中国のBEVブランドで、その近未来的なデザインを特徴としていた「HiPhi」。その親会社「ヒューマン・ホライズンズ」は2024年8月8日に現地の裁判所「塩城経済技術開発区人民法院」へ破産を申請しました。再建の可能性はあるのでしょうか。
■近未来デザインが特徴の中国BEVブランド「HiPhi」、ついに倒産
中国のBEVブランドで、その近未来的なデザインを特徴としていた「HiPhi」がついに倒産しました。
再建の可能性はあるのでしょうか。
「HiPhi」は中国のモビリティ系ベンチャー「ヒューマン・ホライズンズ」が展開するBEVブランドです。
同社は先進的な技術を主軸に置いた車両設計をおこなっており、2019年に登場した最初のモデル「X」はヘッドライト直下に搭載するLEDディスプレイなど、多くの点で近未来的要素を取り入れて話題を呼びました。
2022年には2番目のモデルとなる5ドアのグランドツアラー「Z」をお披露目。
HiPhi Xよりもより角張って、直線的なシルエットを描くボディはまるでSF作品に登場するかのような装甲車にも見えます。
また、リアデザインは二段重ね、ドアは観音開きとコンセプトカーのような見た目をしておきながら、普通に購入できる市販車というギャップが注目を集めることとなります。
デザインだけでなくスポーツ性能もアピールしており、最高出力662hp・最大トルク820Nm、0-100km/h加速 3.8秒という凄まじい加速を誇ります。
中国本国では51万元から63万元(約1051万円から1299万円)と、先にリリースされたHiPhi Xに近い価格帯で販売されていました。
「X」と「Z」の2モデルはHiPhi初の海外市場であるドイツやノルウェーでのローンチモデルとしても投入され、ドイツでは中国よりも約600万円ほど高い10万9000ユーロ(約1774万円)と10万5000ユーロ(約1709万円)でそれぞれ販売されました。
欧州各国では2023年第3四半期の納車開始を予定していたものの、その計画が大幅に遅れるなど、当初から順風満帆とはいきませんでした。
HiPhiはその後、2023年により安いSUVモデル「Y」を発売、また、ドイツのスーパーカー「アポロ・アウトモビル」とのコラボレーションで誕生した「A」も発表しました。
HiPhi Yは受注開始後1週間ほどで2000件の予約を受け付けたと大々的に発表しましたが、35万元(約721.6万円)級という価格はライバル車種と比べると若干の割高感が否めず、すでにスタート時から先行きが不安視されていました。
中国国内におけるHiPhiの売れ行きは、今まで一度たりとも好調だったことはありません。
月間販売台数800台以下の月が連続することは珍しくなく、2023年の累計販売台数はたったの4829台でした。
巻き返しを図るべく2023年には廉価モデルの「HiPhi Y」が投入されましたが、一時的にブランド全体の月間販売台数は1800台前後へ改善したものの、すぐさま元の状態へと逆戻りをしてしまいました。
HiPhi車種は韓国の自動車メーカー「キア」を中国国内で生産する合弁会社「悦達キア」が生産を請け負っており、江蘇省塩城市にある工場は年間15万台の生産能力を有しています。
ですが、その能力は常時持て余すことが当たり前の状態となっており、HiPhiが明らかに市場における自身の価値を過大評価していたことがわかります。
そして2024年2月19日には唯一の工場を6か月間停止、それに加えて従業員の給与支払いも延期されたことが明らかとなりました。
その直前から2023年末ボーナスの支給中止や、役員報酬の削減、そして中国各所にある販売拠点の閉鎖など暗い話題が続いていましたが、工場の稼働を停止ともなれば、いよいよHiPhiの限界が近いのではないかと、まことしやかに囁かれました。
工場を稼働停止させている間、HiPhiトップのDing Lei氏は国営自動車メーカー「長安汽車」の本社を訪問、HiPhi存続のための買収を持ちかけたと言われています。
また、HiPhiの役員自ら動画配信でライブコマースを実施、既存客へのサポートを継続させる資金を集めるため、飲料や肉製品を販売している様子も見受けられました。
長安汽車による買収話は無くなったものの、今度は2024年5月に謎のアメリカ企業「iAuto」が12億米ドルでHiPhiの再建に投資すると発表しました。
iAutoはBMWの中国における合弁相手「ブリリアンス・オート」を創業した仰融氏がトップを務めているとのことですが、iAutoの再建計画に関する一切の詳細は不明でした。
この再建計画はわずかな希望を予期させるものでしたが、HiPhiの親会社「ヒューマン・ホライズンズ」は2024年8月8日に現地の裁判所「塩城経済技術開発区人民法院」へ破産を申請しました。
今後、同社は6か月の間に新たな出資者の募集を含む、さまざまな会社再生手続きをおこなうこととなっています。
HiPhiが世に送り出した車種のコンセプト自体は悪くありませんでしたが、一方で製造クオリティや中身のシステムが価格に見合っていないことが、市場で受け入れられなかった一因と言えます。
どのような形で再建、そもそも再建することが可能なのかも不明ですが、少なくともHiPhiが今まで販売したクルマとそれを購入した消費者、そしてHiPhiのために力を尽くした従業員に対する責任はしっかりとまっとうすべきでしょう。
消費者にクルマを売るだけ売り、会社自体がのちに消滅してしまうパターンは中国では珍しくありません。
長期的な見通しが立っていないようであれば、真に消費者から信頼される自動車メーカーには到底なり得ないと感じさせる今回の騒動です。