スバルの新型クロスオーバーSUV「レヴォーグ レイバック」には、近年では珍しいボンネットの大きな穴、いわゆる「エアインテーク」が備わっています。高性能なスポーツモデルを思わせるパーツが今も残っている理由について、スバルのエンジニアに聞いてみました。
■スバルのエンジニアに「穴」は何のため!? と聞いてみた
2023年10月に公式発表されたスバルの新型SUV「レヴォーグ レイバック」は、リフトアップしたクロスオーバースタイルのデザインが非常にオシャレで、今後人気が出そうなモデルです。しかし気になるのがエンジンフードにある大きな「穴」。
ひと昔前はこうした穴のある高性能なスポーツモデルも多くありましたが、昨今はあまり見かけないことから、SNSでは「前時代の遺物」などと揶揄する意見すら見られます。どうにかならなかったのでしょうか。
この「穴」の正体は、ターボエンジンに備わる「インタークーラー」を冷却するために設けられている「エアインテーク」です。
ターボチャージャーは空気を圧縮してエンジンに送り込むことで、ターボの効率化を高めるものですが、そのときにインタークーラーを冷やすことで空気の密度を上げてエンジン効率を向上させます。
スバルの水平対向エンジンは、エンジンの上にインタークーラーが載せられていることから、ボンネットに穴をあけて走行風を取り込んでいます。
かつてはスバル車以外でも、高性能エンジンを積んだスポーツカーには欠かせないアイテムでしたが、昨今はさまざまな技術の進化によって、ボンネットに大型エアインテークを設けることなく冷却できるようになったことで、穴が小型化されたり、そもそも無くしてしまったクルマが増えてきました。
スバルでも、インタークーラー付きターボエンジンを搭載する「フォレスター」や「アウトバック」などのクロスオーバーモデルでは、すでにエアインテークを廃止し、代わりにボンネット裏へダクトを設けて風を送っています。
ただ今でも「レヴォーグ」や「WRX S4」、そして「レイバック」には、大きなエアインテークが残されています。
この理由について、筆者(くるまのニュースライター 河馬兎)はレイバックの開発担当エンジニアに聞いてみました。
「レイバックが採用するノーズデザインとエンジンにおいて、効率的にインタークーラーの冷却を行うには、エンジンフードにエアインテークを設ける方法が最適解だったのです」
しかしインタークーラーをクルマの前方にレイアウトすれば、これほど大きなエアインテークは必要ないのではと聞いたところ、次のような説明をしています。
「衝突時の歩行者保護の観点から、フロント部分には、極力余計な構造を設けずに衝撃を吸収する構造にしたかったのです。
またデザイン面でもノーズが長くなってしまうなど影響が大きく、スタイリングが悪くなってしまうことを避けるため、インタークーラーの移設はしませんでした」
ただしレイバックの上質なイメージに合わせるため、デザインを検討する段階でスバル社内でも「エアインテークを無くしたらどうか」という意見が出たと話します。
これに対し「どうしてもエアインテークを付けたい」という積極的な意見はなかった反面、現状のパッケージングを採用した場合にはこうせざるを得なかった、というのが実情のようです。
■最先端のEVにも「ボンネットの穴」が!? 何のため?
10月28日から一般公開が始まった「ジャパンモビリティショー2023(JMS2023)」にスバルが出品したBEV(バッテリーEV:電気自動車)のコンセプトカー「スポーツモビリティコンセプト(SPORT MOBILITY Concept)にも、フロントフードに大きなくぼみがあります。
インタークーラーどころかエンジンも搭載していないモデルに、なぜボンネットの穴が必要なのでしょう。
実車を観察すると、フロントバンパー下にある大きな開口部から空気を取り入れ、ボンネットへと抜けていくような構造に見えることから、空力向上に寄与するパーツとして備わっていることがわかります。
同様の空力パーツは、車体の後部にエンジンを搭載するようなレーシングマシンにもみられる最先端の技術です。
スポーツモビリティコンセプトのレイアウトについては、詳細が明らかにされていませんが、かつての空気取り入れ口とは異なる役割が与えられているのです。
会場で話を聞いたエンジニアも「アイコンとして使っているわけではありません」と否定していました。
ただしそのデザインを見ると、将来的にもスバルのアイコンとして残していく覚悟として、どこかデザイナーの強い意思表示が感じられるのは、筆者の気のせいではないように思えます。
今後、スバルの高性能車がどこまでエアインテークを続けていくのか、非常に楽しみです。