トヨタが2023年11月13日に発売した新型「クラウンセダン」とは、どのようなモデルなのでしょうか。HEV・FCEVの2タイプをそれぞれ試乗して体感してみました。
■注目の「正統派セダン」を早速体験!
トヨタは2023年11月13日、新型「クラウンセダン」を発売しました。
新型4タイプ中、従来のセダンボディを継承しましたが、どのようなモデルなのでしょうか。早速編集部が試乗して確かめてみました。
16代目となった新型クラウンは、「セダン」「クロスオーバー」「エステート」「スポーツ」という計4タイプが用意されることになりました。
ほかの3タイプは、従来のクラウンとは大きく異なった性格へと変化し、いずれもクロスオーバーSUVスタイルを融合させたものとなっています。
その一方で、新型クラウンセダンのみ歴代のキャラクターを強く踏襲。2022年上旬に先代クラウンが販売終了してから約1年半ぶりにセダンボディが復活した形となりました。
具体的には、先代同様4ドアでクーペスタイルのセダンボディをもち、かつ駆動方式もFR(後輪駆動)を採用しました。
パワートレインは、2.5リッターエンジンの「マルチステージハイブリッドシステム」(以下HEVモデル)もしくは、クラウン史上初となるFCEV(水素燃料電池車)も用意しています。
今回は、この2タイプともに試乗することができました。
まず、エクステリアを見てみると、近年のトヨタ車に採用されている「ハンマーヘッド」モチーフデザインのフロントフェイスや真一文字のテールを装備。新型クラウンシリーズとも共通しています。
しかし、ほかのタイプとは明らかに風格が違うことがわかります。
ボディサイズは全長5030mm×全幅1890mm×全高1475mm、ホイールベース3000mmと、4タイプ中最大です。
この大柄なボディサイズもさることながら、縦バーのロアグリルや大きなリアドア、エレガントなマルチスポークのホイールなどが最上級モデルらしい「格」を感じさせます。
一方で、近年の大型セダンやSUVなどに見られるような派手なメッキ加飾などはなく、落ち着いた雰囲気を醸し出している印象です。
インテリアは、落ち着きのある仕上がりでつや消しの木目調パネルもあしらわれるなど、大人びたシックなデザインです。
カラーはブラックとミッドブラウンを設定していますが、いずれのタイプを見ても華美なものではなく、エクステリア同様にメッキを多用した装飾もないので、リラックスして移動できるように感じられます。
運転席周りでは視線移動も少なく、メーターの視認性やシフトノブの操作なども良好です。ショーファーカーとして後席に座るのみではなく、オーナー自身がハンドルを握っても運転しやすいことを重視され、設計されていることがわかります。
さらに、後席の快適性は特筆すべきものです。
基本的には後席にVIPや重役を乗せるといった使われ方をしてきた歴代クラウンですが、この特徴もさらに進化させました。
シートはゆったりとした大きなもので、左右席でシートヒーターに加えてシートベンチレーションを装備するほか、リクライニング機能、身体を押圧するリフレッシュ機能を備えるなど、後席に座るVIPへ最大限のもてなしを実現しています。
先代と比較すると別のモデルに乗ったような印象を受け、クラウンのクラスを超えた「正統なセダン」であることが実感できます。
しかし、正統とはいえフォーマルな場面のみならず、日常においても使えるカジュアルさも兼ね備えており、平日は後席に座り、休日は自らハンドルを握ってドライブするといった使い方も十分に可能だと感じます。
■「運転して楽しい」? クラウンセダンの乗り味は?
では、実際に2モデルを走らせ、前席および後席の乗り味について確かめてみます。
まずは2.5リッターHEVモデルから乗ってみました。
試乗したエリアは横浜市内で、会場となったホテルを出発後、市街地と首都高速を使うというコースでした。
まず、会場から出る際にホテル敷地内の大きな段差を乗り越えた時点で、極めて静かでかつ、路面の衝撃を感じさせない乗り心地であることがわかります。
しかも、乗車したモデルが20インチのアルミホイール(通常は19インチ)に扁平タイヤを組み合わせる「ブラックパッケージ」装着車で、薄いタイヤを履いていることを全く実感させません。
首都高速のつなぎ目でもフラットな乗り心地で、湾岸線の比較的速い流れであっても不快な振動や騒音などが極力抑えられているとともに、ベイブリッジ走行時など風の強い状況でも安定した走行です。
これはドライブモードを「ノーマル」に設定した状態ですが、シフトノブ後ろにあるスイッチをスライドさせ、後席の乗員に配慮した「リア・コンフォート」に変更すると、なめらかさが増し、よりマイルドな乗り心地へと変化します。
さらに、リア・コンフォートでは走行時の電子制御サスペンションAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンション・システム)の減衰力を調整するだけでなく、加減速時などでピッチング(クルマが前後に傾くこと)を抑えるようなアクセル制御とすることも、乗り心地の向上に一役買っているようです。
なお、後席においてはリア・コンフォートモードの特性は運転しているほど感じられないものの、大きな段差の通過時にはわずかながら違いを感じることができました。
そして、ハンドリングを確かめます。横浜エリアの首都高速は急なコーナーが多く比較的流れも速いため、ちょうど良いコースでした。
走行時は昼前で周囲のクルマは少ないうえに、通常よりもペースは速いのですが、実に自然な仕上がりであることがわかります。
これはFRプラットフォームを採用し、エンジンをボディ中央寄りにしたことで重量配分が優れていることに加え、背の低いボディも相まって、姿勢変化が少なく快適性を損なわないとともに、運転していて楽しいと感じるほどドライバーに忠実です。
2.5リッターのハイブリッドシステムは、2トンを超える重い車重をものともせずに加速ができます。
HEVモデルでは通常発進時はエンジンを用いないEVモードで、非常に静かでスムーズなスタードが可能ですが、静かゆえに途中で始動するエンジン音が少し気になるかもしれません。
ただし、先代の2.5リッターハイブリッドモデルでは、状況によっては発信後すぐにエンジンが始動したところ、新型ではEVモードでの許容範囲が広がり、市街地走行程度であればストレスなく走行できました。
そして、クラウン初のFCEVモデルに乗り換えてみます。
HEVモデルとは重量の差はわずか20kgですが、アクセルを踏んだ瞬間からすぐに最大トルクが発揮できるモーターの特性もあり、さらに軽いクルマを運転している感覚です。
むしろ、モーターのレスポンスの高さから運転していて楽しいと感じることもあり、ついついアクセルを踏んでしまう印象でした。
室内はパワートレインから発する音が感じられないため、ストレスから開放される一方で、タイヤの静粛性が気になります。
舗装状態の良いところでは極めて静かで、ショーファーカーとしての役割を考えると、より雑音が少なく静かなFCEVモデルのほうが正しい選択のようにも思えます。
しかし、FCEVに乗ったあとHEVモデルに改めて乗り比べてみても、静粛性能は遜色のない仕上がりであることも再認識でき、開発担当者によれば「より高いレベルに仕上がったFCEV並みの快適性」が実現できていると感じました。
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ショーファーカーとしてのイメージが強い新型クラウンセダンでしたが、実際に試乗してみると、どのような場面でも使えるという、セダンならではの懐の深さを実感できました。
また、車高が高く、見下ろすような運転姿勢のSUVが主流になっているなかで、セダンの扱いやすさやスタイリングの良さを再認識できるクルマに仕上がっていると感じます。
トヨタは新型クラウンセダンについて「正統派セダンを再定義する」といいますが、まさに「セダンの良さ」を考えるきっかけのモデルとなりそうです。