レクサスが2022年8月に発表した「IS500 F SPORT Performance」。現代では珍しい5リッターV型8気筒エンジンを搭載したハイパフォーマンスセダンの実力はどれほどのものなのでしょうか。岡本幸一郎氏がレポートします。
■レクサス「IS500」の実力は?
米国では2024年10月4日に、最新の2025年モデルが発表されたレクサス「IS」。日本においてもレクサスの中核モデルとなっています。
中でもハイパフォーマンスモデルとなる「IS500F SPORT PERFORMANCE(以下IS500)」は、気になる人も少なくないようです。
IS500の最大のポイントはエンジンです。5リッターという排気量の大きな自然吸気V型8気筒エンジンを搭載するクルマは、いまや世界中をみわたしても非常に貴重になってきました。
それを比較的コンパクトな車体に積んだ、後輪駆動のスポーツセダンがIS500です。
世の中どれだけエコの時代になっても、やっぱり人というのは本能的にこうしたクルマに惹かれてしまうようです。
「2UR-GSE」という型式のこのV8エンジンは、いくつかの車種に搭載されていますが、IS50では最高出力が481ps/7100rpm、最大トルクが535Nm(54.6 kgm)/4800rpmというスペックとなっています。
ボア×ストロークは94.0mm×89.5mmとストロークがやや短く、燃料噴射には直噴とポート噴射を併用した「D4-S」を採用しているのも特徴で、7000rpmを超えて最高出力を発生する高回転型の性格が与えられています。
ご参考まで、「UR」という型式のV8エンジンは、かねてよりトヨタとレクサスの上級機種に搭載されてきました。
「2UR」では排気量が5リッターとなりますが、従来型のレクサス「LS」等に搭載された効率重視の「2UR-FSE」に対し、IS500の2UR-GSEはパフォーマンスを追求した高出力タイプと位置付けられており、ヤマハが開発を担当しています。
そんな2UR-FSEが積まれたのは、レクサスがBMWのMモデルやメルセデスのAMG、アウディのRSらに対抗するために送り出したFモデルの「IS F」が最初で、2007年末のことです。
当時は同じ頃に登場した日産「GT-R」とともに大いに話題となったことを思い出します。
その後はしばらく間があいて、2UR-GSE型は2014年の「RC F」と翌2015年の「GS F」に、さらに2017年の「LC」にも搭載されました。
ISにもなんらかの形で搭載されるものと思われていましたが、2013年に現行型になってそれなりに時間が経過した2022年8月、「IS」の頂点に立つモデルとして追加されました。
「IS F」ではなく、「IS F SPORT」のパワートレーンを強化したハイパフォーマンスモデルという位置づけで出てきたのは少々意外でしたが、たしかにFシリーズとは差別化されています。
それでもFシリーズと同じ心臓を持つわけですから、タダモノではありません。まずはエンジンを始動するときからして、すでにこのクルマは特別感があります。
そのままアイドリング状態でも、いかにも大排気量のV8らしい迫力のあるサウンド。これから体験できるであろう特別な世界に胸がふくらみます。
走り出すと、1000rpm台や2000rpm台の低回転域でも、マルチシリンダーならではの奥ゆかしい響きが感じられます。低~中速域のトルクではターボ付きにはかないませんが、排気量が大きいので、ものたりなさは感じません。
リニアなレスポンスは自然吸気の強みです。ごくふつうに走っていても、そのドライバビリティとサウンドにホレボレします。
アクセルを踏み込んだときの、トップエンドにかけて伸びやかな吹け上がりもたまりません。回転上昇とともに高まるサウンドと、刺激的な加速フィールを堪能することができます。
ただし、同じエンジンを搭載する他のモデルには、吸気サウンドクリエーターや、原音と調整音でサウンドメイキングを行なうアクティブサウンドコントロールや、こもり音を抑えるアクティブノイズコントロールなどが搭載されていて、それはそれでよい仕事をしてくれていますが、IS500は、演出的な要素はなく、エンジンの“素”のよさを味わえるようにされている点が異なります。
8速のトルコンATが組み合わされているのもポイントです。DCTと遜色ないほど素早いシフトチェンジやダイレクト感のある走りを実現していながら、DCTのようなクセもなく、なによりトラブルの不安も圧倒的に小さいので、誰でも高性能を手軽に味わうことができます。レクサスがトルコンATにこだわる理由がよくわかります。
足まわりにもスプリングやAVS(可変ダンパー)、電動パワステ、ブレーキなどなどひととおり強化されていて、パフォーマンスダンパーがフロントだけでなくリアにも装着されています。トルセンLSDも搭載されています。
ドライブフィールは、現行ISのデザインが最新版のようになった2020年のマイナーチェンジで洗練度が深まったことを思うと、IS500はどちらかというと荒削りな印象を受けるのですが、そこがまたいいのです。
このエンジンフィールによく似合っていて、あえてそのようにした印象を受けます。それにこの足まわりは高速コーナーをちょっと攻め気味に走ると実に案配がよくて、気持ちよく駆け抜けていけます。
大きく膨らんだボンネットフードや各部の凝ったデコレーションなど、内外装もひと目みてわかるよう特別に仕立てられていて、存在感をアピールしています。
そんな中でもIS500の最大の魅力は、やはりエンジンにあります。このドライブフィールをひとたび味わってしまうと、もうやみつきです。
大排気量の自然吸気エンジンというのはよいものだということをあらためて思い知らされます。この味わい深い世界を、ぜひともできるだけ長く残してくれるように願うばかりです。