2024年9月21日から30日までの10日間「秋の全国交通安全運動」が行われ、9月30日には「交通事故死ゼロを目指す日」と定められています。そうしたなかで2023年の交通事故件数はピーク時よりも3分の1になっていますが、現在の安全運転への取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。
■昭和・平成は死者1万人台が当たり前の状況だった日本の交通事故発生件数
近年、クルマ側の進化、インフラの整備、人の意識変化など様々な要因によりピーク時よりも減りつつある日本での交通事故、では現在どのくらいの件数が発生しているのでしょうか。
またいま取り組まれている交通安全への施策にはどのようなものがあるのでしょうか。
警察庁交通局 がまとめた2023年の交通事故発生件数は、およそ30万件でした。
2000年代初頭は90万件台で推移していたことと比較すると、3分の1の件数となっています。
また、交通事故による死者数は、昭和・平成期には1万人台となることが珍しくありませんでしたが、2023年は2678人まで減っています。
このように状況が、過去と比べて大きく改善していますが、その裏にはさまざまな対策や制度の導入、さらに悲劇的なできごとがありました。
交通事故による死者が1万人を超えていたのは、1959〜1975年の間と1988〜1995年の間です。
逆にいえば、1976〜1987年の11年間は死者数が1万人を割り込んでおり、一時的な改善が見られました。
とはいえ、その間も8000人を超える数ではあったので大幅な改善とはいい難いですが、まずはなぜ死者1万人を下回る状況をつくり出せたのかを見てみましょう。
端的にいえば、「交通取り締まりの強化」が大きな要因です。
1960年、道路交通取締法が廃止され、代わりに道路交通法が制定されました。
道路交通取締法は日本の占領軍統治期にできた法律で、「取締」という名でありながら警察の権限を狭め ようとする占領軍側の意向が反映されたものです。
しかし、警察の権限が狭まった半面、車が普及し始めたことで交通事故が増え、そして交通事故による死者数が1万人台を超えることが当たり前の状況となってしまいました。
道路交通法の施行後、交通反則通告制度の新設(1967年)、点数による処分(1968年)など、改正ごとに取り締まりの制度が導入されています。こうした試みが、一時的とはいえ死者数を減らすことにつながりました。
なお、日清戦争時の日本側死者は2年間で約1万7000人でしたが、それより多いペースで死者が出る状況から、当時の交通状況は「交通戦争」と呼ばれました。
これから取り上げる1980〜1990年代も同様であるため、1960年代前後を「第一次交通戦争」、1990年前後を「第二次交通戦争」と区別することもあります。
1988年以降、再び死者数が1万人を超える状況となった理由の一つは、依然として車による交通が増加した点が挙げられます。
その上で、今度は法律ではなく警察のマンパワー不足が障害となりました。
「平成17年交通白書」では、当時の状況を「自動車交通が引き続き成長する一方で、国や地方公共団体が、交通事故の増加を抑止するために必要な、交通違反取締りを行う交通警察官の増員や交通安全施設等の整備等を推進するための予算を十分に措置することができなくなった」と説明されています。
実際、第二次交通戦争が始まった1988年 の全国の警察官(定員)は約22万人でしたが、死者1万人を割り込んだ1996年 には約23万人となり、現在 は約26万人まで増員されています。
また、この時期に普及し始めたエアバッグなど、安全運転を支援する仕組みが開発されたことも、事故が減っていった背景にあるでしょう。
■交通戦争は終わりながらも飲酒運転が次なる問題に…! いまトヨタなどが取り組む安全運転に関する活動とは
一方、第二次交通戦争の後、1999〜2006年にかけて、日本各地で飲酒運転 による交通事故で被害を受けた車の乗員が死亡するケースが相次ぎました。小さい子どもが亡くなったケースも少なくありません。
こうした悲劇に対しては、厳罰化で対応。2001年から現在まで、酒気帯び運転の基準値引き下げ、刑期・運転欠格期間の長期化などが行われてきました。
2013年には238件だった飲酒運転の死亡事故件数は、2023年には112件と半減しています。
交通事故による悲劇は、時代が進むとともに改善の傾向にありますが、ゼロになったわけではありません。
たとえ完全になくすことはできなくても、できるだけゼロに近づけるための、取り組みとして移動の楽しさの追求などモビリティによる社会づくりを目指す一般財団法人トヨタ・モビリティ財団の例を見ていきましょう。
同財団は、トヨタを中心にスズキ、マツダ、スバル、ダイハツ、日野の自動車メーカー、KDDIなどの通信事業者、三井住友海上や東京海上日動、あいおいニッセイ同和損保、損保ジャパンなどの保険会社など様々な企業が参画しています。
交通安全も活動の一つであり、人・クルマ・交通環境の「三位一体の対策」によって交通事故死傷者ゼロを追求しています。
具体的には「データ活用・危険地点の見える化」「高齢者安全運転支援」「児童への啓発」「自転車・二輪」など直面する課題毎に取り組みを行っています。
たとえばデータ活用における交通環境での対策では、警察や損害保険会社が持つ事故のデータやKDDIが保有する人流のデータなどを組み合わせることでデータ可視化による危険地点の把握、AIによるリスク予測と改善提案を行っています。
このほか、高齢者の運転診断、児童とのヒヤリハット地点共有や運転シミュレーションなども同財団の取り組みです。
ヒヤリハット地点の共有例では、参画している自治体の学校周辺の道路においてのデータを集めることで、一時停止違反が多い場所などを割り出し、児童やクルマなど双方への対策を行っています。
さらに自転車や二輪などでは同財団と警察庁が連携し、安全教育の充実に取り組む動きを見せています。
なお最近事故が多発している電動キックボードについても、同財団が安全に関する取り組みを行っていくようです。
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事故を減らしていくには、運転サポートシステムのさらなる進化が方法の一つとなるでしょう。
究極的には、完全自動運転の車の普及で人が介在しない状況になると、少なくとも死につながるような事故は格段に減らせそうです。
一方で、人が起こし人が被害に遭う事故を減らすには、生身の人間が考えコミュニケーションを図ることで、交通安全の啓蒙が促される側面もあります。
こうした取り組みは、前述のトヨタ・モビリティ財団に限らず国内外の様々な団体が行っています。