道路工事では誘導員や工事用の信号機に従って通行します。しかし、もしそれらを無視した場合違反になるのでしょうか。
■誘導員の交通誘導や工事用信号機に従う義務はある?
工事がおこなわれている道路では、作業員が交通誘導をしたり、工事用の信号機が設置されています。
では、これらの誘導や信号機に従わなかった場合は交通違反になるのでしょうか。
クルマを運転していると、道路工事で片側交互通行の場所を走行することがあります。
その際、誘導員の交通誘導や工事用の信号機に従って通行します。
では、もし交通誘導や工事用の信号機を無視して通行すると、交通違反に当たるのでしょうか。
そもそも、クルマの通行に関しては道路交通法第7条で次のように規定されています。。
「道路を通行する歩行者等又は車両等は、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等に従わなければならない(条文を一部抜粋)」
そのため、信号機や警察官などの指示に従って通行しなければ「信号無視」の違反に当たります。
ただし、この条文にいう「信号機」とは道路交通法第4条第1項にもとづいて公安委員会が設置したものや、道路交通法第5条第2項に規定する公安委員会の委任によって道路管理者などが設置したものを指します。
つまり道路工事のために設置されている仮設の信号機は道路交通法第7条の「信号機」には当たらず法的効力がないため、信号無視をしても交通違反にはなりません。
また信号機と同様に、警察官や交通巡視員以外がおこなう交通整理にも法的効力はなく、作業員の交通誘導に従わなかったとしても交通違反には当たらないのです。
このように、交通誘導をおこなう作業員には法律上の特別な権限がないため、交通誘導に従うかどうかはあくまでドライバーが判断することになります。
とはいえ、片側交互通行の道路で工事用の信号機や作業員の交通誘導を無視して通行すれば、対向車と正面衝突するおそれがあり大変危険です。
さらに、作業員の誘導ミスによって交通事故が発生した場合でも、ドライバーが一切事故の責任を負わないというワケではありません。
なぜなら、前述のように交通誘導に従うかどうかの判断はドライバー自身がおこない、安全確認をする必要があるためです。
過去には、交差点の信号が直進と左折の青矢印を表示しているときに、警備員が出した右折の合図に従って右折しようとした車両と対向車線から直進してきた車両が衝突する事故が発生。
その際の警備員と右折ドライバーの過失割合を3対7と認定しています。(東京地方裁判所平成15年9月8日判決)
これはドライバーが警備員の交通誘導を鵜呑みにしていたことや、交差点の信号機を守らなかったなどの行為が重大な過失と認められたため、ドライバーの責任が重くなったものです。
基本的には工事用の信号機や誘導に従いつつ、ドライバー自身も対向車が来ていないかなど安全確認を怠らないことが大切といえるでしょう。
そのほか、交通誘導に関する事故は多数発生しており、2023年9月には群馬県前橋市の県道で片側交互通行の交通誘導をしていた警備員の男性が軽自動車にはねられ大怪我を負う事故が起きました。
また10月には鹿児島県さつま町の国道で、片側交互通行のため停止していた乗用車に軽自動車が追突、そのはずみで別の乗用車に衝突する玉突き事故も発生しています。
道路ではときどき路面工事や街路樹の剪定などで交通誘導がおこなわれているため、工事を知らせる看板をよく確認したり、作業現場の手前で余裕を持って止まれるようスピードに注意しましょう。
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法律上、作業員による交通誘導や工事用信号機に従わなくても交通違反には当たりません。
しかし一般的な交通マナーとして広く浸透しているほか、交通事故を防ぐためにもドライバーが安全確認をした上で誘導や信号に従うことが必要といえるでしょう。
■誘導を無視して事故を起こしたら? 過失は誰につくの?
前述のように、従うべきである交通誘導ですがもし誘導を無視して事故を起こしてしまったら過失は誰につくのでしょうか。
このことについて、自動車保険を扱う三井住友海上火災保険株式会社の担当者は、以下のように話します。
「具体的な割合については、ケースバイケースとなるため、一概にはいえませんが、片側通行を無視して進行し、事故を起こした場合は、一般的には事故を起こした側の責任が重くなるといえます」
このように、実際の過失についてはその場の状況によっても、異なることがあるといいますが、基本的には誘導を無視した側の過失が重くなることが予想されます。
さらに、前出の担当者は、誘導に従っていた側の過失割合について以下のように話します。
「ルールに沿って走行していた側に、予見可能性や回避可能性がないことが立証できれば、一方的な過失になることもあり得ます。
しかし、そうでない場合には、誘導に従っていた側にも一定の過失が生じる可能性があります」
つまり、誘導に従った側に過失がつかないためには、事故の起こったときの様子をしっかりと記録しておき、こちらに非がないことを証明する必要があります。
例えば、三井住友海上火災保険では、事故の記録を残しておくためにドライブレコーダーの設置を推奨しています。
ドライブレコーダーの記録は、事故時の正当な記録として提出することができるため、万が一にも備えて設置しておいたほうが良いかもしれません。
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前出の担当者は、交通誘導員の関係する事故について「過去に事例がある」と話しており、実際にしばしば見られるケースだといいます。
指示を無視すること自体が違法となる可能性は低いですが、安全と円滑な交通のために、しっかりと誘導に従うようにしましょう。