家電大手メーカーのシャープは2024年9月17日、EV(電気自動車)のコンセプトモデル「LDK+」を初披露しました。同社はなぜ今、EV市場に参入しようとしているのでしょうか。その理由について迫ります。
■シャープが開発、走る「リビング」とは
まさか、このタイミングでシャープがEV(電気自動車)市場に参入するとは。
家電大手メーカーのシャープが2024年9月6日、EVのコンセプトモデルに関する情報を公開し、そのニュースがネット上を駆け巡ったことで、ちょっと驚いたユーザーもいるでしょう。
初公開されたのは「LDK+(エルディーケープラス)」というミニバンのようなEVの姿です。
技術的には、シャープの親会社である台湾の鴻海(ホンハイ)科技集団(Foxconn)のEVプラットフォームをベースに、シャープが企画と開発を行ったとしています。
また自社工場を持たない、いわゆるファブレス事業のベンチャーで、京都を本拠とするフォロフライが協力したとのことです。
そんなコンセプトモデル「LDK+」の実車を、2024年9月17日から18日に東京国際フォーラム(千代田区)で開催された「シャープ テックデー 24 ・イノベーションショーケース」で見ることができました。
同車のスペックは未公開ですが、シャープ関係者によれば、その隣に展示されたSUVタイプのFoxconnグループEV「モデルC」とプラットフォームを共有しているとのこと。
モデルCの寸法は、全長4695mm×全幅1895mm×全高1625mm、ホイールベースは2920mm。5人乗りで重量は1935kgです。
モーター最大出力は172kW、最大トルクは340Nmで、電池容量は非公開ですが、満充電での航続距離は欧州のドライビングモードサイクル・NEDCで505kmをマーク。
加速性能は、停止状態から時速100キロまで約7秒です。
LDK+は、ホイールベースがモデルCと同じ2920mmで、「サイズ感としてはハイエース級」と表現しました。
車重が増えている分、モーター出力や搭載する電池容量を大きくする設定だと予想されます。
スライドドアを開いて車内を見ると、リビングルームのような空間が広がっていました。
さらに「リビングルームの拡張空間」という基本構想を実感できます。
車名の“LDK”とは、住宅における“リビング・ダイニング・キッチン”のことで、それに「プラス(拡張)」するという発想です。
車内では、シャープ独自のエッジAI技術である「CE-LLM(Communication Edge-LLM)」を活用したり、すでに自動車メーカーに納入実績があるディスプレイやドライバーモニタリングのシステムなど、シャープの知見をフル活用していることが分かります。
こうした各種技術については、会場内で各担当者から詳しい話を聞きました。
では、なぜシャープはこのタイミングでEV市場に参入するのでしょうか。
■EVはシャープの「再成長」戦略に組み込まれた「中核産業」のひとつに
実は、シャープが5月14日に実施公表した「2023年度決算 及び 中期経営方針」の中で、その可能性について触れています。
シャープは現在、事業再編の真っ只中にあり、2023年度決算での最終利益はディスプレイデバイスに関連する減損損失を計上したことにより、1499億円の赤字という状況です。
2024年度は、構造改革によって負のサイクルから抜け出すことに注力し、次の2025年から2027年を「再成長」期と位置付け、成長モデルの確立を目指すとしています。
成長モデルでは、シャープの「100年を超える歴史の中で培ってきた独自技術とブランド」に加えて、Foxconnの三大未来産業(EV、デジタルヘルス、ロボティクス)と三大コア技術(AI、半導体、次世代通信)の融合から生み出すとのこと。
その結果、シャープとして「AI・次世代通信・EV」の領域を中心に、Foxconnと連携して次世代のイノベーションを探索します。
つまり、シャープにとってのEVは、次世代シャープの中核事業だと言えるでしょう。
また、EVの量産時期については未発表です。
Foxconnといえば、アップルなどアメリカの大手メーカーのPC(パーソナルコンピュータ)のマザーボードや日米のゲーム機器、そしてスマートフォンの委託生産などによって急成長した企業。
EVについても自社で研究開発を進め、一時はアップルのEVモデルとして世間を賑わせた「アップルカー」を「Foxconnが生産するのではないか」という憶測が広がったものです。
そうした中、2021年にはFoxconn自社EVのコンセプトモデルが複数登場し、そうしたEVプラットフォーム技術を今回、シャープが活用するのです。
気になるのは、販売方法です。
現時点で販売に関する確定したアイディアはない模様ですが、一般論としては、韓国ヒョンデが日本で行っているようなオンライン販売や、中国BYDのような独自ディーラー網づくりが考えられるかもしれません。
筆者(桃田健史)の私見としては、シャープとしてすでに商品化している太陽光パネル、家電、V2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)などとEVが連携する、エネルギーマネージメント事業を、シャープ自身がサービサーになることがあり得ると思います。
そうしたエネルギーマネージメントのトータルサービスの中にEVを組み込むという、これまでの自動車メーカーが「いまひとつ深入りできていないビジネス領域」に、シャープの勝ち筋があるのかもしれません。