競馬場で活躍している競走馬たちを運送することに特化した馬運車。その内装や設備はどのようなものになっているのでしょうか。
■「競走馬輸送中!」 を付けたバスみたいなクルマの正体は馬運車とは? その中身に迫る
馬運車は、競走馬たちを輸送するための専用車両で、高速道路などでまれに見かけることがある人もいるかもしれません。
一見バスみたいな見た目ですが、その内装や設備はどのようなものになっているのでしょうか。
かつて競走馬は鉄道貨車で輸送されていましたが、交通インフラの整備により、トラックでの輸送が始まりました。
馬運車の運行に携わっている日本馬匹輸送自動株式会社は昭和22年に創業されており、今日に至るまで馬運車の改良を重ねてきました。
日本馬匹輸送の馬運車には、日本ダービー優勝馬や顕賞馬、年度代表馬など、それぞれにかつて大会で活躍した名馬たちの名前がつけられているのも見どころです。
日本馬匹輸送では現在約90台の馬運車が運行しており、競走馬を安全に輸送することが常に心がけられています。
また北海道に本社を置く大江運送は昭和44年に設立され、馬運車の運行で活躍している企業のひとつです。
大江運送では現在22台の馬運車を所有しており、1台1台オーダーメイドで製作されています。
そんな馬運車は、一見するとバスに近い雰囲気なのですが、トラックをベースとした造りとなっており、トラックとバスを融合したような不思議な見た目が特徴的です。
生き物を輸送する馬運車ですが、実際にどのようなことに注意して輸送をおこなっているのでしょうか。
大江運送の代表取締役である白川典人氏は次のように話します。
「輸送中、特に気を使っているのが、急ブレーキ・急ハンドル、走行路面の段差です。
また、馬によっては周りの環境音やトンネルの中の光は特に注意が必要です。
馬の反応を注意してモニターで観察し異常がないかを確認します。
また、輸送中に馬が暴れ出してしまったり、発熱したり、エサを喉に詰まらせたり、腹痛など体調を崩すこともあります。
このような場合には、馬に怪我の無いよう、ドライバーが自らの安全を注意しながらも、リスクを追って対処します」
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馬は非常にデリケートな生き物です。長時間の輸送のストレスにより、「輸送熱」と呼ばれる体調不良を起こしてしまうこともあります。
そんな馬たちを気遣い、馬運車の設備はすべて輸送する馬たちのことを第一に考えて造られているのです。
■馬ファーストの車内設備はどのようになっているの?
大江運送の馬運車は全輪にエアサスペンションが装備されており、乗り降りの際に車高を低くすることが可能です。
エアサスペンションが衝撃を吸収してくれるため、乗り心地も非常に快適なものとなっています。
馬運車の内部は6頭積み仕様となっており、後方のゲートからなかに入ると、中央に畳と呼ばれる仕切りが3枚、1列に並んでいます。
この仕切りが畳と呼ばれるのは、運行が始まった当初は実際に畳を使用していたため、その名残から由来しています。
また、畳と畳の間にもカーテンが備え付けられており、これは相性の悪い馬同士や異性の馬が左右に並んだときに、お互いの干渉を防ぐためのものです。
前後の馬を仕切るための扉もあり、完全な個室を作れるようになっています。
馬房の奥には倉庫が取り付けられており、馬糞を片付けるためのスコップや、輸送中に馬をつなぐための輸送もくしの予備など、輸送に必要となる道具が仕舞われています。
この倉庫が備わっているのは大江運送のみといわれています。
倉庫のさらに奥には扉があり、これは馬たちに何か起きたときにすぐに駆けつけられるよう、運転席と通じています。
天井には換気扇が備え付けられていて、ホコリを排出したり空気の流れを作るために調整がされています。
また、北海道から様々な場所へ輸送するため、急激な寒暖差に対応できるよう、エアコンなどを使い常に一定の温度を保てるよう細心の注意を払っているそうです。
エアコンや換気扇の調整は、すべて運転席で行っています。馬房にはカメラが取り付けられており、ドライバーがその様子を運転席のモニターから確認できます。
そんな運転席の後ろ側には乗務員のための二段ベッドが備えつけられており、長距離での運行に対応できるようになっています。
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競馬場で歓声を浴びている競走馬たち。彼らが競馬場の地で活躍している背景には馬運車の存在がありました。
70年以上の歴史をもつ馬運車には、馬たちを無事送り続けるための試行錯誤と改良が重ねられ続けているのです。