バイクで有名なヤマハが、1990年代にスーパースポーツカーの市販を計画していたのをご存知でしょうか。それがF1用エンジンを搭載した「OX99-11」です。「公道を走るF1」といえる驚きのスペックを持っていました。
■レーシングカーそのものの設計を誇ったスーパースポーツカー「OX99-11」
ヤマハと聞くとバイク船舶、楽器のメーカーを連想するかもしれません。
しかし楽器メーカーのヤマハから独立したヤマハ発動機(以下、ヤマハ)は、かのトヨタ「2000GT」の直6エンジンをはじめとしたトヨタのエンジン開発・開発協力・生産を担っているほか、バギー・レーシングカートの開発・販売なども行なっており、4輪車とは大きな関わりがあります。
そのためヤマハ自体も、独自設計のクルマを過去に数回発表しており、近年では「東京モーターショー2015」に「マクラーレンF1」など様々なスポーツカーを開発したゴードンマーレー社が基本骨格を手がけた「YAMAHA SPORTS RIDE CONCEPT(ヤマハ スポーツライドコンセプト)」を展示して注目を集めました。
このヤマハ スポーツライドコンセプトは、小型軽量なスポーツカーとして期待を集めるも未だ市販化に至っていませんが、実は時を遡った1992年にも、ヤマハは「OX99-11」というクルマを市販しようとしたことがあります。
その数年前の1989年から、ヤマハはF1レースに3.5リッターV12エンジンを供給していました。当時はスーパースポーツカーブーム。ブガッティEB110やジャガーXJR-15などが相次いで出現していました。
そしてバブル経済という世相の中も追い風となって、ヤマハはなんとそのエンジンを積んだクルマを企画しました。それが、OX99-11だったのです。
OX99-11に積まれたV12エンジンは、F1仕様よりもデチューンがされていたとはいえ、それでも元はF1エンジン。最高出力は450馬力に達し、わずか1000kgしかない車体を最高時速350 km/h・0-100 km/h加速3.2秒という凄まじい速さで走らせました。
OX99-11という車名は、このエンジンの型式「OX99」から取られていました。
シャーシはカーボン製モノコックで、サスペンションの構造なども含め、設計は純粋なレーシングカーと同じでした。
乗員は2名でしたが、ステアリングホイールはセンターに設けられ、シートは前後配置のタンデム型。右ハンドル・左ハンドルという概念もありません。
つまりOX99-11は、まさに「公道を走れる、屋根がついたF1マシン」といえる並外れた存在のスポーツカーでした。
さらに特徴的だったのが、レーシングカーデザイナーの由良拓也氏が線を引いた有機的な外観デザインです。
縦2灯配置のヘッドライト、ウイング形状を持つノーズ、低くマウントされたリアウィングなどは、いずれもレースカーを想起させるものばかり。丸いキャビンの造形も、当時のグループCカーとの共通性を感じさせます。
生産はイギリスで行い、1994年から予定価格100万ドル(当時のレートで約1.3億円)で市販を開始すると発表されましたが、バブルの崩壊や世界経済の動向から計画は中止。その結果、わずか3台のみが製作されたといいます。
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ヤマハのスーパースポーツカーOX99-11の計画は、残念ながら夢で終わってしまいましたが、2009年には、トヨタとヤマハが共同開発したV10エンジン「1LR-GU」を搭載したスーパースポーツカー「レクサス LFA」が誕生しています。
ヤマハのレーシングエンジン技術が盛り込まれたレクサスLFAには、OX99-11を生み出した「ヤマハの情熱の系譜」が流れているのかもしれません。