トヨタの最高峰モデルである「センチュリー」のデザインと機能には、日本特有の美学と工夫が随所に反映されています。なかでも2代目センチュリーでは、車内の細部にわたって日本的な設計思想を色濃く採用していました。一体どのようなものなのでしょうか。
■どのメーカーの最高級モデルにもない「漢字内装」とは?
トヨタ「センチュリー」はショーファーカーとして、特に日本国内においては、オーナーが後部座席でくつろぎながら移動するためのクルマとして、そのラグジュアリーな体験が提供されてきました。
トヨタによれば、センチュリーは「日本人の感性の高さを象徴する唯一無二のクルマ」とされ、同車のデザインと機能には、これまでの歴史を通じて日本特有の美学と工夫が随所に反映されています。
センチュリーの歴史のなかでも、特に注目すべきは1997年に登場した2代目モデルです。
このモデルは、日本の自動車史において画期的なものでした。
例えば、国産車としては初めてかつ唯一となる5リッターV型12気筒エンジンを搭載し、パワフルかつ静粛な走りを実現。
しかし、この2代目センチュリーの魅力はエンジン性能だけではなく、車内の細部にわたる日本的な設計思想にもあります。
車内の物理スイッチには、空調やオーディオに関する多くの機能が漢字で表記されていました。
たとえば、空調のスイッチには「入/切」「自動」「前」「後」などが記され、オーディオには「電源・音量」「音場」「音質」「選曲」など、詳細な漢字表記が並んでいました。
運転席側のパワーウインドウスイッチにまで「運転席」「助手席」「後席」と明確な漢字が使われていたため、日本車らしさが際立っていました。
この2代目センチュリーの物理スイッチは、当時の他の日本車や海外の車両と比べても非常にユニークな存在でした。
中国車などでもここまで漢字表記を徹底している車は少なく、センチュリーはその文化的背景を強調した設計が特徴的だったのです。
しかし、2018年に登場した3代目センチュリーでは、この物理スイッチにおける漢字表記は姿を消しました。
現在のモデルでは、空調やオーディオのスイッチはすべて英語表記や国際的な図記号で統一されています。
「温度」は「TEMP」、「自動」は「AUTO」、「切」は「OFF」というように、国際的に通用するシンプルな表記に変更されました。
これは、センチュリーが日本国内だけでなく、グローバルな視点でデザインされ、世界中のユーザーに対応するための一環と考えられます。
一方で、トヨタはセンチュリーの「日本らしさ」を完全に放棄してはいません。
特に、ボディカラーの名前には依然として日本独特の漢字表記が用いられています。初代センチュリーから続くこの伝統は、「神威(かむい)=エターナルブラック」のように、色に特別な意味を持たせる形で息づいています。
くわえて2023年に登場したセンチュリーのSUVモデルでも、ボディカラーには「鳳凰(ほうおう)」や「鶴見(つるみ)」といった日本的な名前が採用され、クルマ体に日本の美意識が宿っています。
このようにトヨタのセンチュリーは、単なる移動手段ではなく、日本の文化、技術、そして美意識を凝縮した1台です。
2代目モデルの漢字表記に代表されるような細部へのこだわりや、3代目モデルでの国際化に伴うデザイン変更は、センチュリーが常に進化し続けている証拠です。
そして、センチュリーSUVは、従来のラグジュアリーカー市場を超えた新たなターゲット層へのアプローチを示唆しています。
長い歴史の中で、日本車の象徴としての地位を確立してきたセンチュリーは、今後もその独自性を守りながら、時代の変化に対応し、さらなる進化を遂げることでしょう。