最近のガソリンスタンドでは、「自走しないクルマ」や「携行缶」への給油は不可としているところが増えています。諸事情によりこうした給油が必要な場合がありますが、なぜ現在では禁止しているのでしょうか。
■携行缶でガソリンを買うのが難しい時代
よく行くガソリンスタンドが、ガソリンを携行缶で売ってくれなくなったというケースが増えています。
なぜ、携行缶が買えないのでしょうか。また、買えなかった場合はどうしたらいいのでしょうか。
クルマの緊急時や災害時に備えて、ガソリンを携行缶に貯めておく人や、農業機械を動かすために携行缶からガソリンを補充する人もいます。
携行缶でガソリンを買うとういうことは日常的で、社会もそのためのしくみをつくってきました。
しかし、ガソリンは静電気の火花で引火するほど危険なものです。そこで、消防法によって、家庭や企業が持てるガソリンの量を制限しています。
ガソリンを入れる携行缶も、規定に沿ったものを使用するよう定めています。灯油用ポリ容器やペットボトルをその代わりにすることはできません。
さらに、携行缶へ注油するときは危険物取扱者の立ち会いが必要です。
数年前までは、有人ガソリンスタンドに行けば携行缶へすぐに給油してくれていました
ところが、最近では携行缶を持ってガソリンスタンドへ行っても、給油を断られるケースが増えているのです。一体なぜなのでしょうか。
実は、ガソリンを携行缶に詰め替えて販売することに規制が設けられたのです。
2020年に消防法が改正され、ガソリンスタンドは身分証明書でお客さんの本人を確認し、ガソリンを使う目的を聞かなくてはならなくなりました。また、その販売記録もつけなくてはなりません。
さらに、これまではユーザーが自分で給油できましたが、改正により従業員による給油しか認められなくなりました。
こうした動きには、2019年に起きた京都アニメーション放火事件が背景にあります。犯人が放火に使ったガソリンは、発電機に使うためとしてガソリンスタンドで購入されていました。
ただでさえ忙しいガソリンスタンドにとって、従業員による携行缶への給油は負担が増えることです。とりわけ人員不足で困っているガソリンスタンドでは切実な問題となりました。
そのため、安全性や管理の難しさなどを考慮して携行缶への小分け販売をやめるという店舗も増えています。それにより、いくら近くにスタンドがあってもガソリンを携行缶で売ってくれない、という声も聞かれます。
■携行缶で買えない。ではどうする?
トラクターやコンバインといった農業用器具を使うユーザーのなかには、ガソリンスタンドで携行缶に給油し、一定量を自宅に備蓄しておくケースも多いと言います。
こうしたユーザーにとってガソリンの確保が難しいということは、より深刻かもしれません。
現状をうけて農業用器具メーカーは電動トラクターや電動コンバインの開発を進めていますが、普及するのはもう少し先のようです。
現状は、携行缶で販売してくれるガソリンスタンドをより多く見つけることしか解決策がないというのが実情です。
また、クルマの緊急用に携行缶でガソリンを保管していた人は、その対策方法も変わってきます。
もしもガス欠になってしまったら、最寄りのガソリンスタンドを探し、完全にガソリンがなくなる前に着くように心がけることが大切です。
周りに何も見つからない場合は、ロードサービスを要請してください。このとき、クルマをなるべく安全な路肩に停めて待機することが大切です。
一方で、水上スキーなど道路を自走しない乗り物について混乱が起きているようです。
トレーラーに牽引されたものに直接給油はできない、と断られるケースもあるようですが、従業員が対応してくれるガソリンスタンドであれば、携行缶と同じように自走しない乗り物に注油してもらうことは可能です。
しかし、店舗によっては、従来通り携行缶での販売を続けているところもあります。
関東の海に近いエリアにあるガソリンスタンドの担当者は、次のように話します。
「当店では、携行缶と免許証をお持ちいただければ、ガソリンを販売しております。携行缶への販売の可否は、店舗によって異なっています」
地域の需要によっては携行缶販売を続けているところもあるようなので、携行缶でガソリンが欲しい場合は、利用したい店舗に問い合わせてみるといいでしょう。
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セルフ式ガソリンスタンドなら自分で携行缶にガソリンを給油できるかというと、そうではありません。消防法により携行缶へは従業員が給油しなくてはならないのです。
相談すれば小分け販売に従業員が対応してくれる店舗もあるようですが、1日で規定の販売量を超過すると断られる場合があります。