ヒョンデはコンパクトSUV「コナ」にスポーティグレード「N Line」を追加します。高性能ブランド「N」の感性を加えた新モデルを、早速公道で試乗してみました。
■スポーツブランド「N」のテイストを追加
ヒョンデのコンパクトSUV「コナ」に「N Line」が追加されました。筆者(工藤貴宏)がもっとも注目したいアイテムが、ルーフ後端に備わるスポイラーです。
ボディから浮き上がったウイング形状で、なかなかレーシーで攻めたデザイン。左右が分割されているのも面白いですね。
ヒョンデのコナといえば、全長約4.4mのCセグメントSUVです。日本ではEV(電気自動車)モデルだけが販売されています。
新たに追加されたN Lineがどのような仕様かといえば、エアロパーツを身にまといインテリアをブラックに仕立てたモデル。いうなれば「エアロ系カスタム仕様」と表現すればイメージがつかみやすいでしょう。
エクステリアは特徴的なウイングタイプのリアスポイラーのほか、専用デザインの前後バンパーを採用。足元を専用デザインのアルミホイール(235/45R19のタイヤも含めてサイズは他のグレードから変更なし)で飾るほか、アクセントとしてドアミラーも黒くしています。
ちなみに、日本向けコナのフロントバンパーは、日本の急速充電規格である「CHAdeMO(チャデモ)」に対応するため、充電口を大きくしつつリッドがスライド開閉する日本専用設計。
当然ながらこのN Lineのバンパーも、デザイン自体は韓国本国などと同じですが、設計自体は日本専用にされたものです。
ヒョンデの日本向けモデルは輸入車としては珍しく、ハンドル位置だけでなくウインカーレバーまで日本車と同様の右側とするなど、日本向けのカスタマイズをみて、「やるべきことをしっかりやっている」と印象を受けるのは、きっと筆者だけではないでしょう。
それはさておき、インテリアはルーフも含めてブラックでコーディネートし、差し色として赤を追加。本革とアルカンターラを組み合わせ、センターに赤を入れたシートもスポーティな雰囲気でいいですね。
実際にこのインテリアに触れてみて、人間の感覚って不思議だなと思ったのが質感。空調操作パネルなどは標準車と同じ仕立てで色が違うだけなのですが、ひときわ質感が高い印象なのです。
そんな質感の違いは、標準車のシルバーに対してブラックとしているだけなのですが、インテリアの質感を求めてN Lineを選ぶのもアリだと感じました。
ベースとなった「Lounge(ラウンジ)」に対し、16.5万円の価格アップ(506万円)は、十分に納得できます。
ちなみに装備仕様などベースとなっているのはラウンジですが、パワートレインやサスペンションの味付けなどメカニズムに関しては、ラウンジからの変更はありません。バッテリー搭載量は64.8kWhで、一充電での航続距離はWLTCモードで541kmです。
■「日本人向けセッティング」に驚き
それにしても、コナの走りは乗るたびに「しっかり作りこまれているな」と思います。
まず褒めたくなるのは乗り心地。一般的に重くて重心も高いEVのSUVは、段差を超えた際や、路面状態が悪い場所を走るときなどの突き上げ感が目立ちがち。
しかしながらコナの乗り心地はフラットライド感が強く、ドライバーはもちろん同乗者も快適です。
それでいて、ハンドリングはしっかりと奥深く、ハンドル操作に応じてクルマが気持ちよく向きを変えるし、旋回中のロールの安定感も良好。
パワートレインに関していえば、欧州のハイパワー系EVにありがちなアクセルを踏み込んだ時に「ドカン!」と勢いよく前へ押し出されるのではなく、パワーの立ち上がり方が滑らかで、ジワジワと伸びていくためコントロールしやすく、自然な加速特性なのも好印象です。このあたりは、日本車のEVに近い印象を受けます。
ちなみに走行モードごとの加速特性も日本専用にチューニング。
日本人の運転スタイルを反映し、「ノーマル」はアクセル操作による反応を緩やかに、いっぽう「スポーツ」では本国仕様よりも力強く加速が立ち上がるよう制御の変化にメリハリをつけているのも面白い“日本仕様化”です。
こういうのは他メーカーではちょっと聞いたことがありませんが、ヒョンデはそこまで日本仕様の作り込みにこだわっている一例と言えるでしょう。
そんなN Lineですが、どうして“N”かといえば、WRCマシンを頂点とするヒョンデのスポーツモデルのブランドが「N」だから。
Nの頂点として、少し前に日本でも発売された「IONIQ 5 N」のようなサーキット前提のモデルがあり、その下の“ちょいスポーティ”的なポジションとして「N Line」が用意されているわけです。
快適性を犠牲にすることなくNのフレーバーを加えた仕様と考えればいいでしょう。
それはメルセデス・ベンツの「AMG」に対する「AMG Line」であり、BMWの「M」に対する「M Sport」、アウディの「RS」に対する「S Line」と同じ感覚と捉えればいいでしょう。トヨタでいえば「GR」における「GR Sport」です。
ただちょっと気になるのは、今回デビューしたコナN Lineは、内外装のスポーティ化だけであり、ボディ補強やサスペンションといった走りの部分には手が入っていないこと。
上で紹介した他社の例でいえば、例外なくサスペンションもスポーティなタイプへと変更しているので、その違いが気になるところです。
そこでヒョンデの担当者に尋ねてみたところ、理由は「走りは手を加える必要がないと判断したから」とのこと。
「本国などでは多くの車種にN Lineがあり、なかにはボディ補強やサスペンション、さらにパワーステアリングの制御などに手を入れているモデルもあります。
そして多くがガソリン車です。しかしEVは補強しなくてもボディがしっかりしているし、コナはサスペンションも能力が高いので、今回は手を入れませんでした」(同担当者)
たしかに実際に走ればその言葉にも納得できます。
とはいえ、「記号性」としてローダウンサスペンションが組んであればもっと特別感と魅力が増すのではないか…と筆者は考えます。いかがでしょうか。