一般人が警察に変わって現行犯逮捕を行う「私人逮捕」がSNSで話題となっています。この私人逮捕ですが、運転中に起こり得る煽り運転(あおり運転)被害にも有効なのでしょうか。
■最近話題の「私人逮捕」って煽り運転にも効果的なの?
最近では「私人逮捕」と呼ばれる、一般人が警察に代わって現行犯逮捕を行うことがSNSで話題となっています。
私人逮捕が成立するにはいくつかの条件が存在しますが、仮に煽り運転(あおり運転)の被害にも効果的なのでしょうか。
そもそも私人逮捕とは、一般人が警察に代わって現行犯で犯人を取り押さえることを指します。
取り押さえた身柄は、すぐに警察に受け渡すことが求められるため、取り押さえを現場にいた人間が代行するといったイメージで間違いはないでしょう。
さらに、私人逮捕を成立させるためには、主に2つの条件が存在します。
1つ目は犯人が現行犯、または準現行犯であること。2つ目は犯人が逃走する恐れがあるという点です。
私人逮捕にはいくつかの例がありますが、最近SNSで取り上げられて話題となっているものは、例えば転売などが行われる現場で「転売ヤー」の犯人を取り押さえて警察に身柄を引き渡すという内容です。
これを実現するために、私人逮捕を行う側は事前にSNSで転売ヤーの情報を収集し、その上で現場で張り込みを行うなどといった複数の準備段階が存在していることが想定されます。
これは準備体制も整って、不意打ちで犯人を複数人で取り押さえるからこそ成立している私人逮捕であり、これを煽り運転に置き換えて考えると、基本的に突発的に発生する事象であることから、瞬時の行動と判断が求められます。
ドライブレコーダーを搭載する以外、事前準備などはない状況下で、煽り運転の犯人を取り押さえることは極めて難しいと言えます。
仮にも私人逮捕を実現するとすれば、信号待ちなどで煽り運転の犯人がクルマから降りてくるケースは珍しくないので、そのタイミングであれば、現行犯という条件も成立します。
しかし、これは自身のクルマに搭載されたドライブレコーダーや、同乗者が携帯などで動画を撮影し、証拠がしっかりと残されている前提です。
これは過度な取り押さえなどで、私人逮捕の正当性がないと判断されかねない場合もあるというリスクをカバーするためです。
とはいえ、道路上にクルマを止めたまま犯人を取り押さえるのは難しく、白昼であればまだしも、夜間であれば後続からの視界も悪いことから二次被害的な交通事故に発展する危険性も大いにあります。
これらの事象を考えると、条件は満たしていることから理論上は可能でも、煽り運転の犯人に対する私人逮捕は現実的ではなく、逆に極めて危険な行為とも考えられます。
最近ではSNSで私人逮捕が話題となっていますが、不十分な証拠で逆に何かしらの損害請求が発生したり、犯人の抵抗による怪我なども考えられるので、私人逮捕の現場は危険と隣り合わせであることを忘れてはなりません。
煽り運転被害に遭ったり、現場を見かけた場合は、犯人と直接取り合うのではなく、加害車両の車種、色、ナンバー、進行方向、事故発生時の時間帯の記録、証拠動画などを警察に通報することが理想的です。
■煽り運転の私人逮捕! 専門家の見解は?
そんな煽り運転被害に対する私人逮捕について、弁護士は次のように話します。
「一般的な煽り運転の被害は、犯人が信号待ちなどで降りてくるというケースを除いて、そのまま走り去るというのがほとんどです。
そのため、取り押さえる方法が現実的に限られているので、そもそも逮捕ができません。
仮に信号待ちなどで降りてきた場合は、ドライブレコーダー等で証拠を残し、その場で取り押さえて警察に身柄を引き渡すことは理論上は可能です。
しかし、道路上にクルマを止めたまま加害者を取り押さえることは二次被害的な交通事故に発展する危険性があります。
仮説的に考えても、煽り運転で私人逮捕を試みるのは総合的な合理性に欠けると感じますし、状況によっては危険も伴うので、警察に通報するほうが賢明でしょう」
このように、私人逮捕には危険な要素も含まれるため、煽り運転被害に対しては現実的な対応策ではないと言えます。
そのため、煽り運転被害に遭った場合や、現場を目撃した際は、証拠を記録して警察に通報することが理想的です。
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煽り運転被害に遭った場合は、迷いなく110番で通報することを警察も推奨しています。
また、ドライブレコーダーの搭載がない場合でも、携帯電話などで証拠を押さえることも有効的です。