かつてマツダは「ベリーサ」というコンパクトカーを展開していました。現在は新車として存在しない同車は一体どのようなモデルで、なぜ消滅してしまったのでしょうか
■「スペシャル」を目指したコンパクトカー
マツダのコンパクトカーといえば、伝統的な車種として「デミオ」が挙げられます。
1996年の初代モデル登場以降、フルモデルチェンジを繰り返しながら、現在は「マツダ2」と改名した4代目が販売されているなど、同社を代表するクルマと言えます。
その一方で、デミオとは異なるキャラクター性を持つコンパクトカーとして、かつて「ベリーサ」というモデルが存在していました。
ベリーサは2004年6月に発売した「セミトールワゴンタイプ」のコンパクトカーです。
当時すでに2代目となっていたデミオと同じプラットフォームを採用していることから、ホイールベースはデミオと同じ2490mmですが、ベリーサの全長はデミオよりも50mm長くなっており、やや大きなボディサイズを採用していました。
ベリーサはベースのデミオよりも高級志向のモデルとして位置づけられていたため、当時は珍しかったアドバンスドキーを標準装備したほか、本革シートやHDD内蔵のミュージックシステムをオプションに用意。
ハイグレードな装備を用意することで、積極的に他車との差別化を図っていました。
また、上質な仕立ては装備品のみならず、広々とした車内空間に防音材を取り入れ静音性を高めるなど、ワンランク上のコンパクトカーに相応しい設計が施されています。
搭載するパワーユニットは、最大出力113馬力・最大トルク14.3kgf・mを発揮する1.5リッター直4エンジンに4速ATの組み合わせで、駆動方式はFFと4WDから選択が可能。
これはデミオの上位グレードと同じエンジンで、1100kgの車重には十分なパワーによってコンパクトカーらしい軽快な走りが特徴です。
■高く評価されるも販売数は
このように、上質な内外装に加えて静音性や走行性能も高いレベルでまとめられたベリーサは、2004年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」で特別賞に選出。
同年12月には限定800台の限定車をリリースするなど、販売数の拡大を図ります。
しかし、完全な新規モデルゆえの知名度の低さや、そもそも同門のデミオが欠点の少ないクルマだったこともあり、ベリーサの販売数はマツダの予想に届かず伸び悩みます。
マツダは同車の訴求力を増すべく、当初オプションだった本革シートを標準装備に変更するなど意欲的なマイナーチェンジを繰り返しますが、2015年に生産が終了。
2004年のデビューから11年と販売期間は長かったものの、明確な後継モデルは登場せず、1代のみで姿を消しました。
※ ※ ※
ベリーサの登場した当時のマツダは「Zoom Zoom」をブランドメッセージとし、ラインナップ全体でスポーティさを表現していたことから、上級思考のベリーサは大衆モデルながら「一風変わった存在」と捉えられていた面も否定できません。
しかし、現在のマツダはスポーティさとともにブランド全体で上質感を演出しており、デミオを改名したマツダ2には高級感のある本革シートが用意されるなど、かつてのイメージとは異なるメーカーとなっています。
ベリーサ自体は後継車種なくモデル寿命を終えましたが、実用的なモデルの中に上質さを追求したその「志」は、現在のマツダ車の中に息づいているのかもしれません。