2022年1月に開催された「東京オートサロン2022」でスバルはコンセプトカー「STI E-RA CONCEPT」を出展し注目を集めました。最高出力1000馬力超えだという超スーパーマシンですが、一体どのようなクルマなのでしょうか。
■ヤマハの技術を採用したスバルの超スーパーマシン!
スバルは、2022年1月に開催された「東京オートサロン2022」にコンセプトカー「STI E-RA CONCEPT」を出展しました。
競技参戦を想定し、最高出力は1000馬力超えという超スーパーマシンです。どのような目的で製作されたのでしょうか。
2024年5月30日から6月2日にかけて、ドイツのサーキット「ニュルブルクリンク」で24時間耐久レースが開催されました。
メーカーとして日本から参戦したスバルは、「SP4T」クラスで優勝する快挙を成し遂げています。
参戦マシンは、市販のスポーツセダン「WRX S4」をベースとした「SUBARU WRX NBR CHALLENGE 2024」でした。
そんなスバルには、ニュル参戦用の“虎の子”が控えているといいます。
それが冒頭で紹介したSTI E-RA CONCEPT(以下、STI E-RA)です。
スバルのモータースポーツ部門を担うSTI(スバルテクニカインターナショナル)が手がけたモデルで、EV(電気自動車)のポテンシャルを最大限に発揮する「近未来モータースポーツEVコンセプト」だと説明しています。
スバルではすでに、EVのクロスオーバーSUV「ソルテラ」を市販化しています。
スバルらしくAWDをラインアップしており、前後2モーター式であることが特徴です。
そんなソルテラは日常を主眼に据えたEVですが、STI E-RAは1990年代の「グループCカー」を彷彿とさせるスタイリングを持つレーシングEVで、2023年以降にニュルブルクリンクでのラップタイム「6分40秒」に挑むことを最初の目標に設定しています。
四輪にそれぞれモーターを配置する4モーターAWDで、モーターを含めた駆動ユニットはヤマハ発動機が担当します。
ヤマハはこのためにモーター・インバーター・ギアボックスを統合し小型化した「E-Axle」を開発するといいます。
実はヤマハはそういったモビリティ向けに、現在電気モーターユニットの開発事業を開始しています。
4モーターAWDによる最高出力は800kW(1088ps)。4モーターを独立制御したトルクベクタリング機能も搭載し、これまでのスバル車では実現が困難であった走りの世界を目指すとのことです。
そんなSTI E-RAがレーシングカーのようなスタイリングをとっていることには理由があります。
将来のモータースポーツ車のレギュレーション「FIA E-GT」の規格を盛り込んでいるからです。
このスタイリングでAWDが実現できているのも、コンパクトな電動モーターがなせるワザと言えます。
■世界のメーカーが目指す「ニュル最速のEV」にスバルも挑戦!
STI E-RAが目標とするニュルブルクリンクでは、EVによるタイムアタック合戦の火蓋が切られています。
テスラ「モデルS」が2023年6月4日に7分25秒231という市販EV最速記録を樹立すると、続いてハイパーEVメーカーのリマックが同年8月に「ネヴェーラ」で7分05秒298を叩き出し、市販EV最速の座を得ました。
ちなみにネヴェーラの総合出力は2000psで、四輪全てにモーターを備えています。
ちなみにポルシェも「タイカン」でアタックをしており、2024年1月に7分07秒55というタイムを記録しています。
こうした世界の名だたるメーカーの記録を大きく更新する“6分40秒”という目標タイムの壁は、なかなかに高いと言えるでしょう。
前述の通り、STIは2023年以降にニュルのタイムアタックを目指すとしていましたが、2024年9月現在までSTI E-RAの更新情報はありません。
ただいっぽうで「開発を中止した」との発表もないので、いまも開発が続けられていると思われます。
その後の発表がない理由は、一体どこにあるのでしょう。
現在の技術で、総合1000psを発揮できるシステム自体を作ることは可能かもしれませんが、それに供給するエネルギー源が問題なのではないでしょうか。
1000psの高出力を発揮するシステムが、たとえば目標タイムの7分弱だけ持てばそれで良いというものでもなく、さらにコース上で前後左右にかかる強烈なGに耐えられるのかも大きな課題と考えられます。
障害となる主な要因としてまず予想されるのは「バッテリー」ではないでしょうか。
そんな重要なエネルギー源を、既存の技術であるリチウムイオンバッテリーではなく、次世代バッテリーとして現在も開発が進む最新技術の「全固体電池」搭載を前提としているとしたら、未発表な理由も納得がいきます。
スバルはトヨタ自動車の傘下ですが、そのトヨタは全固体電池を搭載したEVを2026年に発表するとリリースしており、スバルもそれを採用する可能性があります。
全固体電池は、現在主流の液体式リチウムイオンバッテリーよりも劣化が少なく、高温・低温にも耐えられ長寿命と言われています。
さらに充電時間が速く、設計時の形状の自由度も高いというメリットも持っています。
ただ“バカっ速”のEVを作るだけではなく、FIAの基準に準拠したハイパーEVを作ることが目標なら、全固体電池はレーシングEVと相性が良いと言えるでしょう。
耐久性・安全性が高いうえに充電時間も短いとなれば、レーシングカーとして実践的となり、それこそスバルが現在ワークス参戦中の国内レース「スーパー耐久シリーズ」で走らせることも不可能ではありません。
E-RAの進捗はまったく明らかにされていませんが、世界を驚かせる新世代EVとして開発中であることを願います。