長距離バスには「謎の小部屋」が付いていることがあります。これはどのようなものなのでしょうか。
■まるでカプセルホテル!? 意外と快適な小部屋の内部
長距離バスには謎の「小部屋」がついているものがあります。
この小部屋はバスのどの位置にあり、どういった用途で利用されているのでしょうか。
長距離移動の手段として欠かせない高速バス。
特に夜間を走行する夜行バスは値段が安く抑えられるため、利用している人も多いでしょう。
なかにはトイレがついている車両もあり、他にも充電USBなど長距離移動に配慮した設備が備わっています。
そんな長距離バスですが、実は客が出入りできない特別な「小部屋」があることをご存知でしょうか。
場所はバスによって異なりますが、車内後方部に設置されているタイプと車内下部に設置されているものの大きく2種類があり、いずれも運転手が仮眠を取るためのスペースとして使用されています。
夜行バスなどの長距離便では、運転手は2人体制で走行しています。そのため、1人が運転をしている間、もう1人は仮眠室で身体を休めています。
では、この仮眠室の広さや内装はどのようになっているのでしょうか。
高速バスの運行を全国に手がけているWILLER EXPRESSでは、東京〜広島、東京〜岡山間を運行するバスの最後部に仮眠室を設けています。
広さは横70cm×縦200cm×高さ100cmで、ちょうど大人1人が寝れるくらいのスペースです。
室内には、枕や布団といった寝具類をはじめ、コンセントや読書灯、網ポケット、ドリンクホルダーが備わっており、ゆっくり過ごせるような設備が整えられています。また、冬場には電気毛布を用意しているようです。
加えて、運転手とすぐに連絡が取れるよう、受話器も設置されています。
このように、仮眠室のなかは決して広くはありませんが、それなりに設備は充実しているようです。
実際に利用している運転手たちからはどのような反響があるのでしょうか。
これについて、WILLERの担当者は次のように話しています。
「座席で休むよりも、身体をフラットにすることができるので、仮眠環境は比較的良いようです。
また、トランクルームの仮眠室と違って旅客と同じ環境で過ごすので、車内空調(環境)等を旅客目線で整えられ、また、イレギュラーが発生した場合に、より迅速な行動が可能になっています」
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しっかりと休憩を取れるよう配慮されているため、運転手たちからは好評のようです。
また、シーツ等のリネンは常に交換しており、常に清潔な状態を保っているとのこと。
エアコンの吹き出し口も備わっており、空調は客室と同じようになっています。
そのため、バス車内の温度調整にも柔軟に対応できるようになっています。
■仮眠室を使うときの交代基準って?過去の事故が教訓になっていた
2人体制でバスを運転する際に使用されている仮眠室ですが、運転手の交代基準はどのように定めているのでしょうか。
前出のWILLERの担当者は、次のように話しています。
「各種法令を参照し、運転手の連続運転可能時間をもとに、運行計画で予め定めている停留所や高速道路上の PA・SA等で交代を行います。高速道路走行時は概ね2時間毎に交代します」
長距離バスにおける交替運転手の配置基準や運転時間については、厚生労働省により表明されています。
夜間の走行の場合、合計の運転時間は原則9時間まで、実車距離は一運行原則400kmまでです。
連続運転時間は高速道路の実車運行区間で概ね2時間までと定められており、休憩時間は実車運転4時間ごとに合計30分以上となっています。
現行の基準は、2012年に起きた関越自動車道での高速ツアーバスをきっかけに改善されたものです。
この事故は運転手の居眠り運転が原因で、7人の死亡者を出しました。
その後、運行会社のずさんな管理が明らかとなり、社会的にバス運行の安全性が注目されるようになります。
これを受けて、乗合バス事業者が貸切バス事業者に運行業務を委託する高速ツアーバスが廃止され、乗合バス事業者が自社運行を行うことで業務の管理を一本化した高速乗り換えバスへ移行し、運転手の労働環境も見直されるようになりました。
運転手の休息をしっかりと確保し、体調管理を行うことは事故を防ぎ乗客の命を守るためにも重要なことです。
そのため、運転手が十分に休めるよう配慮した仮眠の存在は大きな役割を果たしているといえます。
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仮眠室は、運転手の健康を守り、安全な走行を実現するために欠かせない存在です。
長距離バスに乗るときには、 SAやPAエリアでの休憩時に運転手の動向を気にしてみると、仮眠室に入る瞬間を見ることができるかもしれません。