「天ぷら」といえば、衣がついた揚げ物です。一方で自動車業界では車台番号とひもづいていないナンバープレートのことを「天ぷらナンバー」と呼びます。重大な違法行為であることは言うまでもありませんが、日本を代表する料理の「天ぷら」という言葉が用いられているのはなぜでしょうか。
■社会問題化する自動車窃盗、ナンバー変えられたら見つけるのは困難か
本来のものとは異なるナンバープレートのことを「天ぷらナンバー」と呼ぶことがあります。
重大な違法行為であることは言うまでもありませんが、なぜ「天ぷら」という言葉が用いられているのでしょうか。
近年、窃盗団によるクルマの盗難が社会問題化しています。
駐車場やガレージなどから盗難されたクルマは、まず付近のコインパーキングなどで一旦保管され、GPSなどで追跡されていないかどうか確認されると言われています。
逆に言えば、このタイミングで盗難されたクルマを発見することができなければ、愛車を取り戻すことは限りなく不可能に近くなってしまいます。
そのため、愛車が盗難された場合には、警察に通報するとともにSNSなどで呼びかけることも有効とされています。
一方、近年では盗難されたクルマのナンバープレートを別のものに交換してしまうという手法もあるようです。
一般的に、よほど特徴的なクルマでもない限り、そのクルマが盗難された愛車であるのかどうかをオーナー以外が見極めるのは至難の業です。
ましてや、ナンバープレートが交換されてしまうと、オーナーでさえも一見しただけでは気づかないかもしれません。
ナンバープレートは、車体番号と紐付けることでそのクルマの所有者を同定することができる仕組みです。
そのため、車検証を確認し、ナンバープレートと車体番号が紐付いていないことが確認できれば、そのクルマは盗難車などである可能性が高いと考えることができます。
とはいえ、第三者が車検証や車体番号を確認することはほぼ不可能であるため、偽のナンバープレートが装着されていたとしても、実際にはまず気が付くことができないのが実情です。
そのため、愛車の盗難対策をする際には、ナンバープレート自体が交換されてしまうケースも考慮することが重要です。
■偽ナンバーを「天ぷらナンバー」と呼ぶ理由
車体番号と紐付かないナンバープレート、つまり、本来のものとは異なるナンバープレートのことを「天ぷらナンバー」と呼ぶことがあります。
ここでいう「天ぷら」とは、もちろん日本料理の代表的存在である天ぷらに由来しています。
では、なぜ偽造されたナンバープレートに、天ぷらという言葉が用いられるようになったのでしょうか。
現在のようなナンバープレート制度が確立したのは1964年のことですが、明治時代のころには、すでに偽造品を「天ぷら」と表現していたようです。
そもそも天ぷらは、野菜や魚介類などに小麦粉をベースとした衣を付けて油で揚げたものです。
衣がないものは「素揚げ」などと呼ばれるため、衣をまとっていることが天ぷらの定義のひとつであると考えられそうです。
それはつまり、天ぷらは「衣によって中身が隠されている揚げ物」であることを意味しています。
この大きな特徴が転じて、「天ぷら」という言葉は「本来の姿を隠す」や「本来の姿よりもよく見せる」といった意味を持つようになり、その後「偽物」の隠喩として用いられるようになったようです。
たとえば、明治時代にはメッキ加工を施した製品のことを「天ぷら」と呼んだと言われています。
また、戦後になると、実際にはその大学の学生ではない人間が、その大学の学生になりすまして受講することを「天ぷら学生」と呼んでいたようです。
このような背景から、実際にはそのクルマのものではないナンバープレートのことを、その正体を隠している、ほかのクルマになりすましているという意味で「天ぷらナンバー」と呼ぶのはごく自然なことだったと言えそうです。
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言うまでもなく、「天ぷらナンバー」を使用して走行することは重大な違法行為であり、具体的には、道路運送車両法第98条第1項にあるナンバープレートの偽装や変造の禁止、および同第3項にある当該車両以外への使用の禁止に該当します。
前者の場合は3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、後者の場合は50万円以下の罰金が科されます。
また、「天ぷらナンバー」を使用したクルマは、なんらかの犯罪行為に関与している可能性が高いと言われています。
そのため、もし「天ぷらナンバー」を見つけた場合には、すぐに警察に通報するようにしましょう。