さまざまなクルマが出展されてきた「東京モーターショー」は今年から「ジャパンモビリティショー」へと名称が変更となります。そんな東京モーターショーでも、バブル崩壊直後の1991年に出展された日産「TRI-X」を紹介します。
■日産による「フラッグシップクーペ」の夢…
コンセプトカーは次世代のモデルを象徴する、斬新かつ奇抜なものも多いですが、なかには登場に大きな期待がかかった現実的なモデルも多く存在します。
しかし、時代の流れやニーズの変化などから、その登場が“幻”と化したモデルもいくつかあります。そのひとつが日産「TRI-X(トライ エックス)」です。
TRI-Xは、1991年の第29回「東京モーターショー」で披露された2ドアクーペのコンセプトカーです。
1991年はソ連崩壊や湾岸戦争開戦など、世界情勢は不安定だったものの、日本ではバブル景気の末期でまだ活況を見せていました。
そんななか、1991年10月25日から11月8日まで幕張メッセ(千葉市美浜区)で第29回東京モーターショーが開催されました。
第29回では、史上はじめて来場者数が200万人を突破。水素やメタノールといった代替エネルギー車も多数登場し、課題を克服しつつあった電気自動車も注目されるなど、クルマ業界も活気がありました。
日産では、16台の参考出品車と17台の市販車、5台のコンセプトカーを展示。そのなかの1台がTRI-Xでした。
コンセプトは「環境や安全への対応と、クルマ本来の走る楽しさ、美しさ、快適さとの両立を追求して生まれたレスポンシブル・ラグジュアリークーペ」。
ボディサイズは全長4995mm×全幅1900mm×全高1350mmで、ホイールベースは2800mmと、大型ラグジュアリークーペらしい堂々たるスタイリングです。
エクステリアは日本独自の美的感覚を意識し、フラッグシップモデルらしい長く流麗な2ドアボディをまとっています。
フロントフェイスは低く丸みを帯び、細いスリットのグリルに切れ長のヘッドライトを採用。サイドはフロント下部からリア下部までキャラクターラインで結ばれ、豊かなラインを描く流麗なスタイリングです。
対してトランクは大きく独立させ、後部に向かって突き出た形となっており、スモークのテールランプを装着するなど、前後では異なる表情を演出しています。
室内は大人4人が長距離移動しても疲れないことを目指したといい、高級ソファのようなバケットタイプの本革シートを採用。
インテリアは上質なベージュを基調とし、後席まで続く大型センターコンソールに木目パネルを装備することで華やかさを感じさせるほか、インパネにはアナログ時計を備え、大人っぽく落ち着いた空間に仕上げています。
パワートレインは最高級セダン「プレジデント」や「インフィニティQ45」などに採用された4.5リッターV型8気筒DOHC「VH45DE型」をベースに、メタノール混合燃料に対応。
メタノール割合0~85%をカバーするなど、環境への配慮と320PS/6400rpmという十分なスペックも兼ね備えていました。
そして数多くの先進機能を搭載していたのもTRI-Xの特徴です。足回りには、前輪から得た情報をもとに路面状況を推定し、後輪の制御を行うプレビューアクティブサスペンションを備え、快適な乗り心地を実現。
インパネにはナビゲーションシステムやテレビ機能などが一体化されたマルチインフォテインメントシステムが設け、リア席にも独立ディスプレイを設けています。
メーターには、のちのヘッドアップディスプレイとなった3次元表示の「遠方結像電子メーター」やレーダーによる車間距離測定システム、さらには日本舞踊の所作からインスピレーションを受けた「動き演出ワイパー」など、美しさと先進性を追求した意欲的な新技術も取り入れられました。
デザインとしてはアバンギャルドであったものの、非常に現実的なパッケージングと当時のバブル景気も手伝い、日産による大型フラッグシップクーペとして大いに期待されましたが、翌年にバブルは崩壊。直接的な市販モデルは一切登場しませんでした。
しかし、先進装備の多くは現代においても同じ発想のもと、ブラッシュアップされ続けて採用されることになりました。
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東京モーターショーは昨年の2023年10月、コンセプトを一新し、クルマ業界の枠を超えたモビリティ全体の展示会「ジャパンモビリティショー」として生まれ変わりましたが、新時代を期待されるコンセプトモデルは引き続き、多数公開されています。
今年2024年には「ビジネス向け」イベントとしての開催ですが、今後もどのようなモデルが登場するのか、大いに期待したいところです。