かつてトヨタは「ミニバン」以上に大人数が乗れる本格四輪駆動車を展開していました。しかも、そのモデルは特殊すぎる成り立ちだったのです。一体どのようなクルマだったのでしょうか。
■シャシは「軍用車」 今でも少数が残存
寒冷地や雪国で根強い人気を持つ四輪駆動車。四駆、AWD、4WDとも呼ばれています。そんな4WDの中には、ミニバンや1BOX型のワゴンなど、ピープルムーバーとしての能力が高いモデルも存在します。
とはいえ、運べる人数はドライバーを含めて3列シートのSUVで最大8人、4列シートを備えたトヨタ「ハイエース」や日産「キャラバン」で10人ほど。それより上の「ハイエース コミューター」でも、14人が限度です。
ところが、それをさらに上回る「めちゃ大人数乗りの4WD」があります。
それが「4WDのマイクロバス」です。
マイクロバスといえば、約30人まで運べる輸送力、全長約7m以下・全幅約2mという隘路でも使いやすい大きさから、旅館や企業の送迎、コミュニティバス、ロケバスから個人所有のキャンピングカーなど、様々な用途で用いられています。
2024年10月現在、4WDのマイクロバスとしては、三菱ふそうのマイクロバス「ローザ」に国内メーカーで唯一4WDが設定されています。ローザ4WDの最低地上高は2WDよりも50mm高いものの、外観上での大きな差は見られません。
しかしかつては、ローザ以外にもトヨタ「コースター」や日産「シビリアン」といった29人乗り程度のマイクロバスにも4WDが用意されていました。
この両者は見るからに地上高があり、「四駆だ!」という雰囲気を発散していました。
なかでもコースター4WDの地上高は違和感があるほど高かったものでしたが、その理由には、特殊すぎる成り立ちが関係していました。
コースターは1969年に初代が誕生後、1982年に2代目、1992年に3代目へとフルモデルチェンジを行い、現行型は2017年に発売された4代目が担っています。
そのコースターに初めて4WDが設定されていたのは、1995年。3代目モデルに追加するかたちで登場したのですが、驚くことにコースターの4WDは「高機動車」のシャシを使用していました。
1990年代前半、トヨタは陸上自衛隊用の人員輸送車「高機動車」を開発・納入していました。
高機動車米軍の「ハンヴィー」(HMMWV、もしくはHumvee)およびその民生版「ハマー」とよく似た4WD車で、高い悪路走破性を備え、過酷な使用に耐える強靭なシャシを用いていたのです。
高機動車用シャシに備わっていた、逆位相式の四輪操舵システム(4WS)や副変速機、リダクションハブはコースター4WDには搭載されませんでしたが、自衛隊での使用を考慮した4WDのシャシは、ある意味「究極の4WD」といえるもの。それがマイクロバスに採用されていたのですから驚きです。
その一方で、このシャシを用いて構築したコースター4WDは、2WDモデルよりもグンと地上高と床が高くなっていました。そのため乗降性を確保する必要が生じ、折戸式の乗降扉を下方向に延長するとともに、後付けのステップも追加していました。
足回りも高機動車用シャシから流用しており、通常ではリーフリジッド式のリアサスペンションがダブルウィッシュボーン式に、リアタイヤがダブルではなくシングル式だったことも、コースター4WDの大きな特徴です。
しかしその後、コストダウンと汎用度を高めるため、リアサスペンションを2WDと同じリーフリジッド式、リアタイヤも215/70R17.5という標準サイズをダブル装着する一般的な方法に変更しています。
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自衛隊でも使われた高機動車のシャシを流用…という特殊すぎるマイクロバスだったコースター4WDですが、2003年に販売を終了しています。
生産年数が短く、販売終了から20年以上が経ったコースター4WDは、いまや貴重な存在となりつつあります。
しかしその成り立ちや悪路走破性から、現在でも雪深いエリアなどでは送迎に使用している旅館・ホテルがあると思われます。
もしコースター4WDの姿を見かけたら、思い出に残すとよいかもしれません。