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スバルが作った「究極のBRZ」って何? 「速いだけじゃない…」 アイサイトも搭載されるの凄くない? S耐マシンに試乗!

くるまのニュース 2024年9月3日 20時30分

カーボンニュートラル燃料の実証実験、次期モデルに繋がる先行開発、そして人材育成と、モータースポーツを通じての「未来のスバルづくり」を目的に参戦しているスーパー耐久。そこで戦い続けてきた「BRZ CNFコンセプト」に乗った印象はどのようなものなのでしょうか。

■スバルが作った究極のBRZとは

 スバルは2022年からスーパー耐久シリーズ(以下:S耐)のST-Qクラス(開発車両が参戦可能なクラス)に社内チーム「Team SDA Engineering」から開発車両「BRZ CNFコンセプト」で参戦を開始。
 
 その目的はCN燃料の実証実験、次期モデルに繋がる先行開発、そして人材育成と、モータースポーツを通じての「未来のスバルづくり」。
 
 中でも同じ志で参戦を行なうROOKIE RacingのGR86 CNFコンセプトとのガチンコ対決は、毎戦白熱したバトルを見せてくれました。

スバルが作った究極のBRZとは

 そんなBRZ CNFコンセプトは2024年5月に行なわれた富士24時間耐久レースを最後にWRX S4をベースにした次期開発車両「ハイパフォーマンスX フューチャーコンセプト(ハイパフォX)」にバトンを渡しました。

 つまり、FR/NAエンジンからAWD/ターボへのステップアップとなります。

 総監督の本井雅人氏は、「約2年半の活動を通じて『人』と『クルマ』が進化しました。人に関しては分野間の壁を壊し、クルマ屋目線のエンジニアがたくさん育ちました。マシンに関しては全方位で進化させた事で、NAエンジンのまま3秒のタイムアップ(富士スピードウェイ比)を実現しましたが、『やり切ったか?』と言われると課題を残したのも事実です。ただ、この辺りは次のクルマに継承しながら進化」と語ってくれました。

 このマシンの初陣からずっと取材をしてきた筆者(山本シンヤ)は、以前から「その成果をどこかで試してみたい」とお願いをしていましたが、ついに実現。

 栃木県佐野市にあるスバル研究実験センター(SKC)の高速周回路で試乗を行なってきました。

 ロールケージを跨いでドライバーズシートに座ります。

 シートはフルバケットでポジションも下げられていますが、シートスライドはノーマルと同じレバー式のまま。ハーネスも素早く装着できる工夫が随所に。

様々な経験を経て進化し続けたBRZの中身とは

 レースに不要なパーツは外されていますが、基本的には量産車と変わらず。ただ、インパネセンターは空調/オーディオの代わりに、機能系スイッチがレイアウトされています。

 その多くは操作が確実に解るトグル式で用途に合わせて色分けが行なうなど、誤操作させない工夫も(実は過去のレース時にトラブルがあった反省を活かし改良済み)。

 小径ステアリングにはイグニッション、ウインカー、ディスプレイ表示変更、無線、FCY(50km/hに制限)、更にはブリッピングレベル調整などの走行中に使用する頻度の高いスイッチをレイアウト。

 実際に走行中に使ってみましたが、ステアリングから手を離さずに確実に操作が可能でした。

 メーターはワンオフのフル液晶タイプ(モーテック製)を採用。

 スピード/タコメーターのデザインは量産車と同じですが、左右の表示部はスイッチ1つで様々なクルマの情報が表示可能。

 視認性の高さは言わずもがな、デザインも量産車より凝っていてカッコいいです。

■いざ試乗! S耐仕様のBRZの実力は?

 センターのIGスイッチを押し、ステアリングのスタータースイッチを押すとエンジンが始動。音量は想像よりも静かですが勇ましいサウンドで、アイドリングでも心地よいです。

 ギアを1速に入れてクラッチミート。一瞬「レーシングカーなのでシビアかな?」と心配しましたが、「量産車より若干繋がりがダイレクトかな」と言うレベルで、いたって普通。

 様子を見るために、まずは3000~4000rpmくらいでシフトアップしながら走ってみます。

 エンジンはラム圧吸気システム、完全等長エキマニ+排気システム、排気カム/吸排AVCS最適化、エンジン制御最適化などにより、2.4L-NAのまま235ps/250Nmから281ps/310Nmに出力アップ。

 となると「実用域は厳しいかな?」と思ったものの、むしろノーマルよりも乗りやすい。印象的なのはアクセルを踏んだ時の、応答の良さとレスポンスの鋭さに加えて、ノーマルよりもトルクフルな特性である事。

 例えるならば、FA24にe-BOXERのSモードのアシストをプラスしたようなイメージです。

 この辺りはエンジンだけでなく1130kgに軽量化された車両重量の相乗効果もあるでしょう。

 そこからアクセルを更に踏み込んでいくと、段付きない滑かなフィーリングなのに回すほどに力強さが増していきます。

 量産車は7500rpmのレットゾーンの手前7000rpmくらいで伸びが甘くなるので早めのシフトアップをしたくなりますが、このエンジンは7900rpmに引き上げられた最高回転までストレスなく回るどころか、更に回っていきそうな勢い。

 出力もシッカリ付いてくるので、とにかく「気持ちいい」の一言。

とにかく「気持ちいい」エンジン!

 このように実用域から高回転域までパワフルな上にリニアな出力特性は、ある意味「究極のFA24」と言っても過言ではありません。

 出力向上したエンジン性能を使い切る6速MTは、特注の6速クロスギア(強化品)に加えてシフトリンケージの工夫などで、量産車よりもダイレクトかつスムーズな操作感で、素早い操作でも確実なシフトが可能です。

 この6速MTの特徴の1つ「フラットシフト」を試します。

 この機能はアクセルを全開(エンジン回転6000rpm以上、アクセル開度95%以上で作動)のままシフトが可能な制御で、アクセルOFF時間を抑えて駆動ロスを無くすことが目的です。

 ちなみにステアリングのスイッチで制御を2段階に調整可能で、予選用(ウサギモード)はショックが出るが素早い繋がり(ドグミッションみたいなフィーリング)。

 決勝用(カメモード)は少しだけ時間をかけるが滑らか制御(良くできたシングルクラッチ2ペダルMTのようなフィーリング)でしたが、どちらも楽に超速シフトが可能でした。

黄色いダイヤルで「予選用(ウサギ)と決勝用(カメ)」を選べる!

 一方、ダウン時はブリッピング制御が盛り込まれています。

 これはGRヤリス/GRカローラやシビックタイプRにも採用されている機能ですが、シフトダウン時にブレーキに集中でき、クルマの挙動も乱す恐れがないので、結果的に速さにも直結するのは言うまでもないでしょう。

 この機能は「MTの旨味を無くす」と否定的な人もいますが、筆者は速く走るためには必要な機能だと思っています。

■テーマは「ジェントルマンでも乗りやすく速い」 その真意とは?

 フットワークはどうでしょうか。

「ジェントルマンでも乗りやすく速い」をテーマに、各種アーム類ディメンジョンやフロントサスクロスメンバー剛性の最適化、ステアリングコラム回りの剛性アップ、鍛造アルミホイール。

 加えて再生カーボン製ボンネット、アンダーパネル、STI製エアロに加えてトランク後端専用ミニスポイラーなども空力デバイスも採用。

 今回は高速周回路での走行だったので、ハンドリングがチェックできたのは直線路での高速旋回のみと“味見”程度でしたが、そのポテンシャルは解りました。

 具体的に言うと応答は高いのにシビアではない回頭性、より前後バランスが整えられ4輪を上手に使いながら旋回するクルマの一連の動き、急操作でも破綻しない鉄壁なリアの安定性の高さを実感。

 それならと、直線で6速アクセル全開、200km/h超えでバンクに進入してみましたが、マシンは跳ねるどころかピタ―ッと安定。

200km/h超えでバンクに進入も、マシンは跳ねるどころかピタ―ッと安定

 もちろん、量産車よりもバネ、ダンパー、スタビなどはハードな方向のセットですが、姿勢変化は少なめながらも適度なロール感やサスの沈み込ませ方、ストロークは最小限ながらしなやかさを感じる足の動きなどは、量産車の延長線上にあるなと。

 その結果、タイヤのグリップを頼りに「力づくで曲がる」ではなく、クルマ全体で「滑らかに曲がる」フィーリングで、色々試してみましたが、シビアな挙動や破綻しそうな恐怖感は無く、むしろ「もっと乗ってみたい」、「もっと攻め込んでみたい」と言う気持ちのほうが上でした。

 もちろん、レース時にプロドライバーから「まだまだ!!」と厳しい指摘や課題がたくさんあったのもよく知っていますが、筆者が今回走らせた領域に限って言えば、「ジェントルマンでも乗りやすく速く」と言ったハンドリングに仕上がっていると思いました。

■レーシングカーでも安全装備を装着!? 実はアイサイトも付いてます!

 更にレーシングカーでは珍しい先進安全装備も試しました。1つは「SRVD(後側方確認支援システム)」。

 これは量産車にも採用される機能ですが、コーションがドアミラーではなくフル液晶メーターに表示(左側からの接近時はメーター左、右側からの接近時はメーター右が黄色く点灯)に変更されています。これにより視線移動を最小限に確認ができます。

 レースではより速い車両が後ろから接近するシーンが多々ありますが、そんな時でも素早く確実に判断・対処が可能だと思います。

アイサイトを活用した「FCY(フルコースイエロー)時前車追従」を搭載

 もう1つはアイサイトを活用した「FCY(フルコースイエロー)時前車追従」です。S耐ではFCY時の走行速度は上限50km/h。

 その時にステアリングにある「FCYボタン」を押すと50km/hリミッターが掛かりますが、その時にアイサイトの活用で前車の速度変化に合わせて追従走行をしてくれます。

 と言っても量産車のようなブレーキ制御は無くエンジンブレーキのみなので実感は少ないものの、富士24時間のように長時間レースでは負担軽減に繋がってくれるはずです。

 更にFCYボタン作動時にアクセル全開にすると「トルクホールド機能」が働きます。

 これはスロットル全開のままでトルクが出ないように点火を抑え、FCYボタン解除に合わせて点火を再開させることで、ポンピングロスをなくトルクを素早く引き出せる機能と言うわけです。

 実際に試してみると、FCYボタン作動中にアクセルを踏むとターボのアンチラグのように「バリバリ音」が発生、すぐにFCYボタンを解除すると瞬間的にドーンと背中を押されるくらい瞬発力を見せてくれました。

 例えるならばFCY解除に合わせて普通にアクセルONだと「いちについて→よーい」の状況ですが、トルクホールド機能を使うと常に「よーい」の状況となり、その力を即座に発散できる環境ができると言う考えです。

 本井総監督は、「FCY解除時、ターボのGR86にダッシュ力で負けないために生まれた機能ですが、実はこのアイデアを応用したのが『NA版アンチラグ』になります」と教えてくれました。

現時点における「究極のBRZ」

※ ※ ※

 スバルが量産の枠を超えて開発を行ないレースフィールドで鍛え上げてきたBRZ CNFコンセプトは、現時点における「究極のBRZ」と言っていいと思います。

 それもほとんどのアップデートが市販車にフィードバックできそうな技術で成り立っている事が凄いです。

 もちろん、魔改造すればまだまだやれる事や伸び代はあると思いますが、それはハイパフォXに託します。

 先日改良されたD型に採用された「SPORTモード」は、このBRZ CNFコンセプトで培った技術の一部を応用した機能ですが、他の部位に関してもどんどん採用すべきでしょう。

 個人的にはBRZ CNFコンセプトの市販バージョン「BRZ tuned by SDA」の市販化のほうも期待したい所です。

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