ダイハツが販売していたコンパクトカー「ブーン」は手軽な価格が支持されていたベーシックモデル。しかしかつて、そんなブーンをホットに仕立てた過激なモデルがあったのです。
■めちゃくちゃ「硬派」なブーンがスゴかった
軽自動車を得意とするダイハツは、古くから軽自動車からステップアップするユーザーに向けて、コンパクトカーをラインナップしてきました。
そんなコンパクトカーのひとつとして2004年に登場した「ブーン」は、トヨタと共同開発されたクルマ。
トヨタブランドからは「パッソ」として販売され、軽からのステップアップだけでなく、その買いやすい価格からビジネスユーザーなどからも支持を集めたモデルでした。
3世代に渡って販売されたブーン/パッソは、残念ながら2023年に終売となってしまいましたが、実は初代にはとんでもなく辛口の「ホットモデル」が設定されていました。
それが「ブーンX4(クロスフォー)」なるモデルです。
2006年3月に追加されたブーンX4は、「ミラ」や「ストーリア」といったダイハツの車に歴々と設定されてきた、主にラリーやダートトライアルを主戦場に定めるモータースポーツベースモデル「X4」の名前を引き継ぐもの。
一般的なスポーツグレードは、その車種のイメージリーダー的な側面も持っているため、さまざまな装備が追加された上級グレードとして設定されることが多いですが、X4シリーズは違いました。
あくまで「モータースポーツベース車」ということで、速さに関係しない華美な装備などは極力廃したスパルタンなモデルだったのです。
その一方で、モータースポーツに必要な部分(レギュレーションで後から変更ができない部分)には惜しみなく技術を投入するという、“勝ち”にこだわった仕様となっていました。
ブーンX4も例に漏れず、駆動方式はフロントに機械式LSDを組み込んだフルタイム4WDとし、組み合わされるトランスミッションも、通常のブーンには存在しなかったフロア5速MTを搭載。
このトランスミッションも、完全に競技に照準を定めたギア比となっており、各ギアが非常にクロスしたもの。
最終減速比は5.545と、もはや軽トラック並みのローギアード(加速最重視のセッティング)となっており、5速での100km/h巡行時のエンジン回転数はなんと約4500回転。日常使いは「二の次」というものになっていたのです。
そして極めつけが搭載エンジンです。
こちらも通常のブーンには搭載されていない直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボの936ccの排気量を持つ「KJ-VET」型を搭載。このエンジンは1リッターにも満たない排気量ながら、133PSという最高出力を持つもの。
この、やや中途半端な排気量は、JAF(日本自動車連盟)の公認競技に出場する際、ターボ車には排気量に「1.7」の係数を掛けるというレギュレーションがあるため、1.6リッター自然吸気エンジン搭載クラスに出場できるよう、逆算して導き出されたものなのでした。
エクステリアについてはブーンのドレスアップグレード「カスタム」に採用されていた形状の前後バンパーが備わり、ボンネットにはインタークーラーを冷やすためのダクトが設けられていたのが最大の差異。
あとはリアドア下部にさりげなく貼られた「X4」のデカールくらいしか違いはありませんでした。
なお、ブーンX4にはベースグレードと乗用も視野に入れた「ハイグレードパック」の2種類を設定。
前者は本気のモータースポーツベース車となっており、キーレスや電動格納ドアミラーなどはもちろん、エアコンすら備わらないもので、ドアサッシのブラックアウトすらされない硬派中の硬派な仕様となっていました。
そんなブーンX4の気になる中古車の状況は、モータースポーツベース車ということもあってか全国でも10台前後と希少となっており、価格も100万円を切るものから250万円超のものまで幅広くなっています。
走行距離も多いものから少ないものまでさまざまですが、モータースポーツに供されていた車両は走行距離以上に各部にストレスがかかっているものも少なくないので、価格や距離だけで判断せず、実車の状態をしっかり確認してから購入を検討した方がよさそうです。