有機的なフォルムのクルマが増えるなかで、近年はSUVを中心に「カクカク」した力強いデザインのモデルにも注目が集まっています。こうしたトレンドの先駆けともいえるのが、かつて販売されていた日産のコンパクトSUVでした。
■一周回って「これが新しい」! トレンドを生んだ「カクカク」SUVとは
近年のSUVデザインは、有機的なフォルムを強調したトレンドに代わって、往年の無骨な四輪駆動車を思わせる四角く「カクカク」した直線的な形状のSUVの注目度が高まっています。
こうした流れを予想していたかのように、30年近く前からこうしたスタイルをいち早く取り入れていた日産のコンパクトSUVが、現在再びスポットライトを浴びているのです。
1993年10月に開催された第30回「東京モーターショー」の日産ブースで初めて公開され注目を集めたコンパクトモデルが「ラシーン」です。
日産は、まだSUVという言葉も一般的ではなかった時代に「都市から広い自然まで、生活空間を広げる乗用車感覚の新ジャンルのRV」と説明し、今は一般的となったクロスオーバーモデルをいち早く誕生させました。
ショー終了後、市販化を要望する声が数多く寄せられたことで、翌1994年12月には正式発売となっています。
ラシーンは、全長4m弱の非常にコンパクトなサイズと、四角く直線基調のレトロなフォルムとの組み合わせが最大の特徴です。
パワーユニットには当初1.5リッターガソリンエンジンを搭載し、駆動方式はフルオート・フルタイム4WDのみで、トランスミッションは4速ATと5速MTが用意されました。
フロントグリルガードやルーフレール、大型アウタースライドガラスサンルーフなど、SUVらしい装備も多数用意するほか、凝った上下開閉式バックドアやナチュラルテイストのボディカラー、明るいチェック柄のシートなど、レトロななかにもオシャレな雰囲気が随所に見られます。
1997年1月にはマイナーチェンジを実施し、1.8リッターエンジン搭載のFtシリーズを追加して走行性能の向上を図りました。
続く1998年4月には2リッターエンジンを搭載した上級スポーティ仕様の3ナンバーモデル「ラシーン フォルザ」も加え、さらにラインナップを拡充しています。
ラシーン フォルザは、丸目4灯ヘッドライトや新デザインのフロントグリルや大型フェンダー、リアクオーター部の窓まわりなどの形状変更で、それまでのラシーンの優しいイメージに、SUVらしいアクティブさを加えたモデルです。
その後ラシーンは2000年に販売を終了しています。
ラシーン独自のカクカクしたSUVスタイルは、同年に登場したミドルクラスのSUV、初代「エクストレイル」に名残りを残しますが、コンパクトSUVとしてそのイメージを継承するような後継車は登場しませんでした。
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ホンダは2023年11月16日、2024年春発売予定の新型コンパクトSUV「WR-V」を発表しました。
同社のSUVラインナップのなかでも最もコンパクトな全長4.3m級の全長で、かつ最も廉価な200万円台前半からの価格設定が特徴です。
一方でスクエアなフォルムを採用したことでSUVらしい強い存在感を放つと共に、効率的なパッケージングを両立させた点も注目されます。
日産は現在、200万円台前半という価格帯にコンパクトSUVをラインナップしておらず、空白地帯となっています。
まさに今、ラシーンのようなスクエアでコンパクトなフォルムを持つ手ごろなクルマの復活が、日産自身に求められているのかもしれません。