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シートベルトが凶器になる? 警察やJAFは「身長140cm」推奨も… 「身長150cmまでジュニアシート」使用を強く勧めたい理由

くるまのニュース 2024年8月21日 14時50分

福岡県福岡市早良区の国道で軽乗用車と西鉄バスの衝突事故が起きました。テレビや様々なニュースでこの事故が取り上げられていますが、現在の焦点は「シートベルトをしていたのに」という部分です。またチャイルドシートやジュニアシートを使っていなかったことが報道されています。認定チャイルドシート指導員の資格を持つ加藤久美子氏が正しい使い方を解説します。

■福岡の事故ではシートベルトだけの女児2名が死亡、なぜ?

 2024年8月18日午前11時頃、福岡県福岡市早良区の国道で軽乗用車と西鉄バスの衝突事故が起きました。
 
 軽乗用車が中央車線をはみ出してバスと正面衝突し、軽乗用車の後部座席に乗っていた5歳と7歳の女児が死亡。
 
 運転していた母親も足に重傷を負いましたが命に別状はないと報道されています。
 
 2名の女児はシートベルトを装着していましたが、車内にはチャイルドシートやジュニアシートはなかったようです。
 
 5歳であるならドライバーである母親はチャイルドシート装着の義務がありますが車内にもなかったとのことで、普段からシートベルトだけで乗車していた可能性が高いと考えられます。
 
 それではなぜ、シートベルトだけを装着した子どもの命が脅かされる事態となっているのでしょうか。

自動車メーカーが身長150cmまでジュニアシート使用を呼びかける理由

 クルマについているシートベルトは子どもが使うことを想定して設計されていません。

 5歳と7歳の体格では、それぞれの平均身長は5歳(女児)で約110cm、7歳で122cmです。

 シートベルトは身長150cm以上で安全に使用できることが数々の試験で確認されているため、シートベルトだけでは到底、衝突の衝撃から子どもを守ることはできず、さらには凶器になる危険もあります。

 子どもの体格に合っていない不適切な状態でシートベルトを使用して事故に遭った場合、以下の3つの状況で死亡を含む悲しい結果になる可能性があります。

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 1.ベルトの間をすり抜けたり、そもそもベルト非着用によっての拘束力が得られず衝突の衝撃で窓ガラスから車外に放出される
 2.腰ベルトがおなかを強く圧迫して内臓を損傷する
 3.肩ベルトが首にかかっていると衝突の強い衝撃でベルトで頸動脈(首)を切断する
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 今回の事故で女児2名が死亡したのは2.の可能性が高いと考えられています。

 なお、ベルトがおなかに掛かって5歳児が死亡した例は背もたれやヘッドサポートがない座面だけのブースターシートで複数の前例があります。

 着座姿勢やベルトのかかり方が不適切な状態で強い衝撃を受けると、腰ベルトがおなかに食い込んで内臓を圧迫。シートベルトは使い方を誤ると凶器になることもあるのです。

 今回の事故の写真を見ると軽乗用車は大破しているわけでもなく、原形はしっかりとどめているように見えます。後部座席を映したニュース映像もありましたがシートの損傷もないようでした。

 体に合ったチャイルドシートやジュニアシートを正しく使っていればおそらくほぼ無傷で100%、子どもの命を守ることができたと考えられます。

■自動車メーカーは、身長150cmまでジュニアシートの使用をマストに

 このような事故が起こるたびに話題になるのは、「シートベルトはどれくらいの体格で安全に使えるのか?」ということですが、こちらに関しては警察庁やJAFは身長140cm、自動車メーカーや国交省は身長150cmとしています。

 中には、2ドアクーペや軽自動車(セダンタイプ)の後部座席など室内高が低いクルマにおいては、身長140cm程度の子どもでも標準のシートベルトを問題なく使用できることもあります。

 世間一般的には「140cm」が主流のようですが、実は140cmでの使用は完璧とは言えません。

 なぜなら、世界の自動車メーカーは衝突安全性のテストをする際、身長150cm前後の成人ダミー(AF05型)を使って安全を確認しているからです。

 言い換えれば、身長140cmのダミーでは検証が行われていないことになります。

 子どものダミーでは最大身長138cmで検証が行われていますが、これはあくまでも「ジュニアシートに座らせた状態」で行う検証なので、「身長138cm+車両シートベルトだけ」で安全性が確認されているわけではありません。

 自動車メーカーや国交省では身長150cmまではジュニアシートを使用することを強く推奨しています。

150cmまではジュニアシートを使うべき

 各メーカーのジュニアシートも2016年の時点で身長150cmまで使えるジュニアシートを純正オプションで用意しています。

 なお実際に140cmの子どもを後席に座らせてシートベルトをつけると多くの場合、肩ベルトが首にかかってしまいます。

 助手席ではシートベルトやシートの高さを調整する機能が付いているクルマもあるので、後席よりは低身長に合わせやすいのですが、後席ではベルトやシートの高さを調整する機能が付いたクルマはごくわずかです。

 身長150cmに達するまではジュニアシートを使って子どもを確実に守ってあげる必要があります。

 今から購入するのであれば、ISO-FIX対応でヘッドレストや背もたれのついたハイバックタイプを強くお勧めします。

 身長でいえば100cm-150cmまでに対応しており、小学生の間はずっと安全に使える仕様となっています。

 日本では2000年4月にチャイルドシートの法制化が始まり、6歳未満の子どもを自動車に乗せる場合には国土交通省が認証した国連基準【UN/ECE】を満たしたチャイルドシート(2023年9月1日以降の新規モデルは【UN/ECE】 R129/03に一本化)を使うことが義務付けられています。

 法制化から24年以上経過していますがこれまで改訂されたことはありません。

「5歳まで」という規定で身長基準もないのは、世界的にみてもかなり稀な状況です。

 ドイツをはじめ欧州の多くの国は現在、ジュニアシートは身長150cm、12歳までの使用を義務付けており、アメリカのほとんどの州では身長145cmまでの使用を義務付けています。

 日本以外は、年齢基準や身長基準を引き上げるなどして可能な限り多くの子どもを自動車事故から守ろうという強い姿勢がわかります。

 警察やJAFがなぜリスクの高い140cmを推奨しているのか不明ですが、より多くの子どもの命をより確実に守るためには身長150cmまではジュニアシートを使うべきだと筆者は考えます。

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