高機動車は人員輸送用に使われる車両で、主に普通科部隊で運用されています。ただ、車両後部に武器を搭載した派生型も存在しており、ある意味でマルチに使えるクルマです。では、その高機動車にはどのような特徴があるのでしょうか。
■見た目の存在感がスゴい! 自衛隊の「高機動車」とは
日本の陸上自衛隊では、多種多様な車両が使われていますが、「1/2tトラック」と並んでその活動を支えているのが、「高機動車」です。
その外観がアメリカ軍で使用されている「ハンヴィ」に似ていることから、“ジャンビー”などと呼ばれることもあります。
ちなみに、陸上自衛隊では「疾風」という愛称を与えているようですが、一般には浸透していないようです。
高機動車は人員輸送用に使われる車両で、主に普通科部隊で運用されています。
ただ、車両後部に武器を搭載した派生型も存在しており、ある意味でマルチに使えるクルマになっています。
公道においても、駐屯地などを移動する同車を見かける機会が多いのですが、2024年7月に開催された「群馬パーツショー2024」において、非常に珍しい“新車”に触れる機会を得ました。
会場に展示されたのは、相馬原駐屯地に駐屯する第48普通科連隊の車両。
新しく配備された車両を、連隊長の鶴の一声で持ってきたということで、まだ数kmしか走っていないバリバリの新車です。
一般的に新車と言えば、独特の匂いがありますが、やはり高機動にも新車の匂いがあったのが印象的でした。
車両の説明をしていた隊員によれば、一口に高機動車と言っても、配備された時期によってやはり“仕様変更”が行われていると言います。
最近配備されている高機動車の特徴的な装備と言えば、クーラー。
運転席と助手席間にあるテーブルのような大きな箱がそれで、その形状やスイッチ類から、兄弟車であるトヨタ「メガクルーザー」のものが流用されていることが分かります。
クーラーの利きについて現場にいた自衛隊員に尋ねたところ、「クーラーが無かった頃に比べればマシですが、後部は幌なのでほとんど利きません」とのこと。
夏場の車内は暑く、冬は寒いようです。隊員によれば「冬は着込めばなんとかなりますが、夏は裸になるわけにはいかないので辛いです」と語っていました。
ちなみに後席にエンジン熱を送る、リアヒーターも装備されています。
クーラーの箱は無線機を置く台を兼ねており、そのための取り付け金具な装備されています。
また、エンジン停車時に無線を使用するためのサブバッテリーを入れるスペースや、サブ電力をON/OFFするスイッチも付いています。
仕様変更がされた箇所と言えば、幌を車体に固定するベルト金具にも及んでいるようです。
前出の自衛隊員は「かつてはこの金具の隙間が大きかったのですが、バタつきを抑えるために狭くなってしまいました。そのため、ベルトを付けたり外したりするのが煩雑になってしまいました」と話しています。
と言うのも、自衛隊では有事にスピーディに幌を外せるように、ベルトをS字に折り畳んで通すという方法をとっているからです。
高機動車のインパネはいかにも軍用車であり、しかも独自の装備が多数付いています。
前中後のデフを全てロックできるスイッチや、タイヤ空気圧を2段階に調整するスイッチはメガクルーザーにもありますが、灯火管制用ランプ(B.O.ランプ)のスイッチは自衛隊ならでは。
さらにインパネ中央に蓋の付いた箱が装備されていますが、これはAM/FMラジオ。
災害派遣をした時などに、ニュースで情報を得るためにあるといいます。
ちなみに蓋が付いているのは、オフロードを走行した時に車内に入ってくるホコリを防ぐため。音声が流れるスピーカーはインパネ助手席側に付いていました。
驚いたのはETC機器が付いていることで、演習のためなどの移動で高速道路を通る場合に使うということでした。災害派遣などを除いて、常時は自衛隊車両も通行料を払うようです。
これもいかにも軍用車だと思えるのが、窓の開閉装置。
通常は電動開閉スイッチかレギュレーター(回転式レバー)ですが、高機動車は上下に動かして開閉するゴツいレバーが付いています。
その理由は明確ではありませんが、隊員によると「もっとも故障が少ない構造で、しかもいざという時にスピーディに開けられるからではないか」ということでした。
戦場という苛酷な状況を想定している車両であることが、改めて分かります。
■車内に「大きな洗濯バサミのようなものが装備」 これはなに?
運転席と助手席の後ろのフロアには、大きな洗濯バサミのようなものが装備されていました。
発煙筒でも付けるものかと思いましたが、これは89式や20式といった自動小銃の銃床を固定するものだといいます。
運転席や助手席に座った隊員は銃を持ったまま移動することができないための配慮です。
さらに、運転席・助手席の頭上にあるロールバーには、5.56mm機関銃を取り付ける銃架もありました。
さて、車両後部には隊員4人ずつで座る横向きシートが2列装備されています。
シートベルトは2人に1本となっていますが、隊員は移動中に「中帽」という作業用ヘルメットを被るため、道路交通法でシートベルトの着用が免除されているのは一般にはあまり知られていないところです。
シートの下には、ハシゴ形タイヤチェーンを入れるスペースがありました。
このチェーンは積雪路で使うというよりは、コンバットタイヤでもスタックするような泥濘路で使うのを主眼としているようです。
タイヤの空気圧を落として接地面積を増やし、さらにチェーンでトラクションをプラスするわけです。
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ちなみに本家と言えるハンヴィは、すでに「JLTV」への転換配備が始まり、将来的には廃止が決まっています。
陸上自衛隊でも、「軽装甲機動車」の後継車の選定が始まっていますが、高機動車は継続的に使われるようです。
高機動車は防弾性能がないため、いつまでも平和な日本だけで走ることが望まれます。