2023年11月2日、トヨタは新型「クラウンセダン」を正式発表しました。これまでのセダン型クラウンと比較し全長5mを超える大型ボディとなりましたが、その位置づけはどのように変わったのでしょうか。
■新型「クラウン セダン」正式発表! その位置づけはどのように変化した?
現行「クラウン」に4つものボディタイプがラインアップされることが明らかになったときには、誰しもが驚きました。事前のスクープ情報でもいろいろな話が伝え聞こえてきていたわけですが、本当にまさかでした。
その中には、クラウンの本来の姿というべき「セダン」もあり、2023年11月2日にはは新型正式発表も行われました。ただし、「クロスオーバー」「スポーツ」「エステート」といった他のボディタイプとはメカニズム面で一線を画していて、やや特殊な位置づけとなっています。
他のボディタイプは横置きのGA-Kプラットフォームをベースとしているのに対し(まだ明確に明らかにされていないものもありますが)、セダンはレクサス「LS」やトヨタ「MIRAI」と同じ、GA-Lプラットフォームとなります。それゆえ可能となるFCEVがセダンのみに設定があることも大きな特徴です。
なぜセダンだけそのようにされたのか、それはショーファーカーを主体とするためだと思われます。他のボディタイプと同じGA-Kプラットフォームをベースにカタチだけセダンにするよりも、GA-Lプラットフォームを用いたほうがショーファーカーとして良いものができることが期待できるからです。
そのためにはまず居住性に優れていることが大事です。ボディサイズはMIRAIよりも55mm長くなり、全長は5030mmと5mを超え、ホイールベースも3mの大台に達するとおり、かなり大柄になります。1470mmの全高は共通で、1890mmの全幅は微増となります。従来型までのクラウンは1800mm以下の全幅を死守していたので、その差は歴然です。
これは現行型のクロスオーバーと比べても、100mm長く、50mmワイドで、全高は70mm低いという関係となります。
新型クラウン セダンについて、公式ウェブサイトでは、「正統派セダンとしての上質な走りと快適な乗り心地、ショーファーニーズにお応えするくつろぎの後席空間、パーソナルにもビジネスにもお応えするニューフォーマルセダン」と表現しています。
あくまでパーソナルなニーズにも応える旨が記されていることには違いありませんが、このサイズになると、一般の人々にとっては、あまり縁のない存在になったように感じられるはずです。
大柄なセダンが欲しい多くの人の目は、海外のプレミアム勢かレクサスに向けられるのではないかと思います。
いまやセダンは、かつてのような売れ方をしません。それはそのままクラウンにも当てはまり、かつてのような売れ方をしないからこそ、他に新感覚の3つものボディタイプを用意したわけで、それこそ一般ユーザーにはぜひそちらをということだと思います。
一方で、クラウンの名のもとにセダンを作るなら、このサイズでショーファーメインというのが最適解だと判断したのでしょう。
もちろんMIRAIというのはFCEVであるところに大きな価値があるわけですが、これで新しいクラウンだと名乗っても良いのではという声は、現行MIRAIの登場当初からあったように記憶しています。
発売直後の現行MIRAIは走りの良さでも同業者らを驚かせました。筆者(岡本幸一郎)も公道で乗って好印象を抱く前に、富士スピードウェイのショートサーキットを全開で走らせたときには、これほどのサイズと重量のセダンでありながら意のままに操れることに大いに感心したものです。それには後輪駆動であることも少なからず効いていることでしょう。
そんなMIRAIをベースに、もっとシンプルに、サイズはそのままで多少デザインだけ変えて、FCEVではなくHEVのように一般的なパワートレインだけを載せて、それをクラウンのセダンとして売り出すという手もあったはずです。でも、そうしなかったところに見識と心意気を感じます。
完成度の高いFCEVもきちんとラインアップされています。これでショーファーカーとして官公庁をはじめイメージが大事な企業なども買い求めやすくなるわけです。とはいえ、こうしたクルマが数としてはそれほど多く売れることはないと思いますが、存在意義と存在価値の高いクルマになることには違いないでしょう。