ボルボは「2030年までにモデルラインアップのすべてをEV化する」という、大胆な戦略を2021年に発表しましたが、これを2024年9月上旬に事実上、撤回したのです。ボルボ以外もメーカー各社が相次いで、電動化戦略を軌道修正することを明らかにしています。果たして今後はどうなるのでしょうか。
■〜ボルボも軌道修正、どうなるEVシフト?〜
結局、EVシフトって、これからあまり進まないんじゃないのか。
ここへきて、そんなイメージを持っているユーザーが少なくないかもしれません。
なぜならば、メーカー各社が相次いで、電動化戦略を軌道修正することを明らかにしているからです。
直近で大きなインパクトがあったのは、スウェーデンのボルボでしょう。
ボルボは「2030年までにモデルラインアップのすべてをEV化する」という、大胆な戦略を2021年に発表しましたが、これを2024年9月上旬に事実上、撤回したのです。
新たな目標としては、2030年までに全モデルの90〜100%をEVまたはプラグインハイブリッドとし、残りをマイルドハイブリッドにすると言います。
ボルボとしては、これからもEVシフト牽引役としての立場を堅持するものの、社会の情勢に合わせて柔軟に対応するという姿勢を強調しています。
また、ドイツのメルセデス・ベンツも2024年2月、「2030年以降も、プラグインハイブリッド車を継続的に導入すると同時に、新たな内燃機関(エンジン)も開発する」という中期的な事業計画を発表。
同社の場合、これまでは「2030年までにEV100%」を掲げていたものの、そこには「市場の環境が(EV向けに)整った場合」という枕詞(まくらことば)がありました。
そのため、今回の目標修正は「織り込み済み」という見解です。
そのほか、アメリカではフォードが2024年8月、3列シートのフルサイズSUVのEVの近年中の発売を中止したと発表。
またテスラの販売実績が頭打ちになってきたなど、アメリカではEVシフトの陰りが見えており、EVに代わってハイブリッド車のシェアが一気に上がっている状況です。
一方で、日本メーカーの考え方は、「国や地域によってEVを含めた電動化の普及にはかなり違いがある」というもの。
業界団体の日本自動車工業会は、「カーボンニュートラルに向けた方法は様々ある」として、海外での急速なEVシフトに懸念を表明しつつ、「マルチパスウェイ」を基本方針として打ち出してきました。
ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、水素燃料車、カーボンニュートラル燃料車など、多様なパワートレインを国や地域の社会状況に応じて臨機黄変に導入することを指します。
このように、グローバルでEVシフトがスローダウンしていることは明らかです。
そうかといって、日本が推奨するマルチパスウェイについても、今後のグローバルにおける法規制の動向がはっきり見えてこない中、先行き不透明な情勢なのです。
■EVシフトは環境のため? 政治的要素が大きいのが現状… 各国の動きは?
つまり、EVシフトが今後どう進むのかは、充電インフラ整備や、全固体電池といった次世代技術の導入よりも、海外市場における法規制に対する政治的な判断の影響が大きいと言わざるを得ません。
政治的な判断の根源は、「カーボンニュートラル」です。
COP(国連気候変動枠組条約・締約国会議)を筆頭に、地球環境に関する国際会議での方針を軸に、特に欧州連合(EU)が自動車のCO2排出量規制を強く打ち出したのです。
その中で、「2035年までに欧州域内で乗用車・新車100%をZEV(EVまたは燃料電池車)化」を義務付ける法案を策定する最終段階で、ドイツが異論を唱えました。
eフューエルなど合成燃料を使う内燃機関(エンジン)も認めるべきだ、という主張です。
こうした政治的な動きに、日系メーカー各社の関係者からは「想定外で、とても驚いている」という声が聞こえてきました。
さらに、EVの主要部品であるバッテリーについて、「バッテリーパスポート」という規制も導入。
材料から製造、そして販売後には廃車やリサイクルに至るまで、バッテリーの一生をデータで管理するもので、材料採掘での作業者の人権にまで踏み込んでいるのが特徴です。
ある日系メーカーの幹部は、筆者との意見交換の中で「弊社も中期的な観点で今、EVシフトの準備をしているところです。しかし、欧州がいうバッテリーパスポートをどう解釈して、どうやって事業を構築するべきか、なんとも悩みが多い」と本音を漏らします。
こうした欧州連合に法規制強化は、EVのデファクト(事実上の標準化)を狙う政治的な動きという見方ができるでしょう。
中国に目を向けると、経済全体が減速傾向にある中、「新エネルギー車」と中国で呼ぶ電動車について、EVよりも価格が安く航続距離が長いプラグインハイブリッド車やレンジエクステンダーの普及を強化しています。
これも政治的な判断であり、日系メーカー各社は対応策に頭を悩ませているところです。
アメリカでも政治的な判断がEVシフトに大きな影響を与えています。
この2年、バイデン政権による事実上の対中国政策と言われる、IRA(インフレ抑制法)に日系メーカー各社が対応に追われてきました。
そしていま、秋の大統領選挙は終盤戦となり、次世代自動車に対する連邦政府の施策が今後どうなるのかまったく予想がつかない状況にあります。
このように、EVシフトでは、欧州、中国、アメリカによる三つ巴の政治の戦いという様相を呈しており、その中で日本は欧中米それぞれとの有効な関係を維持しつつ、日本独自のEV技術をうまく盛り込んでいくことになるでしょう。
その上で、日本ではユーザーの需要としては乗用車では軽EVが当面主流となり、また国としては普及が遅れている商用EVの強化を進める方針です。
なおトヨタやスバル、マツダは電動化時代に沿った新たなエンジン技術の開発を明かしており、こうした動きからも目が離せません。