レクサス新型「LBX MORIZO RR」を公道で試乗した印象はどうだったのでしょうか。
■LBXのすごいヤツ…その名は「MORIZO RR」
レクサスは、「東京オートサロン2024」で公開した新型「LBX MORIZO RR」を2024年7月18日に正式発表しています。
まもなくユーザーの手元に届くであろうタイミングで、一足早く公道でその魅力を体感してみました。
レクサスの末っ子ながらも兄貴分を超えるこだわり満載のLBXに追加された「MORIZO RR」はGRヤリス譲りのパワートレイン/ドライブトレインを活用したスポーツモデルです。
開発ドライバーの佐々木雅弘選手は、「ターゲットはもちろん『運転好き』ですが、その中でも『年に1回サーキットを楽しむ』、『あまり遠乗りはしない』ような人を意識しました。例えば、東京から温泉に行く時に東名ではなく箱根を走っていきたくようなイメージ。ただ、年に1回のサーキットでは『GRヤリスに勝てるかも?』と思わせるポテンシャルは絶対必要だと考えました」と語っています。
そんなMORIZO RR。今回の試乗ステージは一般道です。富士スピードウェイホテルを起点に街中~ワインディング~高速道路を走行してきました。
エクステリアはコンパクトサイズながらも堂々としたスタイルはそのままに、よりワイドで低重心、そして嫌味のないアグレッシブさがプラスされています。
ただ、 エクステリアはコンパクトサイズながらも堂々としたスタイルはそのままに、よりワイドで低重心、そして嫌味のないアグレッシブさがプラスされています。
ただ、サイドを見るとカラード化されたロッカーモールの影響で、明るめのボディカラーだとピアノブラックのドアモールが主張しすぎて安っぽく感じてしまうのが残念な所です。個人的にはロッカーモールはブラックで良かったと思います。
インテリアは専用メーター表示、ディンプル加工のステアリング/シフトレバー、スポーツシート、シフトレバー後ろのスイッチ(スポーツモード/AWDモード切替)、アルミペダルなどによりスポーツ仕立てです。
せめてメーター周りは特別なモデルらしい“色気”や“遊びゴコロ”が欲しかったです。更に言うとブラック/レッドのインテリアコーディネイトは定番すぎて面白味がないのも。
個人的には独自のコーディネイトが可能な「ビスポークビルド」をおススメします。
■さて…これからは試乗に! 富士周辺で走った印象は?
では、走りはどうでしょうか。
パワートレインは1.6Lターボ(G16E-GTS)で304ps/400Nmのパフォーマンスも含めてハードはGRヤリスと同じですが、実際に乗ると3気筒“感”は少なめです。
これは高減衰タイプのマスチックシーラー(ルーフ)や塗布型制振剤(リア)、不織布基材(フェンダー)、吸音材(エンジンアンダーカバー)の採用による遮音性の高さに加えて、アクティブサウンドコントロール(ASC)の採用が大きいです。
ちなみにASCは3段階の調整が可能で、「大」は6気筒っぽい勇ましいサウンド、「中」は生音と疑似音のバランスがちょうどいい感じです。
個人的には走るシチュエーションに合わせて気軽に変更させたい所ですが、その設定が階層の深い所で気軽に変更できないのは残念な部分。
更に欲を言えば好みの音をダウンロードしてサウンドチューニングできると楽しみは増えると思います。
トランスミッションは8DATとレクサス国内モデル初採用の6速MTも用意。キャラクター的には間違いなく8速DATですが、MTは予想を大きく超える約3割のユーザーがセレクトしていると聞きます。
8速DATのハードはGRヤリスと同じですが制御はMORIZO RR専用となっています。
実際に走らせるとトルコンが発進時のターボラグをカバー、シフトスピードより滑らかさを重視したシフト制御、そしてGRヤリスよりもローギアードなファイナル採用も相まって、「パワフルよりもトルクフル」、「野性味よりもお上品」なエンジン特性に感じました。
ただし、スポーツモードを選択すると電光石火のシフトアップ/ダウンやシフト感が増すなど、性格は一転します。
6速MTはGRヤリスに対してやや軽めのシフト節度感で、素早いシフト操作時は正確性が光るが、ゆっくりシフト操作時にはシットリ感とメリハリ感が上手にバランスさせたフィール。
シフトダウン時に回転を合わせてくれるiMTは進化型GRヤリス同様に「クルマに委ねてもいいよね」と思うくらい優秀な制御になっていますが、OFFにもできるのでムダを楽しむ事、更にはiMTに負けない回転合わせの特訓も可能です。
フットワークはスポーツモデルにしては軽めの設定のステア系はフリクションが少なく雑味のない操舵フィールで、直結感の高さと微小なコントロール性はピカイチ。
直進時は小さいクルマとは思えないくらい重厚・ドッシリした印象で、AT車はPDAの操舵支援機能も相まってステアリングに軽く手を添えているだけでビシーッと真っすぐ走ってくれる安定性にも驚きます。
ハンドリングは切り始めからノーズがスッとインを向く応答、正確なクルマの動き、4つのタイヤを活かす綺麗な旋回姿勢、粘りを感じるタイヤのグリップ感と言った基本的な部分はGRヤリス譲りですが、大きな違いは全てにおいて意図的な“間”と“穏やかさ”が備えられている事でしょう。
駆動方式はGRヤリス譲りの電子制御多板クラッチ式4WDですが、感覚的には「力づくで曲げる」ではなく「滑らかに曲がる」制御になっています。
ちなみにGRヤリスはコンペティションマシンのため短時間で旋回を完結させる無駄を削いだハンドリングが特徴ですが、MORIZO RRはそこに時間(と言ってもごく僅かですが)をかけて自然かつ滑らかに旋回させようとしています。
ロール量もGRヤリスよりも大きめですが、そのロールをゆっくりかつ繊細にコントロールさせてサスを上手に沈み込ませながら旋回しますが、一般道ではその時のコーナリング時のクルマの動きとタイヤのグリップ感がドンピシャです。
このように機敏すぎず、でも鈍感ではない絶妙なさじ加減でバランスが取れたハンドリングなので、走らせていて「清々しさ」すら感じたほどです。
この辺りの印象を佐々木選手に伝えると、「様々な要因がありますが、やはり『基本に忠実』な事ですね。具体的にはバンプステアをできるだけさせない、フロントロアアームに熱硬化樹脂を塗布した減衰構造(EEDS)の採用、リアのバネレートを上げた事などが大きいです。これらはこれまでのトヨタ/レクサスではやれなかった事ばかりですが、もっといいクルマにするためには絶対やるべきだと思いました」と教えてくれました。
快適性はバネ/ダンパー共にノーマルのLBXに対してかなりハードな設定になっていますが、体感的には「ちょっと引き締められたくらい」と言ったレベルです。
確かに路面からの入力は大小含めてそれなりに拾うのですが、不思議な事にその振動・ショックが不快ではなく、むしろ心地よくすら感じました。
恐らく、「乗り心地=硬い/柔らかい」と言う単純なモノではなく、入力をどう分散させ人間が不快に感じさせない波長するための絶妙なバランスが成り立っているのでしょう。
具体的には。基本的はバネでバランスを取りショックは調整のみ、サスの動きは圧側/伸び側に代わる瞬間の繋がりを綿密に行ないながらチューニングを実施。
その結果、走りと快適性のバランスは電子制御ダンパー並みと言っていいレベルだと感じました。
もちろんアクセルを踏めばハイパフォーマンスを感じますが、それよりも普通に走っている時の心地よさ/気持ち良さが格段に高いレベルだと感じました。
他のメーカーのキャッチを借りると、「駆け抜ける喜び」だけでなく「駆け抜けない喜び」が備わっています。
ちなみにMTとATでは車両重量が30kg違いますが(主に前軸重)、乗り比べると軽快な動きと振動収束が素早いMT、重厚な動きで振動収束が穏やかなATと言う違いがあります。
個人的にはMORIZO RRのキャラクター的にはATのほうが間違いなくマッチしていますが、MTは特にこだわりがある人が選択する事を考えると、ちょっとヤンチャに感じる確信犯的なセットなのでしょう。
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MORIZO RRは、「高性能なのは当たり前」、「速さと快適性の完璧なバランス」、「走るステージを選ばない」、「その実力をあからさまに主張しない」、「パフォーマンスを余裕に使う」と言った特徴を持った最強のロードカーだと感じました。
そして筆者はここにこそ、このモデルが「MORIZO RR」と名付けられた理由があると思っています。
豊田章男氏は無駄の徹底的排除の思想とつくり方の合理性を追い求め、生産全般をその思想で貫きシステム化した「トヨタ生産方式(TPS)」を徹底しています。
そんなムダを無くす権化(ごんげ)の豊田氏ですが、その一方でクルマ好きの“モリゾウ”と言う顔もあります。
かつてモリゾウは豊田章男を隠すために使っていましたが、今は豊田章男の“個性”を出す役割に変わっています。
その個性とはズバリ「クルマ大好き、運転大好き、モータースポーツ大好き」ですが、その全てをリアルに凝縮させたモデルがMORIZO RRと言うわけです。
ちなみに佐々木選手は「このモデルは何も知らずに乗って『何これ? 超いいじゃん!』 と言ってもらえるようなクルマにしたかった」と語っていますが、それは元マスタードライバーの成瀬弘氏の「このクルマ、もう1回乗りたいなと直感的に思ってもらえる事が理想」と同じでビックリしました。
だからこそ、MORIZO RRは数値ではない価値が引き立っているのではないかと思っています。
チーフエンジニアの遠藤邦彦氏は、「遊びゴコロ満載、無駄もたくさんありますが、それを楽しむと言う贅沢を味わえるクルマこそが、真のラグジュアリーだと思っています」と語っていますが、まさにそういう事なのです。