトやFFという駆動方式を採用していたことからスムーズにEV化されたということもあります。
しかし、そもそものベースとなったN-BOX初代モデルが登場した2011年時点では、このプラットフォームを採用したEVが登場することは想定していなかったということなので、ホンダ独自のレイアウトが功を奏したとも言えそうです。
そして、もう1台のN-VANベースのEVは、「MEV-VANコンセプト」と名付けられており、デカール類を除けば通常のN-VANと全く変わらないルックスをしています。
N-VANベースのEVと聞くと、N-VAN e:と同じ成り立ちのモデルのように思えますが、こちらの車両には交換式のバッテリーを採用しているのが大きな違いで、ヤマト運輸と共同で交換式バッテリーを用いた軽EVの集配業務における実証実験に使われる車両となっているのです。
ここで使用される交換式バッテリーは、すでにホンダがリリースする電動バイクに採用されている「Mobile Power Pack e:(モバイルパワーパック イー)」を用いており、これを8個搭載することで、満充電で70km前後の航続距離を実現しています。
一見すると短い航続距離にも思えますが、集配で客先と拠点を行き来することが多く、一度に長距離を走ることはないため必要十分で、バッテリーが減ったら拠点で充電済のものと交換すればすぐに再出発できるという利点もあります。
またヤマト運輸では、充電に必要な電力も自社で賄うことを目標としており、今回実証実験を実施する群馬県の拠点には太陽光発電設備が多く導入されていることから、サスティナブルな物流の実現に向けての第一歩とも言えるでしょう。
そしてこのMEV-VANコンセプトのもう一つの特徴と言えるのが、フロントだけでなくリアにもモーターを搭載する2モーターのAWD(全輪駆動)となっているという点です。
これは、多くの荷物を積載したときでも必要となる出力を得るためという理由のほかにも、集配業務は山間部や降雪地帯でも当然行われるため、そういった地域での使用も見越してのAWD化なのだとか。
加えて、リアにモーターを搭載してもなお、フラットな荷室はガソリンモデルと変わらないという点も特筆すべき点となっています。
MEV-VANコンセプトは実証実験のための車両で2023年11月から群馬県で実験がスタートするとのことですが、ゆくゆくは一般発売も目指しており、交換式バッテリーはサブスクリプションによってバッテリー交換ステーションで交換できるようにしたいとのこと。
なおバッテリー交換ステーションは、「ガチャコ」という会社が運営をスタートさせており、現在は東京、埼玉、大阪の一部のみの展開となっていますが、全国展開となればもっと気軽にEVに乗ることもできそうです。
現在のEVは同クラスの内燃機関車に比べて高額となっていますが、この差額のほとんどを占めるのがバッテリー代となっています。
これを交換式バッテリーにすることで、車両価格にバッテリー代をプラスしなくても済むため、ゆくゆくは内燃機関車よりも安価な価格で電気自動車をリリースできるようになるのも夢ではないそうです。
現在のところは、まだMEV-VANコンセプトは実証実験がスタートする段階で、市販化は先になりそうですが、近い将来、N-VAN e:とMEV-VAN、そしてN-VANが併売される日がくるかもしれません。