ホンダはかつて、最高出力500馬力に達するモンスターマシンのドリフト用競技車両を米国で製作したことがあります。意外過ぎるベース車両など、その詳細について紹介します。
■SUVで「ドリフト」!? 手の込んだ改造内容とは
ホンダはかつて、3.2リッター V6ツインターボエンジン搭載の「ドリフトマシン」を米国で発表しています。
最高出力500馬力に達するという超高性能車ですが、ベース車両は意外なモデルだったといいます。どのようなクルマなのでしょうか。
米国自動車用品工業会(Specialty Equipment Market Association:略称SEMA)が主催する、世界最大級の自動車パーツ見本市「SEMAショー」。
世界中からアフターパーツメーカーとバイヤー、そして自動車メーカーが集まる大型イベントで、日本で開催される「東京オートサロン」のような印象を受けますが、基本的に取引はバイヤー間でしか行えません。
2022年の開催時には、延べ13万人が来場したと発表されています。
そんなSEMAショーにおいて、2006年のホンダブースで注目を浴びたのが「エレメントD」です。
コンパクトカー「フィット」やSUV「CR-V」のスポーツコンセプトや、無限が手がけた「シビックSi」など多くのコンセプトカーを展示される中、鮮やかなオレンジのエレメントDも鮮烈な印象を与えていました。
ベース車はクロスオーバーSUVのエレメントです。
アメリカでは独自のスタイリングで支持を集め、2002年から2011年まで販売されましたが、国内では振るわず2003年から2005年までのわずか2年間販売されたレアな存在といえます。
エレメントDは、そのエレメントをデザインした本田技研工業のアメリカ法人であるHonda R&D Americas, Inc(以下、ホンダR&Dアメリカ)により製作された競技用車両です。
エレメントDが出走を目指した競技は「フォーミュラ・ドリフト(以下、フォーミュラD)」。
フォーミュラDはアメリカでは高い人気を誇るドリフト競技で、チェッカーを受ける順番ではなく、審査による得点で順位を競います。
ベース車両にスポーツカーではなくSUVのエレメントを選んだのは、注目を集めるためと、開発チームの中心的存在であるジェームス・ロビンソン氏の好みによるものだそう。
エレメントはAWD(四輪駆動)で、ドリフト競技には不向きな駆動方式です。
そこでサブフレームを交換しRWD(後輪駆動)に改造しています。
本来、エレメントには2.4リッター直列4気筒「K24A」型エンジンが搭載されていますが、エレメントDは後輪を自在に操るべく、高級セダン「インスパイア/セイバー」などに搭載される3.2リッターV型6気筒「J32」型を採用。ツインターボ化により500psを発揮します。
パーツのほとんどは特別に製作されたものではなく、ホンダやアキュラに使用される汎用パーツが使用されています。
エレメントDの完成までにかかった時間は、およそ500時間。エレメントDの製作は社内のプロジェクト賛同者によるプライベートなもので、ホンダR&Dアメリカは援助を行っているものの、会社としての業務ではありません。
そのため製作は就業時間外に行われ、一部の加工やセッティングは社外プロショップの手を借りて行いました。
エレメントDはいくつか課題を残しつつも完成。SEMAショーに展示されたほか、ジェームス・ロビンソン氏がステアリングを握り、ドリフトを交えたデモンストレーション走行動画が公開されました。
なお当時の映像は、現在も動画共有サイトなどで目にすることがでるようです。
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ホンダは2022年12月、米国・特許商標庁にキャンピングカーなどに関する特許を申請しました。
その際に提出されたイラストが、エレメントをベースに意匠の一部を改めたものであることから、「次期型登場か!?」とにわかに注目を集めています。
公式な発表はその後も行われていませんが、今後の動向にも注目しておきたいところです。
[筆者:糸井 賢一]