昨今、トヨタ、トヨタグループは認識不正など様々な問題で話題となっています。そうした中で度々、話題にのぼるのがトヨタの会長となる豊田章男氏です。あらゆる面で矢面に立つ豊田章男氏ですが、その素顔とはどのようなものなのでしょうか。
■トヨタの会長・豊田章男氏とは
トヨタ自動車会長兼マスタードライバー、ドライバーのモリゾウ、ルーキーレーシングのオーナー、FIA評議員、そしてトヨタ不動産会長など、様々な顔を持つ豊田章男氏。
何かと話題になることも多いですが、その素顔とはどのようなものなのでしょうか。
これまでピンチの時もチャンスの時も、常に毅然とした態度で我々の前に現れた豊田氏ですが、様々な行動が一般的な企業の経営者のそれとは違う事から、いやが応でも目立ち、数多くの誹謗中傷も浴びてきました。
2024年の東京オートサロンで、豊田氏は「ようやく私は“普通のクルマ好きのおじさん”に戻ることができたと思っています」と語りましたが、実はその部分はあまり表に出ていません。
1つ目は「リアルに自分で運転している」です。
多くの人はGRMNセンチュリーのリアシートから颯爽と降りる姿、またはモータースポーツシーンでマシンを駆る姿が思い浮かぶと思いますが、普段も普通に運転しています。
プライベートでは皆さんが想像するようなスポーツモデルにも乗っていますが、その多くは「小さなクルマ」が多いです。
この辺りは2022年に静岡県湖西市で行なった中学生への特別授業の時に、生徒から「普段はどんなクルマに乗っていますか?」と言う質問に対してこのように答えています。
「マスタードライバーは『これってトヨタのクルマだよね?』、『これっていいクルマになってきたな?』を判断するセンサーが必要です。
ただ、大きなクルマばかり乗っているとそのセンサーが鈍ってしまうので、自分自身のセンサーを研ぎ澄ませるためにも普段は小さいクルマに乗っています」。
豊田氏は様々なクルマを所有していますが、そのラインアップは小さいクルマが中心となっています。
東京オートサロン2024では「GRカローラ」や「iQ GRMN」と共に軽自動車のスズキ「ジムニー」が展示されていました。
筆者はこの時トークセッションに一緒に参加しましたが、ジムニーを間近で見るとリアルに使っている“跡”も見つけました。
ちなみにジムニー以外にはダイハツ・「ムーヴキャンバス」、「タフト」も所有。更に最近“古い”軽自動車も手に入れたと言う噂も聞きます。
自工会会長時代に豊田氏は「日本の道路の85%は軽のサイズだからこそ、スムーズに行き来ができる狭い道路です」など軽自動車について良く話をしていましたが、実はあれは“リアルユーザー”としての意見だったのです。
自工会副会長の1人であるスズキの鈴木俊宏社長は「これまでは一生懸命軽自動車の事を話していましたが、章男さんがしっかり話してくれるので、今ではその必要がなくなりました」と教えてくれました。
そんな豊田氏は本社がある愛知と東京を頻繁に行き来しながら仕事を行なっています。
業務中はセンチュリーのリアシートですが、プライベートでは東京/愛知の街中を自らステアリングを握って走っているそうです。
その時は当然機動性に優れた“小さなクルマ”が活躍しています。そして、本当に運転をしているので“道”もとても詳しいです。
豊田氏は普段は分刻みのスケジュールで動いていますが、庶務車ドライバーにとっては「時間に間に合わない=恐怖」との戦いです。
そんな時も「ここを曲がると抜け道」、「この時間はここが渋滞する」など、プロ顔負けの詳しさを発揮して渋滞を見事に回避。
関係者も「抜け道の知識は、本当に敵わない」と言います。
豊田氏は普段から「運転大好き」と公言していますが、関係者からの証言を聞けば聞くほど“本物”だと言う事が解ります。
「東京→静岡(ルーキーレーシング)→名古屋を一緒に移動しましたが、3-4時間の行程をずっと運転。
途中で交代しようと思いましがが、とにかくステアリングを離さない」
「庶務車のドライバーの具合が悪くなった時、そのドライバーを横に乗せて自らステアリングを握って目的地まで向かった」
「オートポリスから宿泊先までの狭いワインディングを、大きなクルマを上手に操りながら気持ちよさそうにドライビングしていた」
■豊田章男氏の好きな食べ物は「普通のカレー?」
2つ目は「スマホの扱いが若者並み」だと言う事です。
プロドライバーとの会話はもちろん、社内からの連絡もレスポンス良く返信。
クルマに関するニュース/情報は社内だけでなく外部がどのように感じているのかを知るために、自らサクサクと調べてキャッチしていると言います。
そのため、検索アルゴリズムは完全に“クルマ中心”だとか。
社内の関係者によると「良い記事/そうではない記事も含めて、誰よりも早く見つけて反応、我々にも共有いただいています。時には会長からの連絡で初めて気が付くような事もあります」と。
筆者も記事を掲載した直後、最初に章男さんからの反応があり驚いた事が何度かあります。
それも単なる社交辞令ではなく、「これは●●だね」と、内容をシッカリと読んだ上での具体的な感想でビックリしました。
ちなみに世の中では「豊田氏はメディア嫌い」と言われていますが、詳しくは「現場に来て取材をしていない批判記事」に対しての話です。
ここ数年、新聞・経済紙でトヨタが伝えたい事を正しく理解せず、曲解な記事が出ていますが、その時にも現場でちゃんと取材している記者に対しては、社内で様々な事情があることも理解しているので厳しい事はあまり言いません。
筆者も時としてトヨタに関して厳しい事を書くこともありますが、それに関するクレームは1度もありません。
以前、章男さんが筆者の記事に対して「イラっと来たが、図星だから何も言えない」と聞いた事もありました。
このように章男さんはスマホを巧みに使いこなす一方で、肝心なスマホを置き忘れてしまう事もあります。
筆者も1度、富士スピードウェイでGRMNセンチュリーにサッと乗り込んでチームスタッフやファンに「お疲れ様~」と声を掛けながら静かに立ち去ったと思いきや、数分後になぜか一人でトボトボ歩いて戻り「スマホを忘れた」と言う“珍事件”も目撃。
そんな反省からか、現在はショルダーストラップを使用しています。
3つ目は「庶民的な食べ物が好き」です。好きな食べ物はカレーライス、それもオシャレなモノではなく、シンプルな “普通”のカレーです。筆者も何度か食事をご一緒した事がありますが、カレー率は高めです。
実は2007年にニュルブルクリンク24時間レースの初参戦時も大量にレトルトカレーを持参。
毎日のように食べていたのでヘルメットの中がカレーの匂いで充満というエピソードもあったと言います。
今、章男さんの1番のお気に入りは愛知県蒲郡市にあるトヨタグループの研修施設KIZUNAで提供される「通称:KIZUNAカレー」です。
これは「健康的で家庭的でホッと落ち着くカレー」と言う章男さんのオーダーに対して、シェフが「地産地消によるCO2削減」、「廃棄素材を活かしフードロス削減」、「健康への配慮」の3つを意識して開発。
ただ、クルマと同じく「これで完成」ではなく、章男さんとシェフとの「料理のキャッチボール」をしながらカイゼンが続けられています。
つまり「もっといいカレーづくりに終わりはない」と言うわけです。
カレーと言えば、章男さんは2022年にタイ・バンコクで行なわれた「タイトヨタ60周年式典」で、「タイに住んだ暁には、ソンブーン・シーフードのすぐ隣に住んで、毎日プーパッポンカリー(蟹カレー)を食べにいくでしょう」と言う発言が話題となりましたが、このプーパッポンカリーも好物の1つ。
ただ、最近では「グリーンカレーにも興味がある」との事でした。
■「“究極”の客寄せパンダ?」ってどういうこと?
そして最後は「公私共に軸が全くブレていない」事です。
章男さんの行動すべては「自分以外の誰かのため」、つまり「Youの視点」で行なわれています。
これはトヨタの経営理念である「幸せの量産」、そしてクルマを走らせる550万人に対する「ジャパンLOVE」にも繋がっています。
章男さんは会長になった今も様々な肩書・顔を持っていますが、それらを引き受ける根底は、ここにあると筆者は考えています。
そんな章男さんは、社長時代よりも率先してモータースポーツをはじめとする様々なイベントに顔を出しています。
それは自分が目立ちたいわけではなく、自分の知名度を活かして、「モータースポーツをもっと好きになってほしい」、「アスリートであるドライバーにもっと光が当たってほしい」、「来場者にもっと喜んでいただきたい」と言った強い想いからです。
要するに、みんなの喜びのためなら「自分は“究極”の客寄せパンダを演じる」と言う事なのでしょう。
直近では、8月17日に富士スピードウェイで開催された「TGDP夏祭り」にも参加。
それだけでなくTGRドライバーたちの運転を助手席で体験できる同乗走行「サーキットエクスペリエンス」に飛び入りでドライバーも担当(同乗できた人は超ラッキーでした)。
ただ、ほとんど知られていませんが、レースやイベントの合間に章男さんは何をしているかと言うと、土日や休日など全く関係なく“通常業務”を行なっています。
バックヤードに分刻みでひっ切り無しにやってくる社員の姿を見ると、まさに「章男クリニック」と言ってもいいかもしれません。
ただ、社員は治療されスッキリして帰ってきますが、肝心な章男さんを治療する人は誰もおらず。
恐らく、体力的・精神的にも辛いはずですが、そんな中でも「自分が役に立てるならば」と、そんな素振りを一切見せることなく、常に満面の笑顔でみんなの前に表れて楽しませ、喜ばせるのです。