AT車とMT車ともに、「N(ニュートラル)」ポジションが存在しますが、一体どのような役割があるのでしょうか。
■普段は使わない「Nレンジ」はなぜあるのか?
クルマには、エンジンの出力を駆動装置に伝達するための重要な部品であるトランスミッション(変速機)が搭載されています。
AT車とMT車ともにシフトレバーがあり、「N(ニュートラル)」ポジションが存在しますが、通常の走行中に使用することは少なく、その役割についてあまり知られていません。
そんな、Nレンジには一体どのような役割があるのでしょうか。
エンジンの出力がタイヤに伝わるまでには、エンジンからクラッチ、トランスミッション、プロペラシャフト(後輪駆動車の場合)、デファレンシャル、ドライブシャフトを経てタイヤに到達します。
一般的に、クルマを停車させてエンジンを切る時に使用される「P(パーキング)」は、トランスミッションのギヤボックス内のシャフトをロックする機能を持っています。
一方、Nレンジはシャフトがロックされず、エンジン出力が駆動装置に伝達されません。
つまり、Nレンジではエンジンが回転してもクルマは動かないのです。
この特性を利用し、例えば踏切でエンジントラブルが発生してクルマが動かなくなった場合でも、Nレンジに入れれば人力でクルマを動かすことが可能です。
また、クルマが故障して動かせなくなった場合には、レッカー車での牽引や積載車での運搬時にNレンジを使用することで、スムーズに対応できます。
こうした緊急時には、Nレンジを活用することでクルマを安全に動かすことができるため、緊急時に備えてその使い方を覚えておくと良いでしょう。
さらにNレンジは緊急時だけでなく、整備作業でも頻繁に使用されます。
例えば、デファレンシャル装置の脱着作業やブレーキキャリパーのカスタム作業時にはNレンジを利用して整備を行うほか、ホイールとブレーキキャリパーが干渉していないか、タイヤを回転させた際に異音がないかなどを確認するためにも用いられます。
一方で、AT車では信号待ちや渋滞時にDレンジのまま停車することが一般的ですが、Nレンジにして停車する人もいます。
しかし、特に坂道での停車時にNレンジを使用すると、ブレーキを離した際に車が後退する可能性があるため注意が必要。
焦ってDレンジに戻し急発進してしまうと事故のリスクが高まります。
そのため、停車中はDレンジのままブレーキを踏んでいる方が安全です。
また、過去にJAFの公式X(旧ツイッター)でも「AT車で交差点に停車する際、ニュートラルに入れる行為は非常に危険であり、大事故につながる可能性がある」と警告しています。
MT車では信号待ちの際にニュートラルに入れることが一般的ですが、エンジンを切って停車する際には1速またはバックギヤにシフトを入れ、サイドブレーキをかけることが推奨されます。
普段の運転ではほとんど使われないNレンジですが、緊急時にクルマを人力で動かす必要がある場合に備えて、その使用方法を理解しておくことが大切です。