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2年目の新生「ラリージャパン」はどうだった? ラリー認知は拡大? 勇姿見せた勝田貴元選手が振り返る

くるまのニュース 2023年11月29日 15時10分

2022年に12年ぶりの開催となった「ラリージャパン」。愛知県・岐阜県を舞台にした世界最高峰のラリー競技はどのようなカタチで行われたのでしょうか。また日本人ドライバーとなる勝田貴元選手に振り返ってもらいました。

■ラリージャパン、2022年から2023年で何が変わった?

 2023年11月16日から19日にWRC最終戦となる「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」が開催されました。
 
 競技区間となるSS(スペシャルステージ)は昨年よりも3つ増え22か所(合計距離は304.12km)、リエゾン(移動区間)を含めた総走行距離は958.95kmです。

 昨年の反省を活かし、今年は様々な部分にカイゼンが見られました。一番大きく変わったのは「コース設定」でしょう。

 日本の山間部の峠道を活用したSSは昨年から大きな変更はありませんでしたが、新たに豊田スタジアムを活用した「トヨタスタジアムSSS」、岡崎総合公園を活用した「オザザキ・シティSSS」を設定。

 ラリーは海外では馴染のあるモータースポーツですが、日本ではまだまだマイナーなのも事実です。

 それが故に、いきなり山間部でのSS観戦となるとハードルが高い人も多いです。

 そんな中、「多くの人にラリーを見てほしい」、「ラリーの面白さを解りやすく体験してほしい」と想いから生まれたステージです。

 中でも「トヨタスタジアムSSS」はミニ四駆のコースを彷彿させる特設コース(立体交差のジャンプスポットも用意)を2台同時スタート、普段のラリーでは見る事のできない“ガチンコ”バトルを、まるでショーのように観戦が可能になっていました。

 スタジアムの中で走るステージはアクロポリス(ギリシア)が有名ですが、今回の大盛況っぷりからすると、今後ラリージャパンの大きな特徴になるかもしれません。

 一方、「オカザキ・シティSSS」は東京ドーム40個以上敷地と起伏に富んだ地形を活かしたコース設定で、迫力ある走行を安全かつ身近に多くの人が観戦できるステージになっていました。

 これは昨年の観戦席(オカザキSS)がコースから遠い(=川の対岸)上に走行時の砂埃で車両の識別どころか何も見えないと言った数々の汚名を返上できたかなと思っています。

 どちらのSSSも大人数の動員を前提とした場所のため、アクセスのしすやすさはもちろん、移動同線や席の確保に加えてトイレや飲食など観戦時の困りごとに対する配慮もすぐれており、“ラリー観戦”の中では世界的に見ても整ったステージだったと思いました。

 また、山間部のSSは前半が林道コース、後半は狭い斜面に水田が重なる棚田と集落を背景にラリーカーが疾走する「レイク・ミカワコ」に、筆者は昨年に続き行きましたが、昨年よりも移動同線(シャトルバス乗降場所などを含めて)や観戦場所の設置などもシッカリしていたように感じました。

 この辺りは2年目でノウハウが構築された所もあるはず。
ただ、欲を言えば「もう少し近くで見られるといいのに」と思うような場所も。

 この辺りは主催者と土地所有者との交渉なので僕が偉そうにどうこう言える話ではありませんが、来年はどちらにとってもハッピーな案が生まれる事に期待したい所です。

 また、WRCのライブ映像も2年目と言うことで工夫が見られ、昨年WRC公式サイト上で行なわれた写真コンテストのファン投票1位だった旧伊勢神トンネル内に可動式のカメラの設置や、日本の風景の映し方が確実に上手になっているのも確認できました。

 細かい部分では、トヨタはサービスパークを含め昨年以上に水素発電を活用していることで、担当者は次のように話してくれました。

「昨年は“水素発電”というだけで注目され取材も多かったですが、今年は話題すら上がっていません。

 ただ、インフラは元々そういうモノですので、より身近になってきた証拠だと心の中では喜んでいます。

 ちなみに今年は昨年の2割増しでの供給に加えて、TGR-WRTのチームテント内の重要な箇所の電源も担っています。

 昨年は『本当に大丈夫か?』とあまり信頼されていませんでしたが、様々な取り組みや昨年の実績が理解、より本格的な起用となっています」

 更にこれはあまり表には出ていませんが、今回はトライアルながらヘリコプターの活用もスタートしています。

 日本では法律の壁(ドクターヘリと観光用はルールが異なり、同じ条件で離発着ができない)など課題が山積みですが、良いフィードバックが得られたので、今後の展開に注目したい所です。最初は富裕層向けだと思いますが、継続が大事です。

 このように、いい事ばかりだけでなく課題もいくつか。昨年は競技中にステージへの一般車両の侵入などが問題になったが、今年はオフィシャルカーのコース上停止により赤旗中断と言うあってはならない問題が発生。

 更にリエゾン区間の大渋滞によるスケジュールの遅延(渋滞で何度もストップ&ゴーを行なった結果、クラッチ破損でリタイヤした選手もいた)など、安全面や運営面での指摘がありました。

 2024年のラリージャパンは11月21-24日に決定しているので、次に向けて早急なカイゼンをお願いしたい所です。

TGR-WRTが母国日本の道での初優勝を1-2-3-5フィニッシ(Photo:TOYOTA GAZOO Racing)

 そんなラリージャパンですが、結果はトヨタの1-2-3位で幕を閉じました。

 ただ、1番の注目はと言うと、やはりWRCトップカテゴリーに参戦する唯一の日本人ドライバー・勝田貴元選手の頑張りだったと思います。

 勝田選手は2日目のSS2でクラッシュ、一時は33番手まで沈んだ順位を10回のステージでベストタイムを記録しながら追い上げ、総合5位を獲得。

 ちなみに今年のラリージャパンは雨も相まって路面状況は今年のWRCチャンピオンであるカッレ・ロバンペラ選手ですら「日本の道は本当に難しい」と言うくらいのコンディションの中での快走でした。

 ちなみにヤリ-マティ・ラトバラ代表に「今年のコンディションを、代表ではなくドライバーだったらどう感じますか?」と聞いてみたら、「選手権を争っていれば選択の余地はないのでどんなコース、どんなコンディションであっても全力で挑みますが、今は選べる権利があるので……今回は遠慮したいですね(笑)」と思わず言ってしまうほどの厳しさだそうです。

■地元出身の勝田貴元選手がラリージャパンを振り返る

 そんな勝田選手、ラリージャパンの1週間後に行なわれた入門用ラリーシリーズの「TGRラリーチャレンジ」でデモ走行を行なうために来場。

 この合間にインタビューに応じてくれました。実はWRCジャパン直後に体調を崩し、大事を取って直後のインタビューは全てキャンセルされていたのです。

リエゾンでのファンからの対応に感動した勝田貴元選手

―― ラリージャパンを終え、現在の素直な感想を教えてください。

 貴元:気持ち的には1週間経った今もずっと悔しい気持ちでモヤモヤしています。

 いつもなら割とすぐに気持ちを切り替え、「次に!!」という感覚になれるのですが、今回に関しては……。自分が賭けていたものも大きく、とにかく優勝争いがしたかったです。

―― 昨年は3位だったので、当然その上を目指していたと思います。

 貴元:今回は賭けていた所も大きかったですし、自分が優勝争いをすることで日本でのラリー文化の成熟やファンを増やすキッカケになってほしいと思っていたので、結果は欲しかったのは事実ですね。

―― 2日目のSS2でコントロールを失い、クラッシュした時の状況を教えてください。

 貴元:11km地点の右コーナー手前のブレーキングでフルロックしてしまい真っすぐ突っ込んでしまいました。この時は自分でも一瞬何が起こったかわからず。

―― SS終了後のTVインタビューで「コーナーの情報が何もなかった。ノーチャンスだ」と語っていました。

 貴元:ただ、後でオンボード映像を見て検証すると、その区間だけ舗装が異なり極端に水が浮いた状態でハイドロプレーニング現象を起こしていました。レッキの時とコンディションが全く違ったので、路面状況の判断ができなかったのが原因でした。

―― その後に走ったダニ・ソルド選手(ヒョンデ)とエイドリアン・フルモー選手(フォード)も同じ場所でクラッシュしています。

 貴元:彼らは木をかすめて崖から落ちてしまいましたが、僕は運よく1本の木に当たってコース上に留まることができました。

―― その後、マシンを懸命に修復するシーンがWRCのライブ放送で流れました。用水路からペットボトルに水を汲んで、ラジエターに補給しているシーンです。

 貴元:ラジエターは応急処置できましたが、足回りはターマック(舗装路)なのでスペアを持っておらず、真っすぐ走らないような状況でしたが、SS3は気を付けながらフィニッシュ。

 SS4は運よくキャンセルになったのでタイム的には1分半から2分弱くらいのロスで済みました。リエゾン区間はEVモードを使いながら戻りました。

―― ここで、貴元選手は驚きの光景を見たと聞きましたが?

 貴元:沿道に水の入った大きなタンクやボトルを持ったファンが、本当にびっくりするぐらい大勢いまして。

 恐らくTV映像を見たと思いますが、僕に手振りながら「水あるよ!」と。規則で水を受け取ることはできませんが、その気持ちが嬉しかった。

 最後まで走り切れたのは、日本のファンの熱さに後押しされたと思っています。感謝しかありませんね。

―― サービスパークに戻ると、メカニックは45分の限られた時間で見事に修理。SNSでも「新車に戻った」、「魔法かよ!」と沸いていました。

 貴元:彼らには本当に感謝しかありません。自分の中では残念な気持ちもありましたが、ラリーはまだ終わっていないので、とにかく自分ができることを精一杯やろうと。

―― ラトバラ代表に聞くと「直前までタイムは良かったので、飛ばし過ぎ。10%力を抜けばいいタイムになるから落ち着いて」とアドバイスがあったと聞きました。

 貴元:そのような走りを実践したら、タイムがポンポンと出ました。

 もちろんプッシュはしていましたが、自分の中では「これ以上は無理」ではなく、コントロール下においてまだマージンが多少残るようなプッシュでした。クルマのフィーリングも良く、何とか5位まで追い上げることができました。

―― 当然、4位は狙っていましたよね?

 貴元:何とか追いつきたいと思っていましたが、最終日はマシンのフィーリングが良くなくて、ペースを上げられない状況でタイムを上げられませんでした。

 特にエナ・シティでは僕だけでなくトヨタのドライバーが同じようなコメントだったので、原因をシッカリと追究したいと思います。

―― ただ、日本のファンに貴元選手の「速さ」は見せられたと思います。

 貴元:スピードという部分に関しては、来年に向けて非常にポジティブな面を見せられたと思っています。

 もちろん、『もっとできたんじゃないか?』とか『違った展開にできたんじゃないか』といろいろ思う所もたくさんあります。

 でも、次に向けて進まないといけません。今回のポジティブな所を来年のオープニングであるモンテカルロから、今回と同じようなスピードで走り始められるよう、集中してやっていこうと思っています。

■貴元選手、2024年シリーズはどう戦う?

―― 貴元選手にとって、今回のラリージャパンはスゴく悔しい戦いだったと思います。しかし、僕はあのクラッシュこそが、ラリーに疎い日本の人たちに、『ラリーとはこういうモノだ』をよりリアルに伝えたと思っています。

 貴元:そう言われると、その通りだと思いました。

 確かに『ステージ走行中のトラブルはドライバー/コドライバーが修復する』、『ラリーは生き残ることが大事』、『サービスパークではメカが時間内に修復』と言った事は、話では聞いた事はあっても実際に見た事がない人が多い。

 そういう意味では、日本人にとってラリーを色々な角度で知ってもらえる導線にはなれたかなと感じました。そう言っていただけて、自分の中の心のモヤモヤが少し晴れました。

―― 来期はレギュラードライバーとして全戦に臨みます。2023年の王者であるカッレ・ロバンペラ選手がフルタイム参戦しないため、チーム内ではエルフィン・エバンス選手に次ぐナンバー2の重要なポジションです。

 貴元:今年は昨年よりもランキングは下でしたが、パフォーマンス的には上がった部分がたくさんあったと思っています。

 自分の中では非常に苦戦し、出したい結果とは異なる部分があったものの、今後の自信に繋がる一年だったような気がしています。

 そういう意味では、来シーズンは自分の力を証明する重要な年だと認識しています。

 表彰台に常に登れるように、そして優勝するためにフルでアタックします。そしてシーズンを通して成長できるように頑張りたいと思います。

2024年はフル参戦の勝田貴元選手

―― ラリチャレの開会式で同じくデモランのドライバーとして来たWEC代表兼ドライバーの小林可夢偉選手が「僕も来年のラリージャパンに出たい」と宣言していました。彼もWRCジャパンを見て感化されたようですが、何かアドバイスがあれば。

 貴元:(笑いながら)マジですか? いきなりは結構難しいので、まずは色々なラリーに出たほうがいいです。

 ドライバーなので「遅く走れ」、「抑えて走れ」と言われても無理です。

 レーシングドライバーは何が遅い、何が速いかを一番理解しているので、どんどん限界に近づいちゃうと思います。

 そうなる前にラリーをある程度こなして、ラリージャパンに行ったほうが、たぶん落ち着いて楽しめるでしょうね。もう一度言いますが、いきなりはダメです(笑)。

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