AT車のシフトレバーに備わっていた「O/D」と表記されたこのボタンの正式名称は「Over Drive」。そのため「オーバードライブボタン」あるいは「オーバードライブスイッチ」と呼ばれていました。最近見かけなくなったこのボタンはなぜ消えたのでしょうか。
■オーバードライブってなに?
かつてのAT車のシフトレバーには「O/Dボタン」というものが付いていました。
しかし気づけば現在のシフトレバーには「O/Dボタン」は見当たりません。このボタンは押すとどうなるものだったのでしょうか。
AT車のシフトレバーに備わっていた「O/D」と表記されたこのボタンの正式名称は「Over Drive」。そのため「オーバードライブボタン」あるいは「オーバードライブスイッチ」と呼ばれていました。
O/Dボタンは、押すことでオン/オフの切り替えができ、通常はオンになっており、オフにするとインパネ上に「O/D OFF」と表示されることも。
そもそもオーバードライブというのはクルマのトップギアを指します。
5速AT車の場合、オンの状態だと5速まで使用できますが、オフにすると5速(トップギア)を使わないモードになるのです。
ではなぜ「トップギア」を使わないモードがあるのでしょうか。
AT車は、燃費を向上させるため高いギアを選択してエンジンの回転数の上昇を抑える傾向にありますが、一方で、速度調整の面では不便なことも。
例えば、下り坂でオーバードライブがオンになっていると、優先的に高いギアを選択することからエンジンブレーキがほとんど効きません。
そのため下り坂ではオーバードライブをオフにすることで、トップギアから1段低いギアに切り替わり、より強いエンジンブレーキを利用することができます。
逆に登り坂でも、トップギアに入っていると思うように加速ができないことがあり、オフにすることで一段下のギアにすることでクルマを追い越しやすくなります。
そんなオーバードライブについて、とある自動車整備士のA氏は次のように話しています。
「AT車は、速度や走行状況に応じて自動で変速が行われます。また燃費を向上させるために出来るだけエンジンの負荷を抑える高いギアを選択します。
一方で街中など信号が多い場所など速度変化が大きい場所では『トップギアに上げてもすぐに低いギアに変速する』といったことが頻繁に起こり、無駄にトップギアを使っている状態が発生することから、オーバードライブボタンをオフにすることで、変速回数を減らし、道路状況に応じた安定した走行ができるようになるのです」
このように一見、あると便利なオーバードライブですが、なぜ最近のクルマでは見かけなくなったのでしょうか。
理由としてはいくつかの要因が挙げられます。
ひとつは「CVT採用のモデルが増えた」ということ。CVTは通常のトランスミッションと異なり、歯車を用いずプーリーとベルト (もしくはチェーン) を用いて変速を行います。
そのためCVTでは無段階で変速できることから、オーバードライブが必要なくなりました。
多くのCVT車では「B(ブレーキ)」「Sスポーツ)」というものもがあり、これが意図的にローギアのような制御にするものでした。
さらに一部のCVT車にはシフトレバー横に「SPORT」と書かれた「スポーツモードボタン」が備わっていることも。
これはプーリーを固定することで、オーバードライブのような加速レスポンスの向上や強めのエンジンブレーキを使うことが可能です。
ふたつめはAT車の「シフトの多段化」で、昔のAT車は4速や5速でしたが、最近のAT車では8速や多いものでは10速も珍しくありません。
この多段化すること、そして電子制御技術の進化などでより緻密なギア制御が可能になったことが要因のひとつです。
ほかにも多段化されたAT車では、マニュアルモードでシフトチェンジできるクルマも増えてきました。
シフトパターンの「D」のとなりに「M」の文字があり、「+」や「ー」でシフトのアップダウンが可能です。
オーバードライブでは1速分のアップダウンが可能ですが、マニュアルモードなら好みのギアチェンジが容易といえるでしょう。
みっつめは、昔のクルマよりもパドルシフトを採用するクルマが増えたことや、電動車が増えたことで「回生ブレーキ」が備わっていることも要因と言えます。
このように「オーバードライブ」という呼び方や機能は姿を消しているものの、似たような役割・機能はカタチを変えていまも残り続けています。